2020/05/12

新たな音楽鑑賞への挑戦! プロ合唱団のリモート合唱に自由にズームできる体験を

新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、不要不急の外出自粛や活動自粛が要請され、エンターテインメントの世界でも公演の中止が相次いでいる。そんななか、アーティストたちがリモート(テレワーク)で演奏や合唱を行い、YouTubeで公開する活動が広がっている。

こうした現状においてKDDIは、日本を代表するプロ合唱団「東京混声合唱団」がリモート合唱した『Believe』『あすという日が』の2曲を、歌声に自由に“近寄る”ことのできる音のVRコンテンツとして制作し、配信を開始した。

歌声に近寄ることのできる音のVRとは

「音のVR」とは、360°動画の見たい・聴きたい部分に自由自在にフォーカスし、好きなパートに近づいたり遠ざかったりする今までにない視聴体験ができる、KDDI総合研究所独自の技術だ。

たとえば、合唱曲でアルトのパートをズームしたい場合、スマホの映像上でアルトの歌い手を拡大すれば、歌声に近づくことができる。だが、その際ほかのパートの歌が聴こえなくなるわけではない。ユーザーはまるで歌い手と同じステージを歩き回り、聴きたいパートに近づいたり遠ざかったりするような、今までにない視聴体験ができるのだ。

実は2020年3月、卒業式の中止や縮小に際し、卒業生のみなさんに向けて卒業合唱を「音のVR」で提供する取り組みを行っていた。

「新音楽視聴体験 音のVR」アプリのダウンロードはこちら ※2020年5月7日現在、iOSのみでの配信となります。

今回の東京混声合唱団のリモート合唱では、38人の混声合唱を5グループに分け、VR空間に配置。

東京混声合唱団リモート合唱「Believe」音のVR版

この状態で聴くと全員の声を聴くことができるし、それぞれのモニターにフォーカスすれば、各グループの歌声をより間近に聴くことができる。

東京混声合唱団リモート合唱「Believe」音のVR版

歌でエールを送りたい! リモート合唱のきっかけとは

では、どんな経緯で、どんな思いを持ってリモート合唱が行われたのか。東京混声合唱団でテノールを担当し、このプロジェクトの推進に一役買った平野太一朗さんにオンライン取材でお話を聞いた。

東京混声合唱団テノール・平野太一朗さん 東京混声合唱団テノール・平野太一朗さん

きっかけは新日本フィルハーモーニー交響楽団がYouTubeで公開したリモート合奏だったという。

「自粛で多くの公演が中止になり、それに伴うリハーサルもなくなりました。団員で集まる機会もないですし、めっきり歌わなくなったんです。身体もなまってきますし、歌いたい気持ちも募ってきます。この状況が続くのであれば、なにかしなければと思っていたときに、3月25日に公開された新日本フィルさんの『パプリカ』を見たんです」

平野さん自身大いに感化されただけでなく、4月1日に行われたミーティングでは、同時多発的に「私たちもやろう!」の声が挙がり、トントン拍子に話が進んだ。

「合唱は、多人数が近距離で、大きな声で歌うもの。コロナ禍においては皆が集まっての活動は自粛せざるを得ません。リモート合唱の動画は“こういう楽しみ方もあるよ”ということをお伝えするとともに、歌でみなさんに少しでも元気を送りたい! と挑戦してみました。加えて、私たちの現状の活動報告のようなかたちで、歌をお届けすることができればと思ったんです」

収録だけでなく、すべての過程がリモートで行われた。LINEを使って「みんなにエールを送れる曲」をみんなで選んだ。

「『Believe』は合唱の定番曲として老若男女に親しまれていますし、『あすという日が』は復興への応援歌として多くの人に愛されているので、ぴったりだと考えたんです」

そして、指揮者のキハラ良尚さんがピアノ伴奏を収録。それをもとに、ソプラノ・アルト・テノール・バスそれぞれのパートのお手本となる音源を録音して団員たちに配布。団員は各自スマホなどで歌う映像を収録し、平野さんと同期のテノール・松岡大海さんにメールで送付。松岡さんが映像を編集し、音声は松岡さんと平野さんがそれぞれ合唱のかたちに編集したのだという。

「音のVR」における新たな挑戦

こうしてできあがったリモート合唱の音源と映像をもとに、次はKDDIが「新音楽視聴体験 音のVR」アプリでの配信に挑戦した。

通常、「音のVR」では、360°録音できるマイクとVR撮影用の360°カメラで、収録を行う。この方法によって、聴きたい音に自由自在にフォーカスできる音のVRコンテンツができる。

下の画像は、3月に行われた東京混声合唱団による音のVRの収録風景だ。

東京混声合唱団による音のVR収録の模様

このときは、ソプラノ・アルト・テノール・バスというパート別に4つのひな壇をセットし、総勢30人が練習場に集まって合唱を行った。

一方、今回のリモート合唱は、それぞれが自宅で収録した音源(映像)を集めて編集することになる。

東京混声合唱団リモート合唱「あすという日が」音のVR版

そこで、3月の収録で撮影した会場のVR映像を背景に使用。あたかも会場に集まったかのように、在宅で収録された音源(映像)を5つのモニターとピアノのモニターに模して分け、グループごとに配置した。

「音のVR」を開発したKDDI総合研究所の堀内俊治は、「今回はまさに新たな挑戦でした」と言う。

KDDI総合研究所・堀内俊治 KDDI総合研究所・堀内俊治

「東京混声合唱団さんの合唱を収録した実際の会場をVR空間として見立てて、自宅で収録いただいた音源(映像)を配置していくわけです。今回はグループごとにまとめたステレオ音源を、それぞれが水平何度、垂直何度の位置にあり、さらに何度の幅を持っているかを指定していきました」

実際にはバラバラに撮影した音源(映像)を、みんなで集まって収録したかのように再構成した。その際、克服しなければならなかったのが“音場”という課題。

「3月の収録のように1カ所に集まって歌う場合、その場にいると、5グループすべての歌声とピアノの音が混ざって立体的に聴こえるはずです。

でも、今回はみんなが集まって歌う“場”がありませんでした。グループごとの歌声を編集して、VR空間上のそれぞれのグループの位置に配置するというつくり方だと、あるグループにフォーカスしたとき、その歌声が大きく近づいたかのように聴こえるだけ。伴奏のピアノやほかのグループの歌声がまったく聴こえない不自然な仕上がりになってしまいます。

そこで、会場で聴こえるはずのすべてのグループの歌声とピアノが混ざった音をつくって、天井やモニターの上方などに配置しました」

会場のどこにフォーカスしても、その場で聴こえるはずの音が全部うっすら聴こえるような処理を行ったのだ。

「今回は360°カメラと360°マイクを使わずに、バラバラに収録した素材から『音のVR』コンテンツをつくることにチャレンジしました。バラバラに収録した素材からでも、会場で一斉に収録したかのような音による、いわゆる場の臨場感や現場感を出せたと思います」

リモート合唱と音のVRで音楽に、合唱に新しい風を

東京混声合唱団テノール・平野太一朗さん、KDDI総合研究所・堀内俊治 左・東京混声合唱団・平野太一朗さん、右・KDDI総合研究所・堀内俊治

リモート合唱は、「非常に興味深い体験だった」と平野さんは言う。

「リハーサルもできないわけですから、最初はちゃんと声を合わせることができるのか不安でしたが、編集してみるときちんと東京混声合唱団の歌になっていたことは新鮮な驚きでした。また、あらためてひとりずつの声を聴くことができ、団員それぞれの歌い方の違いや個性を実感できたのは大きな収穫になりました。

もちろん、こうした技術が発展しても、生演奏は廃れないと思います。生ならではの臨場感や迫力を体験していただく一方で、オンラインでのリモート合唱もコンテンツとして評価されていくといいですよね。今回の経験が、今後の音楽や合唱界隈に新しい風をもたらしてくれるのではないかと思っていますし、いま歌えなくて落ち込んでいる人たちにも、ぜひ試してもらいたいと思います」(平野さん)

そして……

“不覚にも泣いてしまった。あぁ〜歌いたいなぁ”
“人の声は温もり。ダイレクトに心に響く”
“東混のリモート合唱で胸いっぱいになった。やりたいなあ”
“ああ、歌って素敵だな”

今回の東京混声合唱団のリモート合唱には、そうした声が数多く寄せられた。

KDDI総合研究所の堀内は、今回新しいチャレンジを行った「音のVR」の未来について語った。

「今後の話ですが、たとえば、普通のスマートフォンで撮影した合唱練習の動画から、各パートの歌声を抽出して聴き比べたり、昔のコンサート映像から、ボーカルやギターなど好みの演奏者のプレイを重点的に楽しんだりすることができるようになっていくでしょう」

コロナ禍における特殊な状況だからこそ、それを乗り越えていくためのさまざまな新しい試みも生まれている。東京混声合唱団によるリモート合唱も、「新音楽視聴体験 音のVR」アプリを活用した新しい音楽視聴体験の提供もその一つだ。社会課題の解決や、ワクワクを提案し続けるために、今後もKDDIはパートナーとともに新しい体験価値を提供していく。

東京混声合唱団が公開しているリモート合唱「Believe」「あすという日が」の動画はこちら。

文:TIME & SPACE編集部

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