2018/06/13
映像は途切れさせない! サッカー国際大会をロシアから日本に届ける『通信のサムライ』たち
代表をアシストするため、2018年、男たちはモスクワへ
こちらが“日本代表”の面々である。
ピッチを駆け回り、熱い戦いを繰り広げるサムライたちがいて、遠く離れた日本ではテレビの前に陣取って、彼らの勇姿に拳を突き上げ、叫ぶ私たちがいる。その両者を結びつけるのが、この“日本代表”メンバー。
ロシアからサッカー国際大会の映像を日本のテレビに送るために、KDDIのサムライたちがロシアに渡ったのである。
そしてここが彼らの“ピッチ”ともいえる「IBC」(国際放送センター)だ。
“本番”に先駆けて、この5月、KDDIの技術スタッフが6名モスクワ入りした。のちに現地で合流する後発隊と合わせて10人。彼らのミッションは、ロシアのスタジアムで行われる試合の映像を、この「IBC」から、事故なく遅延なく日本に届けることだ。
今回は、世界的なスポーツ大会の裏で繰り広げられる、「通信のサムライたち」によるもうひとつの負けられない戦いを2回に渡ってお届けする。
レポートするのは、KDDI グローバルネットワーク・オペレーションセンター 映像サービスセンターの三戸武大(さんのへ・たけひろ)。今回、ロシアでのサッカー大会のために組まれたチームのシステム構築・現地運用を担当している。
どんなふうにして国際映像は日本に届けられるのか
はじめまして! KDDIの三戸です。
今回、ロシアに渡る私たちが所属しているのは「グローバルネットワーク・オペレーションセンター」の映像サービスセンター。海外で行われるイベントをリアルタイムでみなさんに視聴してもらうために、放送局様に高品質の映像をお届けする仕事をしています。入社5年目の私が海外に行くのは今回のサッカー大会で3大会目。国内での対応は数多くこなしているものの、やはり海外はドキドキします。
実は大きなスポーツの国際大会では、行き先や競技内容は違えども、私たちの担当する仕事は大きくは変わりません。それは、海外で行われるイベントをリアルタイムでみなさんに視聴してもらうために、日本の放送局に高品質の映像をお届けすること。今回の私たちの仕事場はモスクワのメイン会場から電車で30分ぐらいの場所に設けられた「IBC」(国際放送センター)になります。
試合が行われるのはロシアの11都市12会場ですが、私たちはスタジアムに直接出向くことはありません。会期中は宿舎から「IBC」に通う生活になります。
こちらが「IBC」の中の「KDDIルーム」。国際中継の映像は、以下のような流れでみなさんのお宅に届きます。
①スタジアム→②IBC(放送局)→③IBC(KDDI)→海底ケーブル→④東京・映像サービスセンター(KDDI)→⑤各放送局→⑥お茶の間
私たちが担当するのは③から⑤の区間。スタジアムの中継映像はまず「IBC」に届きます。
受け取った映像を日本に送って、放送局にお戻しするのが私たちの仕事。……なのですが、中継映像はそのままでは容量が大きすぎて費用が莫大になります。そのため「IBC」のKDDIルームで、一旦映像を圧縮するのです。圧縮された信号を海底ケーブル経由で東京の映像サービスセンターに伝送し、改めて元のサイズに戻した後に放送局へとお渡しします。
仕事はそれゆえ、“寝ずの番”
「IBC」での勤務は、チームを組み、1日4交代制で映像が適切に伝送できているかを監視し続けます。いわば“寝ずの番”。24時間誰かが映像を監視している状態です。「IBC」だけではなく、東京の映像サービスセンターでも同様に“寝ずの番”が行われています。
こちらが東京の映像サービスセンター。今回のサッカーの国際的イベントに限らず、私たちの部署のスタッフが世界各地の中継映像を24時間体制で監視しています。今回のイベントでは、通常体制よりも人員を増やし、より重点的な監視を行います。
私たちがこの仕事をするうえで、もっとも大切にしなければならないのは「貰い受けた映像信号を劣化させることなく放送局に受け渡すこと」です。絶対に映像を途切れさせてはいけません。そのために行っているのは「異ルート」での同時伝送。今回のモスクワに限らず、海外からの中継映像は、まったく同じデータを「東回り」「西回り」で複数の海底ケーブルを経由して日本に送っているんです。
映像信号の出し元(今回の場合はモスクワ)から、両ルートに同じ信号が伝送されるように設定し、受け側(東京)は両方の信号を常時監視しています。片系でなにかトラブルがあったとしても、無瞬断で、つまり一瞬たりとも映像が途切れることなく切り替わる仕組みを構築しています。
ちなみに「IBC」で私たちが映像を受け取って、日本の放送局様に戻すまで、約2〜3秒です。それを映像的に「無傷」でやってのける。そこにKDDIのスキルがあると自負しています。これ、直属の上司の受け売りなんですけどね。
機材はすべて日本で試験の後、現地に持ち込む
大会の開始は6月半ばなのですが、まず先発隊の6名は、5月中旬からモスクワ入り。その際、私たちは放送用の機材をすべて東京から持ち込んでいます。
それがこちら!
ダンボールにして106個、総重量約2,000キログラム。これらを全部モスクワのIBCに向けて発送するわけです。
中に入っているのは……
この写真にあるような機材・ケーブル類。これは東京での映像試験の様子です。
さっきの「IBC」と同じように見えますよね。それもそのはず、東京でもモスクワの「IBC」と同じ構成でセッティング。
きちんと通信できることを試験を何度も行って確認するのです。
実はこれらの機材は、今年2月に韓国の平昌で行われた、同様の世界的スポーツイベントの中継に使用したもの。普段、イベントで使用した機材は倉庫に収納しておくのですが、今回は日程的な余裕がほとんどなかったので、機材が“帰国”するや否や、荷ほどきしてすぐに組み直し。きちんと機能するかを改めて検証しました。
私たち先発隊は、モスクワの「IBC」に入ると、また同じように機材をセッティング。
そして、通信の試験を行います。
ちなみに私が着ているこちらのパーカは、2年前大きなスポーツの国際大会時に担当チームで作ったユニフォームになります。「地球の裏側から東京へと通信するぜ!」という私たちのマインドがデザインされています。実は私、2年前のリオでも現地入りメンバーに選ばれていたのですが、直前に体調不良で代表から離脱して、東京側で参加しました。そのときの悔しかった気持ちをバネに、モスクワでがんばります!
代表よりも早く、ロシアに乗り込んだサムライたち
では最後に、今回、モスクワ入りする10人のメンバーから、先発した6人を紹介します。
チームのキャプテン・山田昌弘(写真右)。
山田は入社26年目。“長野”以降ほとんどの世界的なスポーツの祭典に参加し、世界陸上・世界水泳・世界卓球などにも参加(通信の担当としてですよ!)している猛者です。現地入りしている放送局のみなさんとの折衝や、そもそもの今回のメンバーの選出、24時間交代制のフォーメーションなどを決めます。「IBC」で出会った他国からの技術者とパチリ。
そして若手が、左から佐藤健太・並河雄紀・吉岡奨悟……に、私、三戸武大を加えて4名です。佐藤は入社2年目のホープ。専門分野は電気系。作業においては映像の監視環境構築を担当します。ちなみに茶道が得意だそうです。
並河は入社6年目のユーティリティー・プレイヤー。特に専門の知識は映像サービスセンタートップクラス。とても頼りになる家族思いのお兄さんです。
そして吉岡は入社3年目のムードメーカー。入社して以来東京の運用チームで修行を重ねてきました。その運用に関する知識量もさることながら、長丁場の国際映像伝送のチームには欠かせない存在です。
そしてエンジニアの北本篤史。
世界的なスポーツの祭典やアジア大会などを軒並み体験してきた、入社10年目の猛者で、50代のベテランを含め映像関係の誰からも頼られる存在です。忙しいなか、なんでも優しく教えてくれる大先輩です。
北本は経験豊富なだけあり出張の荷物が極めて少ないです。基本、「現地調達」が信条。私なんか、枕が変わると眠れないのでわざわざ持参しちゃいました。いつもそうです。で、北本に笑われたりしています。
そして私、三戸。「TIME & SPACE」編集部から「スーツケース見せて!」とリクエストされてしまったので、すみません、ちょっとだけ……。
左がマイ枕です。ちなみに右側下部にうっすらと鍋の素とかめんつゆが透けています。長期の海外出張になると、やっぱり日本食は頼みの綱です!
以前、キャプテンの山田に、この仕事に求められる素養を聞いてみたのですが、「とくに必要ないかも」と笑っていました。「なによりも大事なのはやる気! それからテレビが好きなこと。ちゃんと日本に中継が届いているかを監視強化する仕事なので、競技が好きすぎるといつの間にか観客になってしまう。そこは注意しないといけないかもね」と。
なるほど、競技にハマりすぎると仕事を見失ってしまいかねないと。肝に銘じつつ、モスクワでの仕事には、お休みもあるので、できればスタジアムにも出向きたいなあなどと思いつつ、初回のレポートを終わりたいと思います。
というわけで、以上のメンバーで日本代表の勇姿を、事故なくきちんとロシアからお届けします。次回はいよいよ開幕。実際にモスクワで過ごす日々や、初戦キックオフを迎える緊張感をお知らせしたいと思います!
文:三戸武大、TIME & SPACE編集部
撮影:三戸武大
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