2020/06/08

スマホでつなぐ新しい音楽鑑賞体験! 新日本フィルと東京混声合唱団がバーチャルコンサート

新日本フィルハーモニー交響楽団と東京混声合唱団という、日本のクラシック界を担う2つの団体が、合唱の定番曲として老若男女に親しまれている「Believe」のリモート演奏を行った。両団が共演するのは、2013年3月以来のこと。

「音のVRバーチャルコンサート」による「Believe」

新日本フィルハーモニー交響楽団は、1972年、指揮者の小澤征爾のもと楽員による自主運営のオーケストラとして創立。音楽家・久石譲と立ち上げた 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラで幅広い人気を集めているほか、映画『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』ではサウンドトラックを担当。斬新な企画と優れた演奏は高く評価されている。

一方、東京混声合唱団は1956年に創設。東京・大阪を中心に年間約150もの公演を行い、文化庁芸術祭大賞をはじめ数々の賞にも輝く日本を代表するプロ合唱団。1996年より日本を代表する芸術団体として「文化庁特別重点支援」の指名を受けている。

オーケストラと合唱の総勢119人が共演した舞台がこちら。それぞれがリモート演奏した「Believe」を、KDDI総合研究所が開発した独自技術「音のVR」アプリのコンテンツとして公開した。題して「音のVR バーチャルコンサート」。

「音のVR」は、スマホやタブレットの専用アプリでコンテンツを再生。この映像のように、見たい・聴きたい楽器や歌声にフォーカスすることで、オーケストラと合唱のさまざまな音色を楽しむことができる。それはまるで、コンサートホールの舞台上や客席を自由自在に歩き回り、音楽を楽しむような新しい体験だ。

「新音楽視聴体験 音のVR」アプリのダウンロードはこちら ※2020年6月8日現在、iOSのみでの配信となります。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、通常の音楽活動が難しくなるなか、新日本フィルハーモニー交響楽団と東京混声合唱団は、それぞれ独自の表現方法でオンライン上から音楽発信を続けてきた。そして今回、ウィズコロナ期の公演の在り方を模索していた両団は、KDDIの通信技術を活用した「音のVRバーチャルコンサート」に挑戦。スマートフォンでつなぐ新しい音楽鑑賞体験を提案した。

では、その全容を見てみよう。

音のVRバーチャルコンサートとは

「音のVR」は、“演奏している場所”で聴いているような臨場感を得られることがポイントになるが、リモート収録の場合、 演奏している場所はバラバラ。そこで、新日本フィルハーモニー交響楽団のフランチャイズホールである「すみだトリフォニーホール」のステージを背景に総勢119人の団員を配置することで、あたかもコンサートホールの特等席で音楽を鑑賞しているような疑似体験ができるようにした。

ヴァイオリンを中央として、右手に弦楽器、左手に金管楽器、木管楽器、打楽器を集めたモニターが並ぶ。合唱はそれらの上段に配されている。そして、この画面の状態だと、すべての音が一体となって聴こえる。

「音のVRバーチャルコンサート」による「Believe」

たとえば画面上でヴァイオリンと金管楽器を拡大すると、それらの楽器の音色に近寄ることができ、その他の楽器の音色や声は遠くなる。

「音のVRバーチャルコンサート」による「Believe」

また上段の合唱を拡大すると、歌声が間近に聴こえ、オーケストラの音色は遠くなる。

「音のVRバーチャルコンサート」による「Believe」

「すみだトリフォニーホール」のステージ上に円陣を組むように配置されたオーケストラと、その上部に位置する合唱団。指で画面をスワイプすれば、目の前に現れるパートが次々変わり、まさにステージ上を歩き回りながら、立ち止まって演奏に耳を傾けているような気分になれる。

楽器はパートごとに音色がまったく違うので、それぞれにフォーカスして聴けば、どんな音の重なりで「Believe」がつくられているのかがよくわかる。そして合唱も!小編成の混声グループごとにまったく異なる音色を聴かせてくれるのだ。

なにより「音のVR」で音楽を体験すれば、受け身ではなく能動的にその楽曲を味わい尽くそうという自らの姿勢に気づくのである。インタラクティブな新しい音楽視聴体験だ。

その舞台裏で演奏家たちは、どのような想いで挑戦を行ったのか。

「パプリカ」のリモート合奏で訪れた意識の変化

新日本フィルハーモニー交響楽団は、音楽界でいち早くリモート合奏を実現した。「シンニチテレワーク部」という有志のユニットを立ち上げ、総勢62人の楽員たちがリモートで「パプリカ」を演奏。それぞれの自撮り映像と音源を編集することで楽曲として完成させ、YouTubeで公開。動画の再生回数は200万回を超えている(2020年6月8日現在)。

新日本フィルハーモニー交響楽団がYouTubeで公開した「パプリカ」

「シンニチテレワーク部」を創設し、音源を集めて動画編集を行った、新日本フィルハーモニー交響楽団の副首席トロンボーン奏者の山口尚人さんは、この経験を次のように振り返る。

新日本フィルハーモニー交響楽団の山口尚人さん 新日本フィルハーモニー交響楽団の山口尚人さん

「そもそも楽員同士が会うことなく、ネットで音源を集めて合奏ができたこと自体が新鮮な体験でした。結果として面白かったのは、楽員一人ひとりの個性を見ることができたこと。オーケストラでは、7割くらいの楽員は目立つことはありません。ホールで見ても、客席からでは演奏者の表情もわからない。全員にスポットがあたって、どんな顔で演奏しているのかがわかるのはテレワークならではですね。これはコンサートにはない新しい魅力だと思いました」

同じく新日本フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席のビルマン聡平さんは、ネットの力に期待を寄せるようになった。

新日本フィルハーモニー交響楽団のビルマン聡平さん 新日本フィルハーモニー交響楽団のビルマン聡平さん

「今痛感しているのは、僕たちがどれだけ生演奏したいと思っているかということ(笑)。同時に、この2、3カ月のあいだに配信の面白さにも気づきました。僕は以前から、東京のオーケストラはレベルが高いと思っているんですが、動画配信を活用すれば、まずはアジアの人たちに認知してもらうことができるのではないかと。さらに、世界に発信できるチャンスだと考えています」

コロナ禍での音のVRを使った制作

実は東京混声合唱団は、KDDIとともに新たな音楽との向き合い方を模索し、これまでも「音のVR」コンテンツを共同制作してきた。

最初は、新型コロナウイルス感染症対策により、卒業式の中止・縮小によって合唱による思い出づくりができなかった学生に向けて、あたかも卒業式の合唱の場にいるような疑似体験をしてもらおうと卒業合唱曲を配信した。

そして第2弾は、リモート合唱した楽曲を「音のVR」コンテンツとして制作。今回、使用している東京混声合唱団の「Believe」は、このときに収録したものだ。

東京混声合唱団のリモート合唱による「Believe」音のVR版

この収録を踏まえて、東京混声合唱団でリモート合唱を提唱したテノール担当の平野太一朗さんは、今後のさらなるテクノロジーと生演奏の融合に期待を寄せる。

東京混声合唱団の平野太一朗さん 東京混声合唱団の平野太一朗さん

「実は今、“リモート”で“ライブ”で合唱するプロジェクトも行っています。それは、現状の通信テクノロジーによる遅延や音質でも表現できるようにつくられた実験的な楽曲の配信です。今後、Zoomのようなアプリが5G通信と連携したら、遅延もなく生で合わせて配信できるようになるかもしれないですね。」

そして、同じくリモート合唱を担当したテノールの松岡大海さんは、情報発信の重要性を強調する。

東京混声合唱団の松岡大海さん 東京混声合唱団の松岡大海さん

「新型コロナウイルスによる自粛期間において、リモート合唱の編集や歌の動画撮影などに、期せずして携わるようになりました。それによって、歌うだけでなく“東混をみなさんにどう見ていただくか”という、ある種、制作的・プロデュース的な視点も芽生えてきました。その流れで、いまはYouTubeで団員の日常や練習風景などを発信するサブチャンネルも運営しています」

ちなみに、東京混声合唱団がリモート合唱を行ったのは、新日本フィルハーモニー交響楽団がYouTubeにアップした「パプリカ」を見たことがきっかけになっているとのこと。新しい音楽発信へのチャレンジは連鎖していくのである。今回の「音のVR バーチャルコンサート」も、その延長線上にある。

プロたちが体験した音のVR

「音のVR バーチャルコンサート」を体験した、新日本フィルハーモニー交響楽団と東京混声合唱団のみなさんは、一様にこれまでにない新しい音楽鑑賞の形だという。

音のVRバーチャルコンサートのタイトル画面

・新日本フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席・ビルマン聡平さん
「この4カ月、リハーサルもコンサートもできなくなった我々にとって、トリフォニーホールを背景に新日本フィルと東京混声合唱団さんの音が重なっているのは大変感動的でした。『音のVR』は注目したいパートや演奏者に自由に近づけるので、その和音をどう感じ取り、そのメロディーをどう思ってプレイしているのかが手にとるようにわかる距離で聴ける。今後、オーケストラのこれまでにない楽しみ方が広がりそうですね」

・新日本フィルハーモニー交響楽団 副首席トロンボーン奏者・山口尚人さん
「今回は東京混声合唱団さんと一緒ですが、関わる人数が多いほど良さが出るのではないかと思います。オーケストラも合唱も、一人ひとりの音をピックアップできるともっといいですね。最終的には、オーケストラが通常の配置で並び、指揮者の位置から音のVRで収録すると、指揮者体験をしてみたい一般の方にとっては究極のオケを聴く楽しみ方となっていくのではと思います。同じように、客席での音の聴こえ方なども擬似体験できるようになると、チケットを買うときに判断の基準にもなりますね」

・東京混声合唱団 テノール担当・松岡大海さん
「100人以上の規模でのオーケストラとの音のVRは音圧がすごくて、音色も豊富なので、すごく迫力がありました。私たちと新日本フィルさんが別々の会場で演奏会を行って、同じ曲を音のVRで生配信するようなことをしても面白いですね。生とリモートとVRの融合で、一度に複数の演奏会に遊びに行ける感覚ですね」

・東京混声合唱団 テノール担当・平野太一朗さん
「音のVRをリモート合唱からつくれるようになったのは、新型コロナウイルスでのステイホームがあったからですよね。そうしてテクノロジーが進化すると、それに合わせて私たちも技術や表現力を上げていかなくてはならない。それが、音楽全体の進化につながっていくんじゃないかなと思います。生演奏とテクノロジーの両方に磨きをかければ、今後ますます面白くなるでしょうね」

ミュージシャンのリモートへの対応のように、状況と必要に迫られ、新しい試みは次々と生まれている。そこで通信というテクノロジーが担う役割は、決して小さくはない。志ある人々を、アイデアを、可能性をつなぎ、通信技術によって心を満たせるような体験価値を、KDDIは今後もパートナーとともに提供していく。

文:TIME&SPACE編集部

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