2020/02/28

中学生が考えた「働くことの未来」とは? ドキュメンタリー制作で学んだこと

KDDIは2018年10月より、こども向け職業・社会体験施設「キッザニア」を運営するKCJ GROUPと包括的なパートナーシップを結び、エデュテインメント領域への取組みを広げている。エデュテインメントとは、「楽しみながら社会のしくみを学ぶ」というキッザニアのコンセプトでもある。

これまでに、「キッザニア東京」「キッザニア甲子園」への国立極地研究所との協力による期間限定パビリオン「南極研究所」の開設や、全国各地で開催される「アウト オブ キッザニア」へKDDIブースを出展するなどの取り組みを行ってきた。

KDDIがキッザニアに開設した期間限定パビリオン「南極研究所」 KDDIが「キッザニア東京」「キッザニア甲子園」に開設した期間限定パビリオン『南極研究所』
「アウト オブ キッザニア」に出展した「XR Door」 「アウト オブ キッザニア in 滝沢」に『XR Door』を出展

そして今回、KCJ GORUPが実施した「Cosmopolitan Campus 映像制作ワークショップ」に、KDDI総合研究所の研究者が講師として参加した。

このワークショップは、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標) の 8 番目のゴール「働きがいも経済成長も」がテーマ。9名の中学生たちが参加し、「働くことの未来」に対する問いを立て、自らの手で脚本・演出・撮影を手掛け、短編ドキュメンタリーを制作するというもの。

全6回という長丁場のワークショップを通して、中学生たちはどんな学びを得ることができたのか。

「働くということ」を3つのテーマで映像化

今回のワークショップの目的は大きく2つある。

ひとつは特定の領域で活躍している社会人講師へのインタビューやグループディスカッションを通して、テーマである「働くこと」について中学生たちが自ら考え、気づきを得ること。 もうひとつは、学んだことや考えたことを実際にドキュメンタリー映像として作り上げること。

ワークショップに参加の生徒、講師、スタッフたち こちらが今回のワークショップのメンバー。3人の講師を中心に中学生たちとスタッフが勢揃い

9名の中学生は「ローカル」「グローバル」「テクノロジー」の3チームに分かれ、各テーマに関連した仕事をしている3人の社会人が講師として参加した。

「ローカル」チームの講師は尾田洋平さん。「地域・教育魅力化プラットフォーム」に所属し、山間部や離島などの公立高校と、都市部の中学生のマッチングを行い、過疎化の進む地方を盛り上げるプロジェクトを推進している。

一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 尾田洋平さん 一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 尾田洋平さん

「グローバル」チームの講師を担当した櫻井有希子さんは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に勤務し、民間企業との連携で世界の様々な課題解決に奔走している。

国連難民高等弁務官事務所/民間連携担当官 櫻井有希子さん 国連難民高等弁務官事務所/民間連携担当官 櫻井有希子さん

そしてKDDI総合研究所から「テクノロジー」チームの講師として参加した新井田 統は、au未来研究所でのぬいぐるみ型コミュニケーションツール「Comi Kuma (コミ クマ)」の開発や、地域課題を住民と連携して解決するリビングラボ活動など、 ユーザー参加型サービスデザインの研究を行っている。

KDDI総合研究所インタラクションデザイングループの新井田統 KDDI総合研究所インタラクションデザイングループの新井田(にいだ)統

本記事では、新井田が参加した「テクノロジーチーム」を中心に紹介していこう。

先端の仕事を知り、チームで議論

ワークショップ初日は、3人の講師が参加者全員に「自分の仕事」についてプレゼンテーションを行うことからスタートした。

ワークショップで自らの仕事経験を語るKDDI総合研究所の新井田統

KDDI総合研究所の新井田が語ったのは、「将来どうなるかを想像するよりも、どうしたいのかを自分でつくり上げていくことの大切さ」。自身が入社当時から行ってきた研究に疑問を感じたこと。「通信を使う人の気持ちに寄り添いたい」と仕事に対する考え方を軌道修正することで、現在はユーザーの声を取り入れてサービスを開発するプロセスの研究に従事し、やりがいを感じていること。また、ユーザーの声を知るために、先端のAIやIoTといった最新テクノロジーが活用されていることなどを伝えた。

中学生たちは、講師の話を聞きながら、
「テクノロジーって、コミュニケーションが大事なんだね」
「AIが発展したら、人間の仕事ってどうなるのかな?」
など、気になったポイントをメモし、チームごとに議論を重ねて、映像で伝えたいテーマや講師に聞きたい疑問などを具体化していった。

映像制作ワークショップでメモをもとに議論する参加者

第2回ワークショップでは、各チームがそれぞれの講師にインタビューを行った。

テクノロジーチームは、「テクノロジー社会における仕事のやりがい」をテーマの中心に据え、新井田に質問をぶつけた。
「そもそもテクノロジーとは人間にとってどんな存在ですか?」
「AIと人間の今後の関係は?」
「新井田さんが取り組んでいるユーザーが参加型のサービス開発のプロセスとは?」

中学生たちのインタビューを受けるKDDIの新井田統

インタビュー内容から仕事の内容や働くことの本質を伝えるコメントを抽出。

インタビュー内容から使いたいコメントを抽出する作業

撮影のための台本として構成する作業を行う。

インタビュー内容から使いたいコメントを抽出する作業

そして撮影時に改めてインタビューを収録する。

いよいよドキュメンタリー映像のクランク・イン!

ワークショップの3〜5回目は、映像制作について具体的に学び、実際の撮影までを行う。 映像制作のレクチャーは、映像制作を教育プログラムとしても展開しているEXIT FILM INC.の田村祥宏さんが担当。脚本作成から、絵コンテ、画面構成、撮影技術まで、本格的な指導が行われた。

画面構成について語るEXIT FILM INC.田村祥宏さん
カメラの使い方をレクチャーするEXIT FILM INC.田村祥宏さん

いよいよ本番撮影が行われたのは、第5回ワークショップ。講師が語るシーンをはじめ、仕事内容を説明するためのシーンや、テーマや内容をよりわかりやすく表現するイメージカットも撮影する。

KDDI総合研究所の新井田も衣装として白衣を着用し、第1回のワークショップで自身が語った「ユーザー参加型のサービス開発」を動画でプレゼンテーションするための撮影に臨んだ。

ドキュメンタリー映像で語るKDDI新井田統

半日がかりで撮影を完了。編集工程のみEXIT FILM INC.が担当し、参加者である中学生たちが作った脚本と絵コンテ、撮影した映像を使って作品を仕上げる。こうしてできあがった作品の試写会が、最終回のワークショップで行われた。

ラフ編集の映像の試写会の模様

大まかに編集された映像を参加者全員で確認し、作品としての完成度を上げるための課題についてチームごとに意見し合う。

映像編集の課題点を見つけ出す参加者
映像編集の課題点を見つけ出す参加者

こうして各チームのドキュメンタリー作品が仕上がり、1本にまとめた完成版「働くことで広がる未来」がこちら。

テクノロジーチームが作った「テクノロジー社会における人間の仕事は?」では、テクノロジーという概念に対する立ち位置と、それを仕事にするうえで大切にしているポイントを提示。企業が一方的にテクノロジーを提供するのではなく、ユーザーとの共創を目指すべきであること。社会への影響を意識し、研究者にもコミュニケーションスキルが必要であるという考えを新井田自身が語っている。

映像制作が中学生たちにもたらしたもの

9人の中学生たちは、全6回にわたるワークショップに参加した経験を通して、どんな学びを得ることができたのだろうか。最後のワークショップを終えたばかりの参加者に話を聞いてみた。

●今回のワークショップで得たことは?
・「プロの方のお仕事に間近で接することができて、価値ある体験ができました」(中3男子)

・「“フィルムを作る”って、“カメラを使ってやること”だと思っていたんですが、その前後の作業の重要性を学びました。取材はもちろん、絵コンテがないと絶対撮れないし、編集の大切さも。その辺の作業が面白いんだなあって初めて知りました」(中1・男子)

・「フィルムをつくるにも仲間と接するにも、表現力の大切さを痛感しました。カメラのアングルを変えると伝わり方が変わるのと同じように、コミュニケーションも微妙な表現の違いで変わるんですね!」(中2女子)

●「仕事」や「働くこと」に対しての考え方は変わった?
・「働く=義務的な作業だと思っていました。でも、自分で行動を起こすことが大事で、それがすべて結果に関わってくる。働くことって、“小さな革命”みたいだなと考えが深まりました」(中2女子)

・「仕事は所詮『お金を稼ぐこと』と思っていたんですが、今回、参加して『楽しくてやりがいがあってもいいんだ』ということがわかりました。仕事から得られる学びがあるんだなって」(中3男子)

・「毎朝の電車で大人の人たちの姿を見て、『自分もいずれ、あんなつまらなそうな顔をして会社に行くのかな』と思っていたけど、好きなことを仕事にすると、楽しくて働きがいもあるんですね!」(中1男子)

キッザニア映像ワークショップで製作した動画の1シーン

そして、完成した作品を見たKDDI総合研究所の新井田はこんな印象を語った。

「中学生達のストレートな質問に、できる限り真剣に応えました。メンバーがそれに応えてくれて、素晴らしい作品ができあがったと思います。彼らに働くことの多様性が伝わり、これから大人になって働くことが不安なだけでなく楽しみになってくれれば嬉しいです。

私がサービスデザインの研究をする中で大事にしているのは『エコシステム』という考え方です。お客様にとって良いサービスを提供することは大事ですが、提供者側が無理をして続けていることは持続可能ではないんです。同じように『持続可能ではない働き方』では、どこかに必ずひずみが生じているのです。 働き方を持続可能にするのは、困っている人や弱いところに過度な負担を与えて誰かが不幸になるということを起こらなくするため。『持続可能な働き方』が大事なのは、みんながハッピーになるためなんだろうと思います」

KDDIとキッザニアの連携によるエデュテインメント

映像制作を監修したEXIT FILM INC.の田村祥宏さんに、中学生たちとの映像制作の印象を聞いてみた。ワークショップを通して、中学生たちになにかを伝えることはできたのだろうか。

EXIT FILM INC. 田村祥宏さん 今回の映像制作監修を務めたEXIT FILM INC. 田村祥宏さん

「ドキュメンタリー制作って、実はとても仕事らしい体験で。僕たちは普段、フィクションの映像制作のワークショップをやることが多く、そこではみんなの意見を混ぜながら、自由に制作できることが多い。今回はドキュメンタリーということで、被写体が決まっていて、その人との関係性を保ちながら自分たちの主張も盛り込む難しさや、仕事として映像を作るとはどういうことなのか、体験してもらえたかなと思います。

今回は、映像制作のほぼすべてを体験してもらいました。現在はさまざまな仕事が細分化していて、実際に個人が担当するのはごく一部。でも、すべてに関わることで広い視点が持てる。共創を体験すれば、すべての仕事のつながりが学べます。今回はそこが重要だったと思います」

「キッザニア」を運営し、今回のワークショップを開催したKCJ GROUPの圓谷道成さんは、KDDIとの連携で互いにメリットを持ちながら「エデュテインメント」への取組みが多彩に展開していくことに期待していると語る。

KCJ GROUP 圓谷道成副社長 KCJ GROUP 圓谷道成副社長

「重要なのは、体験が『本物』であるという点。真剣に取り組むことで、子どもたちも『体感』することができる。

今回は、映像制作自体が大きな職業体験になったと思います。これは普段の『キッザニア』では行えない貴重な体験でしたね。また働くということを理解するうえでも、中学生たちは大きな刺激を得たのではないでしょうか。“仕事って所詮こんなもんだよな”と漠然と定義していたところに、熱意をもって最先端の仕事をしている3人の大人と対話をし、初めてしっかりと考えることができたわけです」

キッザニア映像ワークショップの模様

また、KDDIとのパートナーシップに関しては「互いに大きなメリットがある」という。 「KDDIはライフデザインのひとつとしてエデュテインメントに力を入れています。KDDIにとって『キッザニア』のような存在は、通信だけでない事業領域やお客さまとの接点を広げることにつながると思います。またKCJ GROUPとしても、KDDIのテクノロジーは魅力的です。『キッザニア』の施設としてのスマート化や、子どもたちへの新たなエデュテインメントの価値創造にもつながる。連携することで互いに進化していくことができると考えています」

キッザニア映像ワークショップの模様

日々の豊かな暮らしのために通信や先端技術はある。だがそれだけではない。

今後もこうした領域で継続的に連携を行い、子どもたちが近未来の仕事にワクワクし、楽しみながら学び、生きる力を自ら育むことをKDDIはサポートしていく。

キッザニアでのお披露目上映会

写真:有坂政春(STUH)
文:武田篤典

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