2013/11/13

情報通信分野における国際貢献 3 KDDI財団による海外人材育成

KDDI財団の国際協力事業についてのレポート。第3回は「海外人材育成」を取り上げる。

海外人材育成とは

前回までレポートしてきたデジタルデバイド解消プロジェクトと、海外コンサルティングは、KDDI財団の技術者が海外の途上国に出向いて、さまざまな支援を行うものだった。それに対して、今回紹介する海外人材育成は、開発途上国から日本に人を招き、ICTの最先端の知識を広めることで母国の経済発展に貢献する人材を育てる取り組みである。

異文化の海外に出向くのも大変だが、さまざまな文化を持つ人々が日本に集まる海外人材育成は、難しさと同時に、独特の面白さも兼ね備えているという。KDDIの前身の一つであるKDD時代から50年以上続く、伝統ある海外人材育成の活動内容に迫ってみよう。

最先端のICT知識を研修

海外人材育成事業は、APT(アジア・太平洋電気通信共同体)が主催し、アジア太平洋地域を対象とするものと、JICA(国際協力機構)が主催し、アフリカなど世界中の広い地域を対象とするものがある。ここではAPT主催分について、KDDI財団でどのような研修が行われているのか、近年の代表的な3つのコースを紹介する。

(1)ルーラル(過疎)地域向けの小規模通信
近年、開発途上国では、首都などの都市部のICT環境は急速に整備されており、情報量で先進国にも劣らないこともある。だがその一方で、ルーラル地域でのICTの普及は著しく遅れているのが現状だ。こうした途上国内部におけるデジタルデバイド解消に向けて、最小限の費用で設置可能な小規模通信について教える講座だ。第1回のレポートで紹介した「デジタルデバイド解消プロジェクト」ともリンクする内容であり、KDDI財団のプロジェクトを実際にハンドリングしているメンバーが、現地の経験に基づいた生きた講義を行うため、評判も上々である。

(2)モバイル通信技術とサービス
モバイル通信といえば、これまでは携帯電話が主な対象であり、通信の主役も音声通話であった。しかし、現代においては LTEやWiMAXなどの超高速なモバイル通信技術が発達し、モバイル通信でもインターネット接続を利用して大容量のデータ通信が行われるようになっている。その傾向は開発途上国でも同様であり、また、ルーラル地域においては、低コストでインターネットを提供できる技術としても注目されている。講師にはKDDIでモバイル通信の開発等に携わる技術者を揃え、トップクラスのモバイル技術が教えられている。

(3)ブロードバンド通信のためのサイバーセキュリティー政策と技術
セキュリティー対策の技術は日進月歩で進化しており、ある意味、ICTの知識の中でも最先端中の最先端といえる。開発途上国では、以前はセキュリティーよりも、まずはインターネットの導入をという風潮が強かったが、近年では安全かつ安定したサービス利用の大前提ともなる最新のセキュリティー対策技術に注目が集まっていることもあり、タイムリーなテーマを取り上げたコースである。

研修への参加者たち

最先端のICT研修に実際に参加しているのは、どのような人たちなのだろうか。国別では、以前はタイが最も多く、マレーシア、ネパールが続いていたが、最近では、太平洋諸国からの参加者も増えている。参加者は、若手官僚などの政府関係者や通信会社の幹部候補生など各国のエリートが多く、その国のICT産業の将来を担うであろう意欲的な人たちばかりである。

参加者たちの滞在中の過ごし方には、この十数年で変化が生じているという。二週間の研修期間中、彼らには滞在中の生活費としていくばくかの日当が支払われるのだが、昔の研修生たちは日当を極力使わないようにして自国へ持ち帰るか、おみやげの購入資金などに充てていた。今も「おみやげの購入資金」は外せないが、安くて美味しいランチを探して食べに行ったり、夜は飲みに繰り出すことも増えているようだ。研修生がお金を出し合って講師をランチに招待する、という泣かせるエピソードもあった。

昔に比べて少しゆとりのある研修生たち。しかし、研修に臨む姿勢は今も昔も変わらず、実に積極的だという。彼らはそれぞれ自分の国が抱える問題を把握しており、それを解決する方策を見いだそうと真剣だ。そのため、ときには研修の趣旨から外れるような質問もバンバン飛んでくるという。時間も限られているので質問のすべてに答えるというわけにもいかないが、貪欲なまでに積極的な彼らの姿勢には、担当講師もやりがいを感じずにはいられないということだ。

海外人材育成の成果

KDDI財団の海外人材育成事業は、KDDIの前身の一つであるKDD時代の1957年から開始され、研修を受けた人の数は述べ5700人、国別では実に144カ国を数える。では、過去の研修生たちは現在どうしているのだろうか。

KDDIにビジネスで来日した、ある国の通信事業者の重役から、「自分は若いころに日本のKDDの講座で学んだことがある」といった話が出ることは少なくないという。また、他のプロジェクトでKDDI財団のスタッフが海外に出た際に、現地政府機関のICT担当者が、かつて日本でKDDの研修を受けた人だった、ということもあるという。そして現在は、Facebookなどを利用することで、いつまでも強い絆で結ばれた「研修仲間」でいられるように、研修生のその後の活躍をフォローし、双方向での情報交換が行える場をつくっている。

研修生たちにとって、日本のKDDIで学んだという実績は、彼らのキャリアにおいて大きなステータスとなっている。そして彼らがそれぞれの国のICTをリードする存在となったとき、日本とその国との間の絆はいっそう強くなることだろう。海外人材育成とは、未来への投資、夢のある大きなプロジェクトなのである。

特集: 情報通信分野における国際貢献

取材・文:宮本橘

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