2021/08/30

パラボラを組み立てよう!出張版「キッザニア」で災害時の衛星通信の仕事を体験

2021年7月31日から8月1日まで、山口県のKDDI維新ホールで「Out of KidZania(アウトオブキッザニア)inやまぐち2021」が開催された。

東京・豊洲と兵庫・甲子園にあるキッザニアの街を飛び出して、全国のこどもたちに、地域に密着した仕事を中心としたリアルな職業体験をしてもらうイベントだ。

「アウトオブキッザニアinやまぐち2021」の模様 「アウトオブキッザニアinやまぐち2021」は「KDDI維新ホール」を中心に開催された

KDDIとキッザニアを運営するKCJ GROUPは「エデュテインメント」を推進するため連携している。エデュテインメントとは、エデュケーション(学び)とエンターテインメント(楽しさ)を組み合わせた造語だ。こどもたちが楽しみながら社会のしくみを学ぶという意味を持つ。

2020年11月には東京・豊洲と兵庫・甲子園のキッザニアに通信会社パビリオンをオープンさせているが、今回はイベント向けに企画したオリジナルのプログラム。パラボラアンテナを組み立てる「KDDIエンジニアの仕事」だ。

KDDIエンジニアの仕事の模様

この記事では、災害時の通信会社の動きとパラボラアアンテナの重要性をこどもたちが学び、体験した内容を紹介していく。

携帯電話がつながる仕組みと途切れる理由

こどもたちはジュニアエンジニアとして、災害時に断絶した携帯電話を、衛星通信で復旧させる「サテライトレンジャー」の仕事を体験する。

まず、こどもたちは携帯電話がつながる仕組みについて説明を受ける。

「アウトオブキッザニアinやまぐち2021」でKDDIのブースに参加したこどもたち 「アウトオブキッザニアinやまぐち2021」のKDDIブースは「KDDIエンジニアの仕事」

これは当日、実際に説明に使われたスライドだ。

携帯電話がつながる仕組み

携帯電話で誰かに電話をかけるとき、まず携帯基地局につながる。そこで電波は信号に変換され、通信回線を通じて全国各地のau交換機にたどり着く。そこから携帯基地局を通じて相手の携帯電話につながる。インターネットや固定電話につながる仕組みも同様だ。

災害時にスマホが途切れる理由は大きく次の3つがある。まずは基地局の停電。次に基地局の設備そのものの損壊。そして、基地局から全国に信号を送る通信回線の断絶だ。

災害で携帯電話がつながらなくなる理由

通信の仕組みの説明中、KDDIスタッフが室内の一角に置かれた機材を指して「このなかで発電機がどれかわかる人!」など、こどもたちへの問いかけもある。男の子が勢いよく手を上げ「赤いヤツ!」と答え、「正解!」の声に力強いガッツポーズ。

スマホがつながる仕組みを聞くこどもたち ちなみに「赤いヤツ」は画像右上の中ほどに見える。災害現場で用いられるドローンやパラボラアンテナも展示されていた

こうして、基地局が停電した場合は発電機で通信が復旧できることを説明する。また、基地局の設備自体が損壊した際には、基地局の設備を小型化し、持ち運び可能にした「可搬型基地局」や、その設備一式を車両1台に搭載した「車載型基地局」が出動し、臨時の基地局として復旧する。

通信回線が断絶した場合には、今回こどもたちが取り組むサテライトレンジャーが出動し、衛星を使って通信を復旧させることになる。

サテライトレンジャーの仕事とは

では、サテライトレンジャーとはどのように通信を回復するのか。

サテライトレンジャーによる通信の復旧の仕組み

まず、基地局付近にパラボラアンテナを運び込んで組み立て、断絶して使えなくなった通信回線の代わりに、信号を通信衛星に送る。信号は衛星から地上にある「衛星地球局」に届き、そこからau交換機を経て、通信が行えるようになる。

こどもたちはパラボラアンテナを組み立てる作業を行う。台風で基地局が停止した、という設定からストーリーは始まる。

プログラムの冒頭に使われたスライド

最初に行うのは、ドローンで原因を特定すること。今回は、熊本県での災害発生時に実際にドローンで現場を探査したときの映像をモニターに投影した。

ドローンの空撮動画

映像からは、大雨に伴う崖崩れで通信回線が断絶していることが判明。サテライトレンジャーの出動だ。

サテライトレンジャー、出動!

現場入りしたという想定で、こどもたちは災害発生と同時にKDDI本社に立ち上がった災害対策本部への作業開始連絡を行う。災害時は携帯電話の通信が途切れているので、衛星電話を使用。

衛星電話は小型アンテナで、直接電話を衛星とつないで通話するため、屋内では使えない。そこで、こどもたちは会議室からテラスへ移動し、本物の衛星電話を使った通話を体験した。

衛星電話をかけるこどもたち

左上の板状のものが衛星アンテナで、右上が衛星電話。通信に使う衛星は地上から見て南の上空にあるので、アンテナは必ず南向きに設置しなければならない。設定された番号を入力すれば、実際に衛星経由で通話できるのだ。

「ジュニアエンジニアのならさきです!今からアンテナ組み立て作業を開始します」

連絡を受けるのは、すぐ横にいるスタッフ。直接肉声が聞こえるのに、電話を通した声は遅れてくる。電波が地球の上空約36,000kmにある通信衛星を経由して地上に戻ることを、通話の遅延を通じて体感できるのだ。

パラボラアンテナを組み立てろ!

そして再び室内に戻り、パラボラアンテナの組み立てに着手する。体験用の模型などではなく、実際に災害現場でも使用される本物のアンテナである。

パラボラアンテナ組み立ての模様

左の各種パーツが最終的には右のようなかたちになる。ベージュの円形のものがパラボラアンテナ、黒いケースの上の青い箱がアンテナを制御するユニットだ。

パラボラアンテナの台座とACU(アンテナ制御装置)と呼ばれる青い箱をつなぐ。ACUの上の黒い箱はコマンドを入力するためのディスプレイユニット。これとACUもつなぐ。

パラボラアンテナ組み立ての模様

そしてディスプレイのRUNボタンを押すと、機械音とともに台座の先端が立ち上がる。こどもたちはもちろん、見学の大人たちからも「オオーッ」と歓声が上がった。

パラボラアンテナ組み立ての模様 スイッチは画面右手に小さく見えている黒い箱に搭載。押せば、左の台座が動物のように首をもたげた

続いて台座にパラボラアンテナの反射鏡を取り付ける作業。本物だけに、こどもひとりで持つにはずっしりと重い。4分割されていて、パズルのようにピタリとハマるので、こどもたちのテンションも上がる。

反射鏡に支柱を取り付け、その先に信号の出力を上げるLNB(低雑音増幅器)という装置を取り付ければ、パラボラアンテナの完成だ。

パラボラアンテナ組み立ての様子 4枚の反射鏡を順にはめ込み、背後の金具で固定。支柱の先端にLNBを装着すると完成

こちらが完成したパラボラアンテナ。

パラボラアンテナ組み立ての模様

実際の現場では、起動するとパラボラアンテナが回転し、自動的に人工衛星を捕捉して通信を開始する。それによって、回線が途切れたエリアでもスマホがつながるようになる。最後にもう一度、衛星電話を使って災害対策本部に「作業完了」の連絡を入れて、サテライトレンジャーの仕事は完了だ。

楽しみながら通信の仕事について知ることができた

2日間、各回5人定員でたくさんのこども達が体験してくれた。寄せられた感想を紹介しよう。

ジュニアサテライトレンジャーの認定証と報酬を受け取るこどもたち 仕事が終わるとイベント専用通貨で報酬が支払われ「ジュニアサテライトレンジャー」認定証を授与

「衛星電話は一度宇宙に行くので、声が遅れて聞こえるのが面白かった」(小2女子)
「人のために命を守る仕事だとわかりました。またやりたいです」(小3男子)
「衛星が南にあることがわかったし、衛星電話を使ったことが楽しかったです」(小3女子)
「災害で電話がつながらなくなったとき、携帯電話の会社の人が直しに行くことを初めて知った」(小6男子)
「スマートフォンは電気がないと通じないということにびっくりした」(小2男子)

アウトオブキッザニアinやまぐち2021の感想を書くこどもたち

実際、多くのこどもたちが通信衛星に親しみを持ち、普段あまり知られていない災害時の復旧という通信会社の仕事を知ってくれたようだ。

このプログラムを通じて伝えたかったこと

キッザニアを運営するKCJ GROUPと、今回「KDDIエンジニアの仕事」を出展しこどもたちと触れあったKDDIスタッフに、このプログラムを通じて伝えたかったことを聞いた。

アウトオブキッザニアは通常のキッザニアとは違う体験ができると、KCJ GROUPの伊藤真作さんは話す。

KCJ GROUP 伊藤真作さん KCJ GROUPマーケティング本部クリエイティブ部 伊藤真作さん

「こどもたちに、よりリアルな体験をしてもらおうとスタートしたのがアウトオブキッザニアです。キッザニアの街を飛び出して実際の仕事現場に入ることができ、開催される地域ならではの仕事ができるのが特徴です。普段、なかなか知ることのできない地元企業の職業体験を通じて、こどもたちには『未来を生き抜く力』を育んでもらいたい、というのが大きなテーマです。

山口県にはKDDI山口衛星通信所があり、KDDIさんとは『パラボラについて知ってもらう』ということをプログラムのゴールに置いて企画を進めてきました。私たちが大切にしているのは、体験することです。エデュテインメントを通じて楽しみながら仕事のやりがいや責任感を知り、仕事自体に関心を持ってもらいたいと考えています。

そういう意味でも今回は、auのスマホというイメージだけではないKDDIさんの通信の仕事がこどもたちに響いていることが実感でき、非常に有意義だったと思います」

KDDIが今回、このプログラムを提供することになったのは、KDDI山口衛星通信所の存在が大きい。

KDDI山口衛星通信所は、1969年5月山口市仁保に生まれた日本最大級の衛星通信所で、インド洋と太平洋上空の人工衛星を通してアジア・ヨーロッパ・中東・アフリカ・アメリカ・オセアニアなどの国や地域との通信を担っている。サテライトレンジャーがパラボラアンテナで通信衛星に送った信号を地球で受信するのがこの通信所だ。

KDDI山口衛星通信所 山口市仁保にある「KDDI山口衛星通信所」

今回のプログラムに企画から携わり、実際にこどもたちと触れあったKDDIスタッフもほとんどがこのKDDI山口衛星通信所の所属だ。みな、熱い気持ちでこどもたちにパラボラアンテナの重要性を伝えようとしていた。

KDDI山口衛星通信所でパラボラアンテナの保守や、技術開発の検討を行う高橋は、いかにパラボラアンテナをこどもたちに身近に感じてもらうかにこだわったと言う。

「KDDIエンジニアの仕事」のスタッフたち 今回のプログラムに携わったKDDIスタッフ。左から中国地区 広報担当 野崎奈美、山口衛星通信所 広報担当 盛田昌樹、山口衛星通信所 センター長 高橋徳雄、西日本テクニカルセンター 副センター長 清水幹裕

「山口県ではKDDIは衛星通信所でよく知られています。そのおもな仕事は、衛星を通じて国内外の情報通信を担うこと。ただあまりにスケールが大きすぎて、こどもたちには伝わりにくい。みんなにとって、より身近な携帯電話でどうやって通信が行われるか、我々がそれをどう守っているかを知り、衛星通信について体験できる。そういう思いから、今回のサテライトレンジャーの企画を進めていきました」(高橋)

「今回は携帯基地局復旧用機材一式を広島から陸上輸送し展示しました。レクチャーの際に見てもらう映像も、昨年の実際の災害時に、ドローンで現場を探索したときのものを使いました。とにかく“本物”にこだわりたかったんです」(清水)

「体験が大切なので、実際に衛星電話で通話する工程を入れたのですが、それだけだとこどもたちが行うのは“電話することだけ”になります。みんなで実際に何かを作り上げるほうがより楽しく仕事への関心も湧くと考え、パラボラアンテナの組み立てを取り入れました。本当はパラボラも屋外で組み立てて実際に衛星とつなぐと、こどもたちももっと盛り上がったと思いますが、それには電波を発射する免許を申請する必要があるほか、屋外作業による熱中症のリスクも考えて、泣く泣く断念しました」(盛田)

「通信会社は、災害時に通信の復旧への責任も担っている。それがとても大切だということが、少しでも伝われば嬉しいです。また、地元の仕事の楽しさや重要性を知ってもらいたいので、ぜひ山口衛星通信所にも見学に来ていただきたいですね。今日のような機会があれば、パラボラアンテナの迫力に圧倒されるだけではなく、どんな役割を持っているかもよくわかってもらえると思います」(野崎)

「アウトオブキッザニアinやまぐち2021」は、普段あまり知られていない、通信の仕事の側面を、こどもたちに知ってもらう絶好の機会となった。

KDDIとキッザニアはエデュテインメントで連携を続ける

普通に生活しているだけでは大人でも気づくことはない、考えもしないのが災害時のサテライトレンジャーの仕事。それをこどもたちに理解してもらうのはかなり難しいことだ。だが、今回のようなプログラムを通して、楽しみながら体験してもらうことで知的好奇心を刺激し、新たに興味を持ってもらうことができる。

これからもKDDIはキッザニアとともに、通信の仕事の知られざる裏側や最新のデジタルテクノロジーに関して、ワクワクするような体験を提供し、エデュテインメントを推し進めていく。

文:TIME&SPACE編集部
撮影:森本菜穂子

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