2015/01/19

大和インベスター・リレーションズの『インターネットIR表彰』でKDDIが『最優秀賞』を受賞 スペシャリストに聞くIRサイトの意義に迫る

投資家のための情報をウェブサイト上で提供するのがIR(Investor Relations)サイトだ。KDDIでは2014年にIRサイトのリニューアルを実施し、大和インベスター・リレーションズが毎年上場企業を対象に行っている「インターネットIR表彰」で、2014年度は「最優秀賞」を受賞し、7社の1社に選ばれた。企業IRサイトがこれから目指すべき姿やKDDI IRサイトへの課題と今後について、大和インベスター・リレーションズで「インターネットIR表彰」を担当する松永聖祥氏と堅持 博氏とKDDIのIRサイトを担当する青木由紀にお話を聞いた(以下、敬称略)。

外国人と個人の投資家増加でインターネットIRが重要に

家計の資産構成※1
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—まず、企業のIRにおいてインターネット活用がますます重要になっている背景について教えて下さい。

松永:大和インベスター・リレーションズは、「インターネットIR表彰」を2000年に開始して、今回で15回目となります。当初はインターネットが企業のIRメディアとして使われ始めたばかりで、まだ一般的なものではなかったのですが、その頃からの変化を見てきました。国内のIRサイトの表彰制度としては最も古いものになります。

その後の状況はご存じのとおりで、企業のIRにとってインターネットは必須のツールとなっています。その背景の一つには、株主構造の変化があります。投資主体別の株式保有状況では、1990年代のバブル崩壊後に、それまで高かった機関投資家や金融機関の比率が低下し、法人間の株式持ち合いが解消され、外国人投資家の比率が増えました。現状では保有比率で約3割、売買においては6割以上を外国人投資家が占めています。一方、個人投資家については、1990年代半ばにオンライントレードが開始されましたが、期待されるほど保有・売買比率は伸びていません。いまだ日本の個人金融資産1,600兆円の5割以上を占めているのが現預金です。

こうしたなか、個人資産を預貯金から株式や投資信託に移行させる「貯蓄から投資へ」を進めるため、英国の制度を参考に2014年からNISA(少額投資非課税制度)が導入されました。

このように、外国人や個人の重要性が増しているなか、企業のIR活動における効率的な手段として、インターネットはIRの中核メディアと位置付けられています。

スマートフォン・タブレットによるIRサイトの閲覧状況※2
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—IRにインターネットを活用することでどういったメリットがあるのですか。

松永:企業にとっての一番大きな強みは自社で更新ができるということだと思います。タイムリーに情報を配信できる、過去の情報をいくらでもアーカイブできる、情報の制限がなく自由度が高いといったメリットがあります。また、メールなどを活用して株主との双方向コミュニケーションがいつでも可能になります。従来から行われていた会社説明会や冊子などのツールももちろん活用するのですが、ハンドリングのしやすさという点で、IRサイトの重要度は極めて高くなっています。

青木:通信事業者としても気になるのですが、投資家の方のスマートフォンやタブレットの利用状況はどうなのでしょうか。

松永:個人の方はまだ利用率は低いですね。スマートフォンでIRサイトをご覧になる方は未だ14%です。ただ、去年の調査では一桁でしたので着実に増えていますし、企業側の新しいデバイスへの積極的な対応が期待されています。

我々の評価基準は、投資家の情報ニーズを反映し、新たなデバイスへの対応なども取り入れています。

ニーズの変化に応じて毎年見直される評価基準

2014年度の評価項目(大項目)と配点※2
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—大和インベスター・リレーションズの「インターネットIR表彰」は、どのような企業が評価対象になっているのでしょうか。

松永:まず一次審査は全ての上場企業3,605社のIRサイトを対象に基本的な項目が掲載されているかどうかを調査し、二次審査は、日本語版サイトを、「大和IRスコアボード」という独自の評価基準に基づいて定量評価します。評価項目は毎年見直しており、今年は117項目となりました。117項目を12の大項目に分類していますが、今年の評価基準に新たに取り入れたのが「ESG(環境・社会・企業統治)」という大項目で、社会との対話、サステナビリティーや環境配慮などの項目をまとめたものです。また、昨年からは、IT技術やスマートフォンなどの新しいデバイスへの対応状況を調べる「ICT利活用の促進」という大項目も新設しました。

最終審査は、日本語版のみに求められる項目を除外した「大和IRスコアボード」による英語版IRサイトの定量評価に、英文のクオリティなど英語独自項目を加えて評価します。最終段階として、日本語版と英語版の評価を7:3の割合で統合した評価に基づき受賞企業を選定します。

当初は評価項目と評価基準の見直しは毎年社内で行っていましたが、2008年からは、より客観性を持たせるために、青山学院大学大学院の北川哲雄教授に監修していただいており、企業へのヒアリングや投資家の方へのアンケート結果も参考にしています。また、2012年から英語サイトを評価対象に加えましたが、英語サイトまで評価対象になっているのは弊社の表彰だけです。

2000年に表彰を始めた時には、そもそも採点対象になるレベルに達している企業が少なかったのですが、企業IRサイトの質はどんどん向上しており、IR活動における中核メディアとしてのプレゼンスが定着したと考えられます。

マルチデバイス時代への対応が今後重要に

—今年の全体の傾向があれば、教えてください。

松永:今年の基準の特徴は、昨年2月に公表されたスチュワードシップ・コード(投資家に対し、責任をもって議決権を行使するなど、あるべき姿を示した方針)や、金融庁によって現在進められているコーポレートガバナンス・コードに向けた社外取締役の選任状況などへの対応を基準として取り入れました。こうした動きにいち早く対応していくかどうかという企業姿勢の格差が出ているのかなと思います。

堅持:少し評価という観点からははずれますが、海外の企業では、マルチデバイスへの対応として「通信費がかからないように」という点を意識して、ページができるだけ遷移しない、1回の読み込みで多くの情報が取れるように設計しています。そのためには、1ページを上から下に読んでいっても分かりやすいストーリーの構成や、重要な数字を目立たせるなど、PC用のページとは異なる工夫が必要になります。私たちの評価基準にはまだ取り入れていませんが、そうした努力をされている企業は出てきています。

松永:端末が変化してきていますから、マルチデバイス対応ニーズはますます高まると思います。今、スマートフォンで見る人が少ないのは、そもそも企業情報がスマートフォン対応していないので、スマートフォンで見る習慣がないということもあるでしょう。ページがスマートフォン対応になれば、見る人も増えるのではないでしょうか。

KDDIの評価ポイントは「ICT活用」と「情報の整理」

青木:今回、KDDIは最優秀賞をいただいたのですが、良かった点と悪かった点を教えてください。

松永:最優秀賞の7社で相対比較して、まず評価が高かったのがトップページで、最初の入り口を個人投資家向けと機関投資家向けに分けたところが評価されました。また、ICT活用について高くなっているのはスマートフォン対応が進んでいることなどが評価されており、その点はさすがですね。

ほとんどの企業では英語サイトの方は日本語サイトに比べてまだまだ発展途上です。御社も改良の余地はあるのではないかと思います。

堅持:御社では個人投資家向けの説明会を全国で行っており、年度別に説明内容もきちんと掲載されています。説明会に参加できない個人投資家の方は大勢いらっしゃいますので、ウェブにこうした情報がきちんと載っていることは重要です。その他の情報も整理されており、情報にアクセスしやすいサイトになっています。昨年から今年にかけて大きなリニューアルをされた効果が、高い評価につながった印象です。

青木:当社は個人株主の増加を目指し、昨年度は各証券会社のご協力を経て、会社説明会を17都道府県で32回実施することができ、のべ約3,000人の個人投資家の皆さまにご参加いただきました。今年度も同等レベルを目標に、全国各地で説明会を実施しています。また、IRサイトは、従来は機関投資家向けを意識したサイトの充実を図ってきましたが、近年は個人投資家向けに分かり易いコンテンツの充実に力を入れており、個人投資家向け会社説明会の資料や株主通信の掲載、株主イベントのレポートも掲載しています。企業ホームページ全体と合わせてデザインを統一し、スマートフォン・タブレットなどのマルチデバイスでの利用も意識しました。

松永:御社のように以前から個人向け説明会を熱心に行われている企業もありますが、最近新たに取り組み始めている企業が増えています。NISAが始まったというような政策のトレンドもありますが、企業側も説明会や株主優待などで個人投資家の方に株主になっていただこうという動きがあります。

青木:KDDIでも個人向け説明会の開催に力を入れており、また、2013年度から株主優待制度を始めました。

松永:個人投資家の中には、値上がり益よりも、株主優待で生活を楽しみながら株式投資をしているという方もいらっしゃるようです。会社の特色を楽しんでいただくことで会社のファンになっていただき、安定した長期株主の数を増やしたいというのが最近の企業の動きかなと思っています。

大和インベスター・リレーションズの「インターネットIR表彰」の表彰式で、「最優秀賞」の記念品を受け取るKDDI 経営管理本部長の本田弘樹

大和インベスター・リレーションズ「インターネットIR表彰 最優秀賞」ロゴマーク

—ありがとうございました。最後になりますが、これからのIRサイトの在り方について、アドバイスを、いただけますでしょうか。

堅持:IRサイトは24時間投資家に情報を提供してくれるセールスマンです。個人や運用機関、あるいは国内外を問わずさまざまな投資家が存在する中、すべての投資家に合わせた情報を提供していくためには、IRサイトがベストソリューションだと思います。もちろん、すべての人にぴったり合う情報を提供するのは難しいので、さらに深く知りたい人にはIRサイトの双方向性を活かした問い合わせフォームを活用していただくことも重要ではないでしょうか。

松永:昔なら証券アナリストや機関投資家しか持ち得なかった情報を、今は個人の方でもIRサイトから入手でき、知識があれば検証まで行うことも可能です。動画で経営者を見られるのもネットならではでしょう。さまざまな情報をそろえることで、初心者の方から専門家まで役立つ情報を得ることができます。

青木:IRの評価というのはどうしても定性的になりますので、こうした形で外部の方に表彰されるのは分かりやすく、励みになります。多くの皆さまに当社のIRサイトを見ていただけるよう一層の努力をしたいと思います。今日はお忙しいところありがとうございました。

  • ※1 出典:日本銀行調査統計局【資金循環の日米欧比較】2014年12月24日
  • ※2 出典:大和インベスター・リレーションズ「企業のIR情報に関するアンケート」2014年9月実施

構成:板垣朝子

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