2017/05/26
次世代通信『5G』の超高速な未来を体感してきた
5月某日。
オレたちは新宿KDDIビルの前にいた。具体的に言うと、新宿KDDIビル前の路上に停められたマイクロバスの前だ。このバスは、移動しながら、「5Gは本当に速いのか? どれくらい速いのか?」を体感するためのマシンなのである。
ボディの「au 5G KDDI」というペイントが誇らしい。こいつは次世代通信技術の粋を結集して完成した1台である。ペイント以外は普通のマイクロバスだが、こと「通信」の性能に関しては、購入時に面接が必要と言われるドイツの超高級車も、乗れば女子たちがわんさかムラがるイタリアのスポーツカーをも凌駕する。
「オレたち」とは「TIME&SPACE」編集部のタケダとハラダ。オレことタケダ(上写真左)は2人の子を持つ編集者である。相方のハラダ(上写真右)は、この部署でのキャリアが3年過ぎても「新人らしさ」を失わない、No.1若手である。ちなみに若手のなかでNo.1という意味ではない。単にいちばん若いという意味だ。
そして、オレたちを迎えるシステムがこれだ。
座席の後ろ半分は5Gの電波を受信し、今回のデモの映像を生成したりするための機器に占拠されている。セッティングしていた人に尋ねると、要するにこれが「未来のケータイ」なのだという。
5Gの電波を使って通信環境を実現するためには、今はまだこれだけ大がかりな機械が必要というのだ。かつてコンピュータ黎明期には、ファミコンほどの実力のハードが小さい会議室を埋め尽くすぐらいのサイズだったという。バスの後部に陣取ったこれらの巨大な「ケータイ」も、将来的にはオレたちの手の中に収まってしまうのだろう。我々はそうした進化の過程の、大事なスタート地点を見ているのかもしれない。
ぼんやりとしか知らない「5G」をデモで体感せよ!
話は2週間ほど前に遡る。
t「5Gってさ、そんなに速いの? なんで速いの?」
文化系記事担当のオレは、会議終わりに近くにいたハラダに尋ねてみた。その日の編集会議でも5Gについての企画案がたくさん出てきた。「5G超速い」という程度の理解で会議に参加しているものの、実際のところどれくらい速いのか、なぜ速いのかについて、オレはきちんと説明できないのだ。T&S編集部員としてこれは恥ずかしい。デジタルネイティブであるNo.1若手はそこらへんをきちんと説明できるのだろうか?
h「もちろん完全に説明できますけどwww話が長くなるんでwwwwまたの機会にwww」
ハラダの目が泳ぐ。ウソをついているときの目だ。
「あーもしもし、その件でしたら〜」とウソ着信で逃げようとするハラダのデスクに、「au 5G+ Mobile Infotainment」と題された企画書があった。内容は、KDDIがメディア向けに開催する、5G体感デモンストレーションの案内状だった。
t「これだ! これに参加すれば文系のオレでも5Gがわかる気がする!!」
オレとハラダはさっそくそのデモに参加することにした。
5Gのおさらい
デモに参加する前に、5Gについておさらいしてみよう。そもそも「5G」の「G」は「Generation」の「G」。つまりは第5世代ということ。大きな特徴は次の3つだ。
-
①「高速・大容量」
現在の「4G」回線なら1Gbps。1秒あたりに送れるデータ量は最大で1ギガビットだ。これが5Gになるとなんと20倍になるという。
-
②「低遅延」
いわばデータのタイムラグで、4Gなら送信したデータが基地局に届くまでに1/100秒の誤差が生じている。それが、5Gが始まれば現状の1/10に! 誤差は1/1,000秒にまで縮められることになる。
-
③「多接続」
つながる先の数。4Gだと1平方キロメートルあたり10万のデバイスにつながるに留まるが、5Gになるとこれが10倍の100万デバイスにつながることになる。
つまり、今よりも大量のデータが20倍も早く、タイムラグも1/10に縮小され、10倍もの数のデバイスでやりとりできるようになるのが5Gというわけだ。
では通信の高速化はいったいどんな未来をもたらすのか?
ざっくりいうと、「ネットにつなぐ」「検索する」「データのアップロード/ダウンロード」などが、ほとんど勝手に行われる。これ、スマホだけで起きることではないのだ。家電なども情報端末化することを「IoT」(モノのインターネット)と呼び、これまで以上に膨大な情報データが常時やりとりされることになる。しっかりした説明は、こちらをご参照ください。
次世代通信システム「5G」で、私たちの生活はどう変わるの?
【5Gの未来】前編「大ちゃん、次世代の電波を受信する」の巻
【5Gの未来】後編「大ちゃん、4,000人のアイドルから推しメンを選ぶ」の巻
いよいよ5Gデモ本番! どんだけ速いのか?
今回のデモでは5Gの「高速・大容量」と「低遅延」のすごさを実感するのが狙いだという。そのために行うデモは3つ。
-
A:移動しながら自由視点でスポーツ観戦
B:5G低遅延を生かしたVR体感
C:大容量コンテンツの瞬間ダウンロード
自由視点にVRに瞬間ダウンロードというキーワードに心躍るオレ。隣に座り、淀みない眼差しでデモの開始を待つデジタルネイティブのハラダは、インターネットでアイドルの画像1枚をダウンロードするのにひと晩かかっていた時代を知るよしもないだろう。20近く歳の離れたタケダとハラダが、1台のマイクロバスの中で、今、新しい時代の幕開けを共に見届けようとしているのだ。
A:移動しながら自由視点でスポーツ観戦
「自由視点映像」とは、たとえばアイドルのライブとか、サッカーの試合とかを周囲から複数のカメラで撮影。撮りきれない部分をCGで補完することで、映像再生時に360度、自由な視点で見られるようにするという技術である。当然、1台のカメラで撮影した映像に比べて何倍ものデータ量になる。
「今回このデモでお見せしたいのは・・・・・・」と、KDDIモバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部の渡里雅史。「8K画質の映像をリアルタイムで送るという点なんです」
今回の映像デモは、バスに設置されたディスプレイでJリーグの試合を見るというものなのだが、自由視点映像だから、コントローラーでアングルを変えたり被写体をズームしたり引いたりすることもできる。これはPC経由でディスプレイに映し出されるのだが、あらかじめPCにダウンロードしたデータではないという。
k「4つのアングルから撮った4本の8K映像を同時に送信し、バスの中のPCでリアルタイムに合成処理をして自由視点映像にしているんです。」
h「なるほどわかります。これゲームのウイ○レっていうことですよね。ボク得意ですし。」
コントローラーを手に、グリグリと映像を動かしながら自分の知識領域との接点を探るハラダに渡里が答える。
k「全然違います。ゲームはあらかじめつくられた映像を楽しむもので、今回の5Gデモのポイントは、リアルタイムで重いデータを送り、処理しているというところにあるんです。」
このままではT&S編集部のITリテラシーを疑われると判断したオレが尋ねた。
t「将来的にはこういったスポーツ生中継を各家庭で、しかも自由視点で見られるようになるということですか?」
k「そうなんです。8K映像4アングル分を送るのに、トータルで500〜600Mbpsになりますが、5Gなら問題ありません。あとは複数のカメラで撮った映像をリアルタイムで合成して自由視点化する技術さえ確立すれば、ご家庭でもこんな映像が楽しめるようになりますよ。」
即座に否定されたハラダ意見だが、まるでサッカーゲームのような感覚で本物の試合を自由な視点で楽しむことができるようになるという点は間違っていないようだ。好きなアングルで気になるポジションの選手だけ見ることができればスポーツファンにとってはたまらない。スポーツをやってる子どもなら、より実践的に試合映像を活用することができるだろう。
h「なるほど。だったらアイドルコンサートも自由視点で・・・・・・自由なアングルでアイドルを・・・・・・。いいですね!」
k「・・・・・・」
またもや自分の知識領域に引きずり込もうとして無視されたハラダだが、実はこちらも間違ってはいない。好きなアイドルや芸能人の映像をさまざまな角度から楽しみたいという人は多いはずだ。バンドのコンサート映像なら、好きなメンバーだけを徹底的に見ることもできる。自由視点と5G回線なら、大容量データも高速で受信できるからそういった楽しみ方も可能だ。
B:5G低遅延を生かしたVR体感
次のデモは、「低遅延」。5Gではデータの送り手と受け手との間でのタイムラグがほとんどない。今回のデモではVRを活用して、いかに遅延が発生しないのかを体感することができた。
VRは、360度写るカメラで撮影した映像を、視界全体を覆うヘッドマウントディスプレイで再生し、まるで映像世界の中にいるかのような体験ができる技術。今回は、auがサポートする月面探査プロジェクト「HAKUTO」のVR映像で5Gの低遅延が体験できるとのことだが・・・・・・。どういうことか?
これが今回のデモが行われたルートの地図だ。オレンジの矢印がVR体験のエリアである。
ここがスタート地点。手渡されたVR用ゴーグルを装着すると、まわりは月面の世界に!
マイクロバスはしばらく直進したのち、最初の交差点を左折するのだが、驚いたことにバスが発車すればVR映像内のローバーも動き出し、左折すれば同じようにローバーも左折するのである。「こちら管制室、月面へようこそ。これから基地までみなさんをご案内します」という、かっこいいアナウンスの演出がさらにテンションを上げてくれる。
t「おおハラダよ! 本当に月面にいるかのようだ。」
h「舞浜とかのテーマパークみたいですね!」
k「・・・・・・」
このデモで我々が体験したのは、「データの送り手と受け手との間でのタイムラグのなさ」。つまり「遅延の低さ」である。データ量の重いVR映像は車外のサーバーから5Gのシステムを通して送られてくるのだが、これ、映像を流しっぱなしにしているのではない。GPSで取得したバスの位置情報を5GでVR生成サーバーに送り、その位置と連動した映像をリアルタイムで送るという複雑なことを瞬時に行っているのである。
VR映像自体は1分程度なのだが、スタートして渓谷にかかった狭い橋を渡り、巨大なクレーター(現実世界では新宿KDDIビルだった)の縁を左折、手前を横切る作業用ローバーをやり過ごして基地に到着するまで、完全にマイクロバスの動きとリンクしていた。
実際のデモ体験のあと、撮影用に同じコースをもう一度走ってもらった。最初のデモ体験では時速15キロほどで、2回目では倍くらいのスピード。驚いたのは、倍のスピードで走ればVR映像も倍のスピードで進むのだ。位置情報とVR映像の生成が完全にリンクしていることを改めて実感することができた。
低遅延はどんな役に立つ?
h「恥ずかしながらオレ、コーフンしちゃいました。」
k「車両の位置情報を高い精度でリアルタイムに把握できますし、5Gは今よりはるかにたくさんの端末に接続できるから、すべての車両にこの技術が搭載されれば、クルマの自動運転が実現しますよ。」
h「タケダさん、よかったですね! 免許持ってなくても天下が取れますよ!」
t「いや、自動運転でもさすがに免許はいるんじゃない? あと天下関係ないし。」
k「クルマじゃなくても、徒歩移動時のナビにも役立ちますよ。検索しなくても自動的にオススメの店とか出てきたり、SNSで繋がってる知り合いが近くを歩いてたら表示されるとか。」
t「それでいうと子どもたちですよね。みんながインターネットにつながる5G時代になると、子どもたちもクルマと同様に"ここにいますよ""この角を曲がりましたよ"って情報を親が共有できるようになる。」
k「スクールゾーンとかで交差点の向こうに子どもたちがいるといった情報も事前に共有することができるから、事故のリスクを減らすこともできるんです。」
t「なるほど。子どもが迷子になっても、どこにいるのかがわかるし、5Gは社会貢献の面でも期待できそうですね。」
C:大容量コンテンツの瞬間ダウンロード
こちらの話は簡単だ。でかいデータを瞬時にダウンロードできるというデモ。1本50MB程度の動画を9本同時にダウンロードスタート。最初は現行の4GLTEで通信するわけだが、これを途中で5Gに切り替える。その時、速さがどのくらい変わったかを体感できるのである。
このHAKUTO関連動画9本を「よーいドン!」で一斉にダウンロード開始する。と、それぞれの画面上に進行状況を表すプログレスバーが出る。4Gだと「うんとこどっこいしょ」って声が聞こえてきそうなぐらいじわじわとバーは進んでいく。
これを途中で5Gに切り替えた途端に・・・・・・。
たら〜ん!!! 一瞬でご覧の状態に!!!
動画でどうぞ。
4Gが5Gに切り替わるのは20秒あたりから。まあなんというかサクサク落ちてきます。興奮して「ぐおおおおおおおおwwww」と叫んでいるハラダの横で、オレは静かに感動を噛みしめていた。オレがインターネットに接し始めたのは1990年代後半。モバイルでいうと当時は2Gから3Gへの過渡期で、速度的には28.8Kbpsぐらい。5Gなら20Gbpsというから、その速度がいかに上がっていることか・・・・・・。
5Gが実現すると未来はどうなるの?
オレがつねづね疑問だったのは、ここのところだ。だって、5Gってモバイルでしょ? 外でそんなに凄い速度で通信しなくても、家や会社にいればWi-Fiが繋がる。これまでどおり重いデータはWi-Fiで処理して、モバイル環境に備えればいいんじゃない?
そう言うとハラダは勝ち誇ったように微笑んだ。
h「いまは"屋内でWi-Fi、屋外で4G"が標準的な考え方ですけど、そういうスタイル自体が変わるかもしれませんよね。」
t「え、家でもスマホの通信回線を使うってこと?」
h「だってWi-Fiよりも圧倒的に5Gの方が速くなっちゃいますからね。家や会社の内とか外とか関係なく、常に5G回線が使われる可能性もあるでしょう。」
t「はぁぁぁ・・・・・・。そうしたらもうPCの出番もなくなって、スマホだけになるかもしれんね。」
h「ボクなんか大学時代すでにフリック入力でレポート書いてましたしwww」
t「マジか! でもフリック入力はギリできるし!」
k「あ、でも今後は入力も音声になりますよね。部屋の明かりとか、エアコンの温度調整、テレビのチャンネルも電子レンジも。」
b「はぁぁぁ・・・・・・。」
こうしてオレたちの5G体験は終わった。我々が今日実感したのは、単に5Gの通信技術のすごさではなく、5Gの未来が間違いなく素晴らしいものになるだろう、ということであった。・・・・・・KDDI新宿ビル前にそびえ立つ5Gアンテナを見上げつつ、でも長い原稿をフリック入力で書くのはちょっと嫌だな、と思うふたりであった。
文:武田篤典
写真:稲田 平
※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。