2013/11/11

情報通信分野における国際貢献 1 KDDI財団のデジタルデバイド解消プロジェクト

公益財団法人KDDI財団は、「助成・援助事業」と「国際協力事業」を2本の大きな柱として、世界の隅々、全ての人々に情報通信の恩恵が行き渡ることを目指した事業を行っている。

その中で、国際通信を通じて国際社会の発展に貢献すべく行っている国際協力事業について、3回に分けて紹介する。1回目は、「デジタルデバイド解消プロジェクト」についてレポートする。


デジタルデバイド解消プロジェクトとは

デジタルデバイド(情報格差)とは、ICT(情報通信技術)を容易に利用できる者と、そうでない者との間に、待遇や貧富、さらには発展の機会などに格差が生じることを指している。例えば、ICTを容易に利用できる者は、多くの情報を利用して裕福になり、一方でICTを利用できない者は、情報が得られない状態から脱却することが難しく、ICTを利用できる者との格差が広がる一方になるということだ。

ICTを利用できない理由には、個人的なものから地域的なものまでさまざまな要因があるが、中でも開発途上国は、技術的、経済的な理由から先進国との間に大きな格差が生じている。KDDI財団では、国際協力事業の一環として、こうした途上国の人々と連携して、デジタルデバイドの解消に向けたプロジェクトを行っている。

ブータン王国でのプロジェクト

プロジェクトスタッフの大沢潤一(左)と内山洋祐

デジタルデバイド解消プロジェクトでは、これまでにマレーシア、ベトナム、カンボジア、フィリピンなど主にAPT(アジア・太平洋電気通信共同体)加盟国を中心に多くの活動実績がある。今回は最新の活動実績のひとつとして、2011年に開始したブータン王国でのプロジェクトについて、プロジェクトスタッフの内山洋祐と大沢潤一に話を聞いた。

ブータンは、農業を主な産業とするインドと中国の大国に挟まれたヒマラヤの小国で、2011年に現在の国王が新婚旅行の途中で日本を訪問したことでも馴染みが深い。プロジェクトの開始時にICTが導入されていたのは首都のティンプーなど一部の都市であったが、国家プロジェクトとして全土にブロードバンド網を敷設する目標が立てられており、電力網に併設する形で、光ケーブルによる基幹ネットワークの敷設が進んでいた。問題は基幹ネットワークから、ルーラル地域までどうやってネットワークを構築し運用するかである。そのためKDDI財団では、WiMAXなどの無線技術を利用して各地方都市や集落までのネットワーク構築を支援するプロジェクトを行った。

プロジェクトの最終的な目的

パソコンの使い方を教えるブータンの通信省職員 =ブータン・ウナ村

現地に通信機材を持ち込んで設置し、ある地域にインターネットを開通するだけなら、さほど難しいことではないだろう。だが、それではデジタルデバイドの解消にはつながらないという。なぜなら、KDDI財団が支援してインターネットを開通させたとしても、その後ずっと面倒を見続けるわけにはいかないからだ。現地の通信会社が自力でインターネットサービスを継続的、発展的に運営できるようになって、初めてデジタルデバイド解消というプロジェクトの目的が達成されるのである。そのためにプロジェクトスタッフが支援する内容は実に多岐にわたる。

まず、サービスを構築するための機器の選定がある。現地の実情にマッチした性能を持ちつつ、できるだけ低予算で入手し、運用していける機器を選ばなければいけない。そして、せっかくサービスが提供されても、料金が高すぎれば利用者が増えない。利用者が増えなければサービスを継続することは難しくなる。そのため、サービスの利用料金の設定にもアドバイスをし、利用しやすいサービスが提供されるように配慮するのだ。

さらには、サービスの提供者側だけでなく、利用者側にもアプローチしていく。ブータンのルーラル地域では、個人でインターネットを利用するのは、現状では経済的に難しい。そのため、主な利用者は役所や医療施設、学校や寺院などになるが、これらの施設に対して利用を呼びかけるだけにとどまらず、継続的に利用してもらうため、利用料金を年間予算として確保してもらえるように働きかけるのだ。

このように、デジタルデバイド解消プロジェクトとは、単なる技術支援ではなく、途上国のルーラル地域にICTを根付かせるための総合的な支援プロジェクトとなっている。

現地での意外な苦労

今回、無線設備を導入したブータン王国のルーラル地域は、首都ティンプーから車で10時間ほど離れている。国土がヒマラヤ山脈の南麓にあるブータンでは、ほとんどの道路が険しい山の中腹にあって、片側は常に崖でガードレールもないという。狭い道路には巨大なダンプカーも走っており、すれ違う際には崖ギリギリに寄ってやり過ごすそうだ。また、あるときは走行中にガソリンタンクに穴が開いてガソリンが漏れだしたこともあったと、プロジェクトスタッフの内山は言う。修理は穴に石けんを詰めてガムテープでふさいだ応急処置だけで、10時間の道のりを往復したというから驚きだ。

食事についての苦労話も聞いた。ブータンの首都周辺には旅行者用のレストランがあって、中には日本食もあるが、プロジェクトの対象となるような地方は、普段旅行者が訪れない地域のため、地元の人のための食堂しかない。世界一辛いと言われているブータンの料理にはとうがらしがふんだんに使われているため、食べ慣れない日本人が常食とするのはちょっと無理だという。それでもわずかにある辛みの少ない料理を見つけてしのいでいたということだ。

デジタルデバイド解消プロジェクトは、このような苦労を乗り越えて行われているのである。

プロジェクトの成果

インターネットが開通し喜ぶ、ブータン・センガナ村の小学生

これだけの苦労をして成し遂げたデジタルデバイド解消プロジェクトの結果として、どのような成果が残されているのだろうか。

例えば医療の現場では、最新の医療技術の情報が手に入るようになった。学校では、子どもたちがeラーニングを利用して高度な授業を受けられるようになる。また、学校のインターネットは、授業で使用しない時間には一般に開放されて、地域の人がインターネットを利用することもできるようになるとのことだ。

プロジェクトスタッフには、インターネットが開通した地域の子どもたちから、お礼の電子メールが届くこともあるという。それまで一度もパソコンに触れたことがなかった子どもたちからだ。子どもたちはICTにすぐに慣れ親しみ、砂に水がしみ込むように知識を吸収していく。そして、その子どもたちが未来のブータンを担う存在になる日が来る。そのとき、日本とブータンの間にはきっともっともっと良い関係が築かれていることだろう。

特集: 情報通信分野における国際貢献

取材・文:宮本橘

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