2013/09/25

ICTが教育を変えるスマートクラスルーム Part3. 広がるオンライン授業

小学校から大学まで、オンライン授業の広がりが、教育のあり方そのものをも変え始めている。

大学の講義もオンライン化でオープンに利用可能に

Courseraの授業のテスト画面(提供・Coursera)

Courseraの履修証明(提供・Coursera)

大学、特に海外の大学では、オンラインの講義は珍しくなくなりつつあるが、講義内容をインターネットで公開する「オープンコースウェア(OCW)」も広まっている。全世界への教育機会の提供を目的に、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)が、2001年に開始したのがその始まりだ。MITは、公開可能な全ての講義を公開するという計画を2007年に実現。現在では約2150の講義が公開されており、世界中に1億2500万人の利用者がいる。

日本も含めて世界各国の多くの大学がOCWを提供しており、授業計画や講義資料に加えて、講義ビデオを公開している例も多い。高等教育の機会が限られている地域でも、インターネットさえあれば、高度な教育を受けられる可能性が大きく広がっているのだ。

OCWで公開されるのは講義内容だけで、内容に関するフィードバックは受けられないが、2012年には、ネットを通じて課題の提出や試験、短期間のスクーリングが実施され、履修証明も受けられる新たなオンライン講義形態がスタートし、MOOCs(Massive open online courses)と呼ばれている。

米国スタンフォード大学の教授が設立したベンチャー企業CourseraやUdacity、同じく米国のMITとハーバード大学が設立したEdxなどが、世界各国の大学と提携して授業を提供しており、Courseraは84大学の約400講義、 Edxは28大学67の講義を提供している。日本の大学では、東京大学や京都大学が参加して講義の提供を始める。

MOOCsで提供される講義の中には、修了すれば、アメリカ等で正式な大学の単位として認定されるものもある。

また、EDxでは、MOOCsの“B2B”版として、大学や教育機関向けにネットを介して講義を提供するSPOCs(Small Private Online Courses)の開発も進めている。インターネットによって、高等教育は大きく様変わりしていく可能性を見せている。

学びの方法をひっくり返す反転授業

カーンアカデミーのビデオ講義の例。シンプルな画面ながら、分かりやすさから世界中の多くの生徒が利用している(提供・Khan Academy)

カーンアカデミーの練習問題。学習者に合わせた問題が出題され、答えを入れるとすぐに正解かどうかが分かる(提供・Khan Academy)

ネットによって、教育の機会が大きく広がったのは高等教育だけではない。学校教育のあり方をも変え始めているオンライン教室がある。それが、アメリカのカーンアカデミーだ。

小学生向けから大学相当、さらには社会人向けの内容まで、さまざまな科目の4000本以上の講義ビデオを公開しているカーンアカデミーには、今年2月時点で世界中に月間530万人以上の"生徒"がいるが、個人の学習だけでなく、学校での教育にも利用され、「反転授業」という教育方法を広めつつある。

教室で講義を受けて、自宅での宿題として学んだ知識の応用に取り組むという現在の学習方法を反転させ、自宅で講義を受け、教室では学んだ知識をもとにディスカッションをしたり、より発展的な課題に取り組むというものだ。講義を聞くだけなら、教室に集まって一斉に授業を受ける必要はないし、むしろ、講義ビデオなどのツールを使って自分のペースで繰り返し学習するほうが効率的だ。そして、実際に知識を使って考える場面こそ、1人で取り組むよりも、教師の助けを得たり、クラスメートと議論をしたり、助け合ったほうが高い学習効果を得られる。

反転学習というアイデアそのものは以前からあるものだが、カーンアカデミーが提供する良質で豊富な講義ビデオにより、実際に取り組む学校が増えているのである。

カーンアカデミーは、もともとは、ヘッジファンドでアナリストをしていたサルマン・カーンが、小学校6年生のいとこのために始めた家庭教師が始まりだ。2人は離れた街に住んでいたため、PCの画面を同期させるソフトウェアと電話を使って数学の遠隔授業を行った。この授業が効果を上げると、口コミでサルマンの生徒は10人前後にまで増えた。仕事にも支障が出始めた頃、友人からの勧めで、“授業”を録画して、YouTubeに投稿し始めたのだ。

当時、YouTubeに投稿できる動画の長さは10分まで。資金もなかったので、動画も黒バックにカラーペンで数式や図を描いただけのシンプルなものだった。しかし、これが結果として、子どもにとっての分かりやすさにつながった。

動画の公開で、生徒の数は一気に拡大し、個別に対応できなくなると、サルマンは、生徒自らが学ぶべき動画を選べるように、学習内容の関連図として「知識マップ」を作成。さらに、自分の学習の結果を確認できるように、練習問題を出題するソフトも作成し、どこまで学習できたかを一目でわかるようにした。こうして、実際に教育を行う経験の中から、カーンアカデミーの骨格が出来上がっていったのである。

カーンアカデミーの特徴の一つが「完全習得学習」という方針だ。講義ビデオや練習問題を、自分のペースで、分かるまで何度でも繰り返して受け、一つの課題を完全に習得してから次の課題に進むというものだ。学校では、1年間に学ぶべき課程が決められているため、習得できていない子どもがいても、授業は次の課程に進んでしまう。その積み重ねが、勉強について行けない子どもを生み出してしまうことに、家庭教師をしている過程で気付いたためだ。

カーンアカデミーは、アメリカはもとより、中南米、アジア、アフリカの学校でも教育に利用されるようになっている。

未就学児向けの知育アプリを集めた「こどもパーク」、中高生向け教材を提供する「GAKUMO」をKDDIが提供開始するなど、ネットを利用した学びの場は広がり続けている。

ICTは、教室も、教室以外での学び方も、大きく変えていこうとしている。子どもたちの能力を引き出し、伸ばすためのチャレンジは、今も世界各地で続けられている。

※扉の画像: カーンアカデミーの講義ビデオを授業に取り入れたペルーの学校(提供・Khan Academy)

特集: ICTが教育を変えるスマートクラスルーム

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