2018/06/27
AR技術で恐竜を倒すハウステンボス『ジュラシックアイランド』 船で40分の無人島へGO
やってきたのは長崎「ハウステンボス」!
ヨーロッパの街並みを忠実に模した園内では1年中花が咲き乱れ、イルミネーションがきらめき、音楽とショーに満ちあふれている。
だが、われわれの目的地はまだ先だった。
場内のハーバーから小さな船に乗り込むと、すぐさま出航。
そのハウステンボスからおおよそ6kmの沖合にある無人島。そこには花もイルミネーションも歌もない。
その代わり「恐竜がいる」のである。その島の名は「ジュラシックアイランド」。
われわれのミッションは、「島に住み着いた恐竜たちを撃退し、島に眠る財宝を手に入れる」というハウステンボスの最新アトラクションをリポートする、というものだ。
というのもこちら、ハウステンボスとKDDIがタッグを組んで生み出したものだから。
まずは「ジュラシックアイランド」とはどんなアトラクションなのか。
ハウステンボスのハーバーを出て約40分、船は「ジュラシックアイランド」に到着。上陸するのは10名程度のハウステンボス×KDDI混成チーム。開発中の島にいち早く上陸して、アトラクションのチェック部隊にわれわれTIME&SPACEも参加させてもらったのだ。
「ジュラシックアイランド」上陸!
島全周1.2km。ひょうたんを細長くしたような形状で、船はちょうどくびれの部分に接岸する。
ここは無人島。
オープン準備中の桟橋はブイを使った簡易的なものだった。船が着いたのはベースキャンプと名付けられた場所。島内はうっそうとした森に覆われ、ここだけが開けている。島の設備は写真がすべてだ。ベースキャンプからは何本かの小道があって、森へと通じている。その道を行けば丘に登り、海に面した岩場に出ることができる。
そんな森の中で恐竜と戦うのだ。「AR」で。
「ジュラシックアイランド」とは??
島に上陸した参加者は、スコープ付きのライフルを支給される。
VR用のヘッドマウントディスプレイをカスタマイズし、スマートフォンをはめ込んで、ARスコープ化したものを装備してある。ちょうど「VR」と「AR」という言葉が出てきたので、両者の違いを簡単に説明しておくと……。
「VR」とは「Virtual Reality=仮想現実」。CGや360°カメラで撮影した映像などを使って「まるで現実であるかのような空間表現をすること」。その世界にユーザーが触れることで、現実みたいな体験ができる。
一方「AR」は「Augmented Reality=拡張現実」。スマホやタブレットなどの現実のカメラ映像に、現実にはないデータや映像を重ねて表示するもの。今回の場合、スコープに装着したiPhoneの映像に、実際にはそこにいない恐竜の巣姿を合成してみせること。
スマートフォンとライフルをBluetoothで接続、トリガーを引くとスコープ内から銃声がし、スコープ内のターゲット(恐竜)に着弾する。あと、黒いグリップは7,000mAの外付けバッテリーだ。
このライフルを携えて森に入り、ARスコープに次々現れる恐竜たちを撃退するのである。だから見るのはスマホ。町中でモンスターをゲットするあの世界的スマホゲームアプリの、“森の中で恐竜と戦う版”と想定するとわかりやすいだろう。
せっかく無人島にいて、実際に森の中を探索しているのだ。そこでスマホの画面だけ見て擬似的に戦うのってどうかと思うかもしれないけれど、コレがめっぽう面白いのである。
さあ、ゲームの始まりです
整備は最低限で、森は森のまんま。道無き道を進んで行く。枯葉を踏みしめ木の根を踏み越え、探索する。飛び出してくるバッタは本物だ。頭上ではサイレンや、プロペラ機の行き来する音響効果がスピーカーから流れ、アドベンチャー気分を盛り上げてくれる!!
で、われわれのスコープに映し出されるのがこれだ!
背景は実際の森の景色。そこに突如恐竜現る! ターゲットを追い、銃の向きを変えれば、足元からパキパキ小枝の折れる音。風と木の匂い。嗅覚と触覚は森をガチガチに感じつつ、視覚はARに集中。聴覚はARとリアルのハイブリッド。
「ホントに恐竜と戦ってるんだ!」と強烈に実感できるのは、きっと「船で何十分もかけて無人島に来て」「森の中にいる」からこそ。それが「ジュラシックアイランド」!
普段は探索モード。スコープに表示される矢印に従って進む。そして恐竜に近づくと警告音が鳴る。本当に近くに恐竜がいるのか? 「地面にある恐竜の足跡」を探すのだ。スコープを地面に向けて足跡を確認したら、戦いが始まる。
ゲームは大きく3つのステージに分かれていて、1ステージ内で一定の恐竜を倒せばクリア。次のステージへのロックが解かれる。武器がパワーアップしたり、ボーナスステージに参加することができたりもするのだ。そして、同時プレーするチーム内で、点数を競い合う。
そしてトータルの点数と順位、倒した恐竜の数が表示される。
彼女が頭上を狙っているのは、そこに恐竜の姿があるからである。つまり……このぐらいデカい恐竜も現れるということ。もう! 超楽しい!! 1周回った取材班がベースキャンプに戻るや否やはなった言葉が「もう1周!」なのであった。
支える通信のチカラとは?
さて、この「ジュラシックアイランド」を技術面でサポートしたのが彼ら。
KDDIの北﨑修央と氏原佳彦だ。
このふたり、「アトラクションを通信という側面から支えている」ではなく、「アトラクションをゼロから一緒に立ち上げた」のである。
北﨑「そもそも1年半ほど前に、ハウステンボスさんが大村湾の無人島を購入されたんです。社長の澤田秀雄さんは恐竜がものすごくお好きなんですね」
氏原「ハウステンボスさんとはこれまでもドローンレースを開催したり、『Linked-door(リンクドア)』というVRコンテンツを設置したり、関係性は深かったんです。それで、昨年私たちが『ギガ恐竜展』でやったARのコンテンツをご覧になって、声をかけていただいたんです」
北﨑「『無人島に恐竜が実際に出てきたら楽しいよね。ARでなにかできないか?』という話が最初だったんです」
制作の要件は「ARを使った恐竜を撃退するゲームで、最大75人同時プレーができること」。
北﨑「75人同時プレーだと、まずサーバーときちんと通信できることが重要です。そもそも無人島なので、電波状況が一切わからない。Wi-Fiを引くにもコストも手間もかかるので、もしかしたら基地局を立てないといけないかなと思っていたんです」
そこで「福岡TC」に声をかけた。TCとは「テクニカルセンター」の略で、その場所に携帯電話の電波が届いているのか否か、その強さはどんなものかを調査するチームである。
氏原「それこそ何度も来てもらって、電波調査を実施しました。結果的にはまったく問題ありませんでした。非常に強い電波が届いていて。……というのも、実は基地局が島から見える位置にあったんです」
北﨑「ハウステンボスからは6km離れるんですが、湾の沿岸だったので電波はバッチリでした。水道も電気もガスもなにもなかったけど、電波だけはあったんです(笑)」
取材時にも、ホラ、完全に4本立っているのである!
初上陸時には“平地”もなかった。今のベースキャンプ部分はうっそうとした森に覆われていて、上陸もままならなかった。そして、雪の降る極寒の中調査を開始。なにもない無人島。足場も悪く、どうアトラクションとして成り立たせることができるのか。こちらがそのときの様子。
当初はこんなに草ボーボーだったのだ。木々を伐採し、簡単な階段や柵などをハウステンボスチームに設置してもらい、意見を交換しながら、北﨑と氏原は何度も現地に足を運んだ。
通信の問題は、ほぼない。注力したいたのは「安全性を担保しつつ、いかにワクワクや楽しさをお客様にお届けできるか」という点。企画検討は、ハウステンボスチームと一体となって入念に行われてきた。
なかでも大きかったのは“島ならでは”といえる、ARの課題。
北﨑「屋外で山の中を歩き回るわけですから起伏が激しいですよね。斜面だらけです。そこでARをやるのが難しいんです。多くのARアトラクションって、仮に屋外であったとしても“平地”なんですよ。現実にないなにかが姿を現すとしても、平面にそのまま置けばいいんです」
たとえば、こちらは昨年の『ギガ恐竜展』で実施したAR。ティラノサウルスが会場の床を踏みしめて立っている。
北﨑「今回のジュラシックアイランドの場合、そこが傾斜してるという情報をちゃんとプログラムに与えないと、斜面を認識できないまま恐竜が出現してしまったりするんです」
氏原「それを解消するための秘策は、ゲームのアクションのなかで自然に平面認識をしてもらうこと。意識することなく、違和感のない恐竜の出現を可能にする工夫を取り入れたんです」
そのアクションとは……。
これで自ずとプレイヤーはスコープを地面に向ける。この時ARアプリは地面を認識するようになっている。
氏原「あとGPSと連動させて、プレイエリアを3つぐらいに分け、出現する恐竜の種類を変えているんですが、“どこにどの恐竜が出てくるのか”を考えるのは大変だけど面白かったですね。ゲームの面白さに関わってくる根幹ですから」
もはや「アトラクションを通信で支える」といったレベルの話ではないのだ。
通信は最後の砦。
受けた案件は「無人島で恐竜ARで75人同時プレー」だ。「75人同時プレー」部分だけを満たしてOKというわけではない。
ゲームのシナリオを考えるだけでなく、実際にはライフルをカスタマイズし、スマートフォンを取り付けるスコープを製作し、スコープとライフルを物理的につなぐアタッチメントの開発も行った。
北﨑「なにしろ、まだ世の中にないものですからね。スマホとライフルをつなぐなんてことは誰もやろうとしてないじゃないですか(笑)。プロジェクトを進めるなかで必要になってくるものがあれば、作るしかないですよね」
氏原「3Dプリンターで造作して、あとは工場に発注したりして。今回はライフルをペイントするということもしました(笑)。ライフル自体は既製品なんですが、そもそもボディが赤で、澤田社長から色の提案がありまして。ライフルの使わないボタンを接着剤で埋める作業もしました」
北﨑「与えられたお題に面白い企画を返して、そのミッションを完遂するために、ハードとソフトとネットワーク含め、今回は一貫してサポートをしてきた感じですね」
なので、すべてが通信会社としての仕事に紐付いているわけではない。正直、たとえばこうしたアトラクションなら、それを作る専業の会社も沢山あるかもしれない。
北﨑「そうは言いながらも我々は通信事業者なので “最後、通信の部分はバッチリやりますよ!”って言えるんですよね。なにか新しい案件をやるうえでスマートフォンが使えますし、基地局を建てて電波を吹かせる(圏内にすること)こともできる。それがメインに出てこない案件だったとしても、そこは最大の強みだと思っています」
氏原「僕らはオーダーいただければ、ゼロベースからプロトタイプ的なところを開発して、それを固めていくことでソリューションへと広げていけると思っています。今後も、こういうかたちで通信を絡めてサービスを推進していきたいですね」
北﨑「通信をうまく使うことで、私たちの日常はこんなにも豊かで面白いものになるんだと。いわば“ライフデザインと通信の融合”を実現するために、これからも新しい挑戦を続けていきます」
実は、今後も世の中にない新たなプロジェクトをKDDIが手掛ける予定がまだまだあるのだという。
詳細はまだ「秘密です(笑)」(北﨑)。
通信のチカラをうまく取り入れることで、生活にフレッシュな驚きと面白さをもたらすことができるのだ。「ジュラシックアイランド」は、まさにその好例。
これ、大人でも十分に超楽しめます。通信のソコヂカラ、ぜひ体験してみてください!
- ジュラシックアイランド情報
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7月1日オープン。
12人乗りの専用船で「ジュラシックアイランド」までは約30分。無人島に上陸したら恐竜との戦いの始まりだ! 24人で協力して“ヤツ”を倒せ!料金は2,100円(ハウステンボス⇔ジュラシックアイランド航路運賃含む※別途ハウステンボスへの入場料が必要)詳しくはこちら。
文:武田篤典
撮影:稲田 平
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