2018/06/28
緊張で思わず「はやく終わって…」 サッカー国際大会映像を日本に送る男たちの舞台裏
“日本代表”、ロシアでミスのないプレーで躍動
先制のPKが決まった瞬間も、逆転のシュートがゴールに吸い込まれる瞬間も、勝利を告げる笛が三度吹き鳴らされる瞬間も、二度突き放され二度追いついた粘りの展開も、映像は途切れることなく乱れることもない。私たちが画面の前で夢中になることができるのは、確実でミスのない“プレー”を彼らが続けているからだ。
彼らとは、……映像伝送日本代表・KDDIチームのことである。
サッカー国際大会の映像を日本の放送局に送るためのロシア生活も約1カ月。モスクワの「IBC」(国際放送センター)に24時間4交代制で詰め、映像を監視し続けている。モスクワにて放送局から映像を受け取り、海底ケーブル経由で東京の放送局に受け渡すのが彼らの仕事だ。
代表を応援する熱い魂は持ち合わせつつ、サポーターとして最大限の力を発揮するのは映像伝送。彼らが日本代表応援スタイルなのは「TIME & SPACE」がリクエストして、代表応援Tシャツを送りつけたがゆえ。普段は100%監視に集中!
国際的サッカー大会を日本にミスなく送るミッションを受けた「通信のサムライたち」。その戦いを現地からレポートするシリーズの、今回は後編。
サムライたちが総重量2000kgの機材とともにモスクワに乗り込んだ「前編」はこちら。
レポートしてくれるのはKDDI グローバルネットワーク・オペレーションセンター 映像サービスセンターの三戸武大(さんのへ・たけひろ)。今回、ロシアでのサッカー大会のために組まれたチームのシステム構築・現地運用を担当している。
運用初日は開幕前! ……から今に至る
ズドラーストヴィッチェ(こんにちは)! KDDIの三戸です。
疲れ果てた顔よりも、今の私の心の支え、美味すぎる地元のヨーグルト「トヴォローク」をもってポートレート写真に替えさせてください。
前回、先行隊の6人を紹介しましたが、その後チームメンバーが揃い、現在KDDI「グローバルネットワーク・オペレーションセンター」映像サービスセンターは、10人で日々ミッションを遂行しています。
まずは残り4人の紹介から。
左が辻義人。映像運用のスペシャリストです。トラブルに対する対応は誰よりも早く、的確。あと、声も誰よりもでかい。運用業務のお手本となってくれる大ベテランです。ちなみに右は前回先発隊で入った並河雄紀です。
そして竹原潤。映像伝送のためには現地通信会社との連携は必須。すぐれた語学力と豊富な国際知識で、現地通信会社との折衝を担当しています。
左・織田 知樹、右・豊城 晃彦。織田は、普段、山口県にある衛星通信所で映像システムを支えています。今回は私とタッグを組んで運用しています。豊城は豊富な映像知識に加え、分析力の鬼。以前、フランスのイベントのときに、海外での仕事のノウハウを教わった先輩です。
前回も書きましたが、私たちの仕事は日本の放送局に高品質の映像をお届けすること。国際中継では、スタジアムから「IBC」に映像が届き、それを私たちが日本に届けます。
①スタジアム→②IBC(放送局)→③IBC(KDDI)→海底ケーブル→④東京・映像サービスセンター(KDDI)→⑤各放送局→⑥お茶の間
私たちが担当するのは③から⑤の区間。
その過程で問題がないかを、見届けるわけです。「サッカー国際大会の中継に行く」っていうと、多くの友人たちはこんな様子を想像するのですが、職場はあくまで「IBC」のKDDIルーム。
そんなわけで、目の前にあるのは美しい緑のピッチ……ではなく、PCやモニターたち。PCで各装置の状態をリアルタイムで監視しています。また、モニターは、「IBC」側では放送局から届いた信号をチェックするために使います。東京側では同じような監視環境で、東京の放送局に戻す前の信号を監視しています。ロシアで行われているすべての試合の信号を同時に監視することになるので、一画面で複数の信号を監視できるような運用環境をつくっています。
こんなふうに一画面にたくさんの信号が映し出され、一挙に監視できるのです。
このサッカー国際大会の開幕は実際の試合中継が始まる6月14日でしたが、私たちの運用業務開幕はそれよりも2週間ほど前でした。なぜなら、その段階でもリハーサルの様子や練習風景を撮影した映像素材を流すからです。「大会が始まってからが本番である」というような認識はありません。運用中は、生きた心地がしないですね。スポーツと同じくなにがあるかわからないのが国際映像伝送なので、いくら面白いコンテンツであっても早く無事に終わってくれ……というのが正直な心境です。
この大会において、私たちの試合は「傷のない映像を日本の皆様に見ていただくこと」です。そのため映像を「監視」する必要があります。よく仕事中に試合を観られるなんていいなぁと言われるのですが、そこに「観戦」という意識はありません。ただ、そうは言っても、やっぱり日本を応援したいというのは本音で、日本戦は熱くなってしまいます。また、日本人に限らず良いプレーが目に入ると自然と声が出てしまいます。
ちなみにですが、オフィシャルショップには出場国の国旗をあしらったTシャツを売っていました。チームメンバーの並河は日本の国旗Tシャツを購入していました。
私たちの職場「IBC」
これが私たちの職場である「IBC」です。ここには世界各国の放送局はもとより、私たちのような通信事業者もそれぞれの部屋を持ち、ロシアから各国への放送を行っています。
IBCの中はこんな感じになっています。電車の駅と直結しており、便利です。若干薄暗く閉鎖的なイメージです。
カフェテリアなどもあり、隣接しているショッピングモール内の飲食店は充実しています。和食のお店や有名なファストフード店もあって、そっちに行くことのほうが多いです。
普通に業務をしていると、他の国の放送局や通信会社とは関わりはないのですが、業務見合いでコミュニケーションを取りに行ったりします。
以前に担当したイベントについて話し込むこともあり、辻は1998年長野のイベントについて75歳(!)のロシア人ベテランエンジニアと盛り上がっていました。
たまの休みにはロシアを楽しんでいます
こちらは、佐藤が滞在している部屋です。我々の部の中で一番広く、部屋からの夜景も綺麗です。この写真のようにあたりが暗くなる時間は一日の中でとても短く、この時期の日の出は4時ごろ、そこから21時過ぎまではずっと明るいです。
6月の平均気温は20℃前後で日本のようにジメジメしていないため非常に過ごしやすいです。
ロシアらしい光景も紹介しておきます。たとえば、こちらは最寄りの地下鉄の様子。美術館とかではありません。
スーパーのお酒売り場。全部ウォッカです。いくつか飲んでみましたが、それぞれ特徴があります。何がなんだったかは覚えていませんが(笑)。
あと、即席味噌汁みたいなノリで“インスタントボルシチ”が売られているのも、さすがロシア。
ロシアといえばビーフストロガノフが有名ですが、これは素直においしかったです。ほかのものと違って、繰り返し食べています。
私がいちばん感動したのは、冒頭で紹介したヨーグルト「トヴォローク」です。カッテージチーズのような食感で濃厚な味わい。何種類かフレイバーがあるなかでもベストはブルーベリー味。あまりにも美味しいので、スタッフのみんなにおすすめしまくっています。スタッフも私もまとめ買いするので、最寄りのスーパーからブルーベリー味がなくなることもしばしば。正直、おすすめしたことを後悔しています(笑)。
モスクワの中心街の様子です。みんなで大会を楽しもう! みたいなイベントがあちこちで行われていて、地元の人も観光客もたくさん集まっています。実際にロシアのみなさんと触れ合ってみましたが、とても親切で温かい人が多い印象です。また英語に苦手意識のある人が多いようで、そんなところは日本人と似ているなと思いました。
モスクワでは今回のサッカー国際大会に集ったサポーターたちに向けた「ファンフェスタ」が行われていて、大いに盛り上がっています。私たちも、通信面から大会を支える“サポーター”ですので、オフの日に参加してみました。ロシアが大勝した日の盛り上がりは、夜になっても続いていました。
もちろん、そんなときでも「IBC」では、途切れさせることなく映像を送り続けています。
KDDIの担当者が目を皿のようにして、昼夜モニタリングを行います。
そしてそんな日々は7月15日の大会終了まで続きます。
私、三戸のロシアからの現地レポートはここまで。お付き合いいただきありがとうございました。テレビでサッカーやスポーツの国際大会の映像を見られるとき、チラッと思い出していただけると嬉しいです!
そして大会は続いていく
試合が行われている限り、必ずモニターの前にいて、サッカー国際大会の映像がそこから日本に届けられているのを監視し続けている。
私たちが自宅のリビングルームなどでテレビの画面に歓声を上げることができるのも、そんな「通信のサムライ」たちの裏舞台での活躍があればこそ。さぁ、サムライたちの戦いを応援しよう! そのための準備は万全なのである。
文:三戸武大、TIME & SPACE編集部
撮影:三戸武大
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