2019/09/18

人口100人の小さな島に携帯電話の基地局を! 電波をつなぐ現場を追った

電波を届けるのは人口100人の漁業の島

愛媛県の宇和島港から、1日に3便が就航している高速船で約30分。愛媛県西部の宇和海に浮かぶ小さな島「嘉島(かしま)」。

今回、この島にKDDIの携帯電話基地局を開設し、つながるようにするのである! ちなみに、そこで携帯電話がつながるように基地局を建てることを「エリア化」と呼ぶ。

嘉島の遠景

嘉島の面積は0.54㎢。偶然にも、大阪「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」とほぼ同じ。そして人口は100人に満たない。主にはその100人のみなさんのために携帯電話がつながるようにする。今回、その工事に密着した。

地図でいうとここ。

愛媛県宇和島の地図

島の東側には小さな漁港が開かれている。道路はそれに沿って1本。

嘉島の島内の様子

江戸時代以降、イワシ漁が盛んだったが、今はハマチの養殖が中心だ。島の南部の廃校になった小学校前の海上に養殖場が点在する。

嘉島の沿岸の様子 海上にあるのはハマチの養殖場。右に小学校の体育館が見える

嘉島は以前から電波が不安定で、場所によってつながらないこともしばしばあった。たまたま近隣をカバーしている電波を拾うことができているからだった。嘉島のエリア化は、島のみなさんはもちろんKDDIとしても悲願だったのだ。

重機も資材も島外から船で運搬……島ゆえの工事の難しさ

KDDIコンシューマ四国支社コンシューマ中国四国営業部・小田浩明(右)、KDDIエンジニアリング西日本支社高松支店建設グループ・難波隆之(左) KDDIコンシューマ四国支社コンシューマ中国四国営業部・小田浩明(右)、KDDIエンジニアリング西日本支社高松支店建設グループ・難波隆之(左)

話を聞いたのは、KDDIコンシューマ四国支社の小田浩明と、KDDIエンジニアリング西日本支社高松支店建設グループの難波隆之の2人。

小田と難波は長年、四国の島々のエリア化に取り組んできた。営業担当の小田は地域の要望を聞くだけでなく、あるときには先回りし、エリア化すべき場所を的確にプランニング。難波は、四国全域の基地局に携わり、島という特殊な環境での建設もよく知る。

今回の嘉島での対策については、もともと住民から「携帯電話がつながりにくい」という声が間接的に伝わってきていた。

「KDDIでは、携帯電話の電波状況が良くない場合に専用の機器を設置して改善させる『電波サポート24』というサービスを行っているのですが、嘉島から3件のお問い合わせがありました。100人に満たない島民のみなさんのうち、3件というのはすごく大きい」(小田)

エリア化が決まったら、まず現地調査。基地局の建設に最適な場所をリサーチする。嘉島の場合は、島の南端にある「魚貝供養塔」の横がベストだとわかった。そして土地の所有者である漁協と話し合いの場を持った。

「島の工事は、なにかが不足したからといって、すぐに取りに戻れないので、とにかく資材も重機も最初にできる限り運びます。また、小さな島の場合、フェリーが就航していないことが多いので、自分たちで船をチャーターする必要があります」(難波)

そこで、登場するのが巨大な台船。

携帯電話基地局工事のための資材や重機を運ぶ台船

写真に写っているのは平たい船体にクレーンを据え付けた、全長20m以上の台船。港の施設ではなく船だ。この船に重機や資材を次々と積み込む。

島に建てるアンテナになるコンクリート柱

こちらは島に建てるアンテナの支柱となるコンクリート柱の積み込み作業。

地面を掘削するのに使うコンプレッサー車も

地面を掘削するのに使うコンプレッサー車も島外から船で運び込む。

島で作業するためのクレーン車も。車重は14トン近くある

敷設工事するためのクレーン車。車重は14トン近くある。

今回の工事開始日には、重機も含めてクルマ5台、現場の作業員と船の乗組員など約20名の人員を乗せた。工事車両や資材を積み込むのは宇和島市中心部からクルマで約30分のところにある遊子(ゆす)港。ここから嘉島までは約45分の航程だ。

台船を牽引するタグボート 台船自体に動力はあるが、荷が重いので両舷をタグボートで牽引する

目的地である嘉島に到着したら、全部荷下ろしを行う。

パラボラなど資材を積んだトラックに島に下ろす
パラボラなど資材を積んだトラックに島に下ろす

アンテナなど資材を積んだトラックを島に下ろす。繰り返すが、赤い巨大なクレーンは港の設備ではなく、台船だ。

「嘉島には漁港があり、定期船も発着するのですが、島内の道路は先ほど紹介したように狭い一本道です。そこを重機やトラックが通れないので、基地局を敷設する現場に直接船をつけ、クレーンで荷下ろしして作業に入るのです」(難波)

魚貝供養塔と基地局建設現場

こちらが基地局を建てる現場。真横にある「魚貝類供養塔」がまさに漁業の島であることを象徴している。海までほんの数メートルの場所である。そして、ちょうど島の南端から、集落すべてを見渡すことのできる位置だ。

嘉島の港

「島や四国の沿岸では地形が入り組んでいて、入江や山裾に生活圏が集中しています。基地局を建てるのに最適なのは、集落の全域を見渡せる場所。山の上だと工事が困難になるため、先の条件を満たす平地を探すことになります。そのため、今回の基地局の建設場所は理想的ですね」(難波)

海辺のこの立地に関しては「集落全体を見渡せる」という理由に加えて、実はもうひとつ非常に重要な理由がある。

「宇和島側の基地局から、きちんと見えているからです」(難波)

見えていないと電波は通じないという。いったいどういうことなのだろうか。

島外からケーブルが引けない!?

小さな島に基地局を設置する場合、海を越えて行う工事の煩雑さに加えて、大きな問題がもうひとつある。光ケーブルの敷設だ。

通常、携帯電話の基地局には光ケーブルが敷設されている。
携帯電話で通信するには、まず基地局が必要だ。携帯電話から発信すると、まずその携帯電話のいちばん近くにある基地局につながる。基地局では電波を信号に変換し、光ケーブルを通じて、通信したい相手の最寄り基地局に信号を送る。その信号は目当ての基地局に届くと、そこでまた電波に変換され、相手の携帯電話につながる。

KDDIエンジニアリング西日本支社高松支店建設グループ・難波隆之

「島の場合、基地局から先に信号を送るためのケーブルを海底に敷設しなければならないんです。しかし、陸側から島に対してケーブルを敷設するには莫大な時間と費用がかかります。そこで、島のエリア化の多くは『無線エントランス』で行っています」(難波)

無線エントランスは、陸側に“親機”になる基地局を設定し、島にその“子機”を置く方式だ。親と子両方にパラボラアンテナを搭載。子機は島の携帯電話の電波をパラボラで陸側の親機に送り、そこから先は通常の基地局同様、信号に変換して光ケーブルで全国に送る。

嘉島の無線エントランス

この矢印の部分が「無線エントランス」。今回、嘉島に建てる基地局は、子機にあたる。電波を送るのは宇和島から陸続きの半島にある親機。

そして、こちらの宇和島市某所の山中、クルマを降りて林に数分分け入ったところに “親機”があった。

無線エントランスの“親機”となる基地局
無線エントランスの“親機”となる基地局

この基地局の高さは約40m。2014年ごろに建てられた局だが、基地局のなかでは背が高いほうだ。

「無線エントランスを行う場合、まずは島に電波を送るのに適当な既存の基地局を一局ずつ現地調査します。重要なのは“見通し”。そこから電波を届けたい島の、子機となる基地局の建設予定地をきちんと見通せるかどうか」(難波)

無線エントランスの電波は非常に指向性が強く、遠くまで届く代わりに遮蔽物に弱い。島までの電波の通り道に何かがあると携帯電話はまったくつながらなくなる。たとえば海上を船が通過し、一時的に電波を遮断しても即、携帯電話の通信は途切れてしまう。

宇和島の基地局の足下から嘉島方面を見通してみたところ……

基地局近辺から嘉島方面を望む

嘉島は矢印のあたりにある。基地局の足下からだと島を見通すことはできないが、パラボラアンテナを設置する40mの高さからならきちんと見えることが確認されている。

「距離的にはお隣の戸島の基地局がいちばん近いのですが、島影が遮って電波が届かないのです。そのため海上の電波の通り道の高度など、様々な条件を鑑みて、この宇和島山中がベストということになりました」(難波)

直線距離で約10km。半島や海を越えて、ここから電波を送る。難波たち現場の担当者は宇和海に面した山をあちこち駆け巡りながら、島に電波を送るのに最適な基地局を探し当てたのだ。

住民のため 観光客のため そして……島をエリア化する理由

四国には、無数の島がある。オリーブやそうめんが名産で小説『二十四の瞳』の舞台となった小豆島(香川県)、草間彌生のアート作品や安藤忠雄建築のある直島から、渡航手段のない無人島まで、その数なんと700以上。

2000年代初頭から大きな島々へのエリア化は進み、2010年代に入って小さな島々へもコツコツと電波を届けることを続けてきた。

嘉島沿岸を航行する漁船

「多くの島の産業の中心は漁業です。携帯電話がつながることで、島に暮らすみなさんの生活が快適になるのはもちろん、携帯電話は緊急時の通信手段として非常に重要ですので、島内だけでなく、作業中の船で漁師さんがきちんと使えるよう、エリアの構築を行わなくてはなりません」(小田)

KDDI株式会社コンシューマ四国支社コンシューマ中国四国営業部・小田浩明

「嘉島のエリア化の着手は、本当に遅くなってしまいました。島民のみなさんには、正直お詫びの言葉しかないです」と小田は目を伏せた。

auのタフネススマホ「TORQUE」を愛用しているという漁師の小内雅雄さんがわれわれに声をかけてくれた。

嘉島のハマチ漁師・小内雅雄さん

「昔っから漁師仲間のあいだで『船で使うのはau』って聞かされててさ。だからずーっと使ってるよ(笑)。家が港沿いにあるんだけど、手前の部屋だとまあまあ通じるのに、山側の部屋に行くと全然通じないの。それがちゃんと通じるようになるのはありがたいよね。電波が入るようになったら、みんな島に遊びにきてよね! 魚貝類供養塔とうちで育ててるブランド魚の『戸島一番ブリ』が自慢だよ!」と満面の笑み。

「こういった声を地元の方から直接いただけるのがうれしいです」という小田と難波もうれしそうだ。

四国の島々をコツコツとエリア化してきた これからもつなぎ続ける

今回の嘉島のように、これまでもずっとKDDIでは四国の島々で携帯電話がつながるように仕事を続けてきた。難波と小田は、それを象徴するような場所に案内してくれた。

宇和島の北側・八幡浜の海岸線からそそり立つ段々畑だ。まだ青いみかんが身をつける山の上に基地局が立っていた。近くの町だけでなく、これも島に電波を飛ばす無線エントランス親機の役割も担っている。

宇和島市のみかん山から湾を見下ろす基地局

「愛媛では、みかん山に基地局を建てるケースが多いですね。みかんを育てるうえで、海に面していることがたぶん重要だと思うのですが、それが島に電波を送る無線エントランス局の立地としても悪くないんです」(難波)

みかん畑だからこそ、通常の山であればなにもないはずの山の上に電気が通じていて、島への見通しもバッチリ、というわけだ。

これ以外にも、たとえば、大洲市沖に浮かぶ「青島」。いわゆる猫島として、知る人ぞ知る観光地でもある。ここは四国側から電波を飛ばしてエリア化した。これにより、地域のみなさんはもちろん、島を訪れる観光客に携帯電話を使ってもらえるようになった。

青島の猫

「四国の島々には、これまで百数十の基地局を建設し、エリア化に努めてきました。今回のように、直接住民の方の声を聞けるとありがたいですね。仕事へのモチベーションも高まります」(難波)

「今回の嘉島に続き松山市沖の二神島の対策も予定しています。地域のみなさまがより快適にauをお使いいただけるよう私たちはこれからも取り組みつづけていきます」(小田)

嘉島に向かう船で語り合う難波と小田

つながらない場所をつないだ後には、つながった場所を正しくつなぎ続ける取り組みが生まれる。今日も、海を渡り山を駆け巡り鉄塔によじ登り街を見渡し、携帯電話の電波をつなぎ続けるために、“現場”は動き続けている。

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文:武田篤典
写真:稲田 平

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