2014/10/20

| 更新

2018/04/05

人生が3万日しかないことに気付き、完璧主義を捨てた男 ~ドリュー・ヒューストン~

ドリュー・ヒューストン/Dropbox CEO

【何をした人?】マサチューセッツ工科大学在学中、Dropboxを共同設立した
【何ですごいの?】信頼性の高いインフラを提供し、Dropbox のユーザー数は3億人を突破
【今は何をしているの?】DropboxのCEOとして、24時間365日、コンピューター・プログラミングに没頭している

DropboxのCEOであるドリュー・ヒューストン

設立からたった7年、現在では100億ドルの価値を持つといわれるDropbox。そのCEOであるドリュー・ヒューストンは、2014年7月、英BBCの取材に「私は"いつでも"コンピューター・プログラミングに興味を持っています」と答えた。24時間365日、彼をかき立てるその情熱の源は何だろうか?

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■人生には3つのコツがある

2013年6月。ヒューストンが母校MIT(マサチューセッツ工科大学)の卒業式で学生たちに向かって語ったことがある。

「今日はみなさんに、ちょっとした虎の巻を伝授したいと思います。これは、自分の卒業式の時に、私自身が聞きたかった話でもあります」

学生時代にすでに起業家としての道を歩んでいたヒューストン。彼の卒業時には、誰も教えてくれなかった「人生のコツ」。それは「テニスボール、サークル、30,000」の3つだという。

1.夢中になれるものに出合うこと
テニスボール。彼は「仕事に夢中になる」ことを、「犬がテニスボールを追いかける姿」で表現した。目をキラキラさせて、手綱を引っ張り、無心でボールに向かっていく犬に受け身な姿勢や義務感などない。目をキラキラさせてがむしゃらに突進していける何か、この犬にとっての「テニスボール」に人生で出合うこと、その重要性を彼は伝えたかった。

2.周りに刺激的な人間をたくさん持つこと
サークル(人の輪)。それは、彼にとっては単に仲の良い友達を意味するのではない。彼を刺激し、共に成長してきた仲間への感謝と敬意である。

「自分の周りに刺激的な人間をたくさん持つということ。それは、才能に恵まれていることや勤勉なことと同じくらい、人生において重要なことです。なぜなら、自分の周りの人が、自分自身をより高めてくれるからです」


3.完璧な人生ではなく、冒険ある人生を
そして、30,000という数字。これは、「人生は30,000日しかない」という意味を示している。ある日、ふと計算すると、ヒューストンはすでに30,000日のうちの9,000日を消費していた。それに気付いてから「自分の人生を完璧主義で生きようとするのをやめた」という。

「今日、みなさんに伝えたいことは、このことに尽きます。完璧な人生なんか目指さなくていい、大冒険の人生にしましょう!」

■自身の失敗から生まれた「Dropbox」

そんな彼が、起業家として最初に手掛けたものは、アメリカ国内で広く使われる大学受験のテスト・SAT(大学進学適性試験)のオンライン学習システムだった。しかし、3年ほどそのプロジェクトに没頭するものの、実りが少なく、彼は次第にフラストレーションをためていった。その時に思い付いたのが、Dropboxという「テニスボール」だった。

「私はボストンからニューヨークに向かうバスの中で、山ほどあるTo Doリス トを片付けようと、ポケットを探りました。しかし、私が見つけたのは、サムドライブ(USBドライブ)を忘れた、という事実だけでした」

この経験から、彼はオンラインストレージサービスの必要性を強く感じ、ビジネスとして立ち上げることを決意する。

■「Dropbox」の利用者は世界中に3億人以上

そして、「Dropbox」の開発をスタートしてから3年後の2010年。『BusinessWeek』誌が選出した「IT業界における30歳以下の優れた起業家」の1人に、当時25歳だったDropbox CEO、ドリュー・ヒューストンは選ばれた。

「Dropbox」は従来のオンラインストレージサービスにはない画期的な操作性、拡張性、そして自動的にすべての端末でファイル共有されるという点で市場を拡大。信頼性の高いインフラを提供し、2013年7月には、ユーザー数1億7,500万人、1日に同期されるファイルは10億件以上であると発表。2011年4月からは日本語にも対応し、2014年5月には、ユーザー数が3億人を突破したことを公にしている。

「私たちは、大きなことを追求しようとか、すべての特徴を加えようということはしません。ユーザーの目線に立ち、私たちが実際にファイル共有でよく行う作業のほんの小さな不便さに注目し、改良することを心掛けています」(BusinessWeek誌より)

ドリュー・ヒューストンは今日も、人生の中で出合った「テニスボール」を追い続けている。彼のことを知ると、人生を楽しめるかどうかは、たったひとつの要素で決まるのだと気付かされる。そう、夢中になれる「テニスボール」に出合えるかどうか。それこそが人生において最も重要で、それがあるからこそ成功することを教えてくれている。

文:赤坂匡介(with HK)