2017/02/14
AIが人類を超えたらどうなるの? 話題の『シンギュラリティ』について説明します
それは特別で異様なことが始まる日
映画『ターミネーター』で描かれた未来の地球は、自我を持った巨大コンピュータ(AI)であるスカイネットが人類を支配し、滅亡させるべく、殺りくを続ける暗黒の世界だった。また映画『マトリックス』でも、自分が生きていると信じていた世界が実際は巨大AIがつくり出すバーチャルリアリティだったという未来が描かれている。
どちらも、人間の知能を大きく上回る能力を持ってしまったコンピュータが、人間の上に君臨し、支配するという物語だった。最近とみに耳にする「シンギュラリティ」という言葉は、実は、『ターミネーター』や『マトリクス』のような世界の可能性を予言するものでもあるのだ。
シンギュラリティ(singularity)とは英語で「特異点」という意味。読んで字のごとく、それまでの常識が通じない、特別で異常なことがスタートする地点、ということだ。物理学では、ブラックホールなどが特異点と関係する。ちょっと怖い。
いま、世の中を騒がせているシンギュラリティは、アメリカの未来学者レイ・カーツワイルが2005年の著書『ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき』で提唱したのがきっかけで広まった。簡単に言えば、テクノロジーが発達しすぎて、人間がそれまでの人間とはまったく変わってしまう時代がやって来るということで、その変わり目のことをシンギュラリティと呼んだのだ。
肉体がなくても生きられることが可能に
では、一体どう変わってしまうのか。レイ・カーツワイルはこう書いている。
「シンギュラリティに到達すれば、われわれの生物としての身体と脳が抱える限界を超えることが可能になり、運命を超えた力を手にすることになる。死という宿命も思うままにでき、好きなだけ長く生きることができるだろう」(『シンギュラリティは近い』NHK出版より引用)
つまり、コンピュータが進歩し、人間の脳と変わらないニューロコンピュータが完成したなら、そのコンピュータを小型化して脳に埋め込むことで、ひとりの人間がさらに強力な知能を持つことができる。あるいは、ある人間の脳をニューロコンピュータにインストールすれば、その人間は肉体なしでも生きることができる。だとすれば、その人間に死は訪れない。コンピュータというハードウエアを永遠にアップグレードしていけばいいのだから――。まるでSFの世界だと思うだろう。そのSFの世界が、2045年にやって来るとレイ・カーツワイルは言う。
ムーアの法則とシンギュラリティ
レイ・カーツワイルは、コンピュータだけでなく、バーチャルリアリティはまさに現実そのままのリアリティを獲得するだろうし、人間の臓器もテクノロジーによって機械に置き換わるだろうともいう。まさにサイボーグだ。ほかにも多くの劇的な変化が急速に人類を襲い、人類はそれまでの人類とはまったく変わってしまうだろうと言うのだ。
こういった考え自体は、SF作家やコンピュータ科学者などによって1950年代頃から唱えられてきたのだが、このレイ・カーツワイルがすごいのは、この特異点は2045年だと言い切ってしまったことだ。なぜ、そんなことがわかるのだろう。
ムーアの法則というのをご存じだろうか。インテル社の創業者のゴードン・ムーアが提唱したもので、LSI(集積回路)に集積できるトランジスタの数は,1年半ごとに2倍になるというものだ。言い換えれば、半導体のメモリの容量は指数関数(ねずみ算)的に増えていくということ。レイ・カーツワイルはこのムーアの法則を科学技術の歴史全体に拡大して調べてみた。そうすると、科学技術の進歩のスピードもまた指数関数的であることを発見。彼はこう書いている。
「21世紀では100年分のテクノロジーの進歩を経験するのではなく、およそ2万年分の進歩をとげるのだ。もしくは、20世紀で達成された分の1,000倍の発展を遂げるとも言える」(『シンギュラリティは近い』NHK出版より引用)
つまり、テクノロジーがとんでもなくスピードアップしていて、今後数十年で過去何百年分、何千年分の急激な進歩を成し遂げるというのだ。下のグラフは、コンピュータの進歩がどれほど指数関数的かを示したもので、これによるとちょうど2045年ごろに、コンピュータはすべての人間の脳に匹敵する能力を持つことになっている。その瞬間をレイ・カーツワイルは「シンギュラリティ(特異点)」と呼んだのだ。
『攻殻機動隊』はシンギュラリティ以後の世界か
このシンギュラリティの話を読んで、ある作品を思い出した人も多いのではないだろうか。『攻殻機動隊』である。生身の人間と、義体(サイボーグ)化した人間とが共存し、電脳によってネットワークに脳を直接つながる未来世界を舞台にした、士郎正宗の作品だ。押井守監督によるアニメ化作品は海外でも大ヒットした。確かにあの作品こそ、もしかしたらシンギュラリティ後の世界のひとつのありようを描いているのかもしれない。『攻殻機動隊』の実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』がこの春、日本公開となる。あなたが実際に目にすることになるだろう、28年後の世界がそこにあるかもしれない。それはこんな世界だろうか。
文:太田 穣