2014/12/11

Syn.構想仕掛け人が打ち明ける構想実現までの道とこれから

10月16日、KDDIは、スマートフォン向けのアプリやWebサービスを提供している12社・13のサービスが参画する「Syn.」(シンドット)構想を発表した。第1弾サービスとして提供されるSyn.menuでは、各サービスに共通のサイドメニューを導入することで、13のサービスの間を簡単に行き来することが可能になった。また、Syn.nortificationで、参画するすべてのサービスの新着情報をサイドバーからいつでも参照できるようになった。

1年前にFacebook JapanからKDDIに入社して以来、水面下で準備を進めていた新規ビジネス推進本部の森岡康一が、この1年間の「隠密行動」とSyn.構想のこれからについて熱く語った。

通信会社のサービスではなくインターネットビジネスを

私(森岡)がKDDIに入社した時に田中孝司社長と髙橋誠専務からいただいたミッションは、「ユーザーに対する通信会社(キャリア)のサービスではなく、オープンなインターネットでビジネスを起こせ」という、非常に大きな命題でした。その背景には、当然ながらフィーチャーフォンからスマートフォンへ、ユーザーの端末が移行していく状況の中で世界観が変わってきたという事情がありました。

フィーチャーフォンの時代には、サービスへの導線はすべてキャリアが設計していましたが、スマートフォンは「アプリ」が単体で存在する世界観ですから、何もしなくては、キャリアのサービスといえども、アプリの一つとなって埋もれてしまいます。そうならないよう、ユーザーにより良いサービスを届けるための接点と導線を確保するにはどうすればよいのか、入社してから3カ月間はずっとそれを考えていました。

Webの時代はハイパーリンクなど、さまざまなWebサイトを回遊する仕組みがインターネット自体に備わっていました。ところがスマホのアプリには、ほかのサービスとつながる仕組みがなくて、単体で閉じてしまいます。例えばAppStoreには250万のアプリがあるそうですが、それらはつながっていない孤島の状態に置かれています。これを「つなげる」にはどうすればいいのか、それが課題でした。

Facebookにいた時に、私が取り組んでいたのは「人と人をつなげる」ことでした。人と人がつながることで、コミュニケーションが増え、ニュースや情報が活性化されます。つながることの重要性は十分に分かっていましたから、次はレイヤーを一つ上げて、「サービスとサービスがつながると、どんな化学反応が起きるのか」というのが今回のチャレンジだったのです。

サイドメニューの「再発見」がもたらす循環

では実際にどうやって実現するか。原点に立ち返ってピュアに考えれば、それは「アプリにリンクをどうやって実装するか」ということです。そしてついに、「サイドメニュー」という場所を「再発見」しました。

もちろん従来のアプリにもサイドメニューはありましたが、それらはアプリの設定やヘルプなど、普段利用しない機能を押し込めるための場所として位置付けられていました。そこにユーザーが普段使うリンクをインテグレーションして、「普段から頻繁に開く場所」にすることで、複数のサービス間に回遊が発生するのではないかと考えました。

さらに言えば、サイドメニューがもっと開かれるようになれば、そこはメディアとして価値をもつようになります。スマートフォンでは難しいとされていた、大きなエリアを持つ新しい広告スペースとして活用することでマネタイズが可能になるのではないかとひらめいたのです。

Syn.のコンセプト

ネット広告にはバナー広告と検索連動型広告がありますが、スマートフォンの広告売上のシェアは圧倒的に検索連動型の方が高いのです。理由は明確で、スマートフォンの小さい画面をバナー広告が占拠することをユーザーが嫌うからです。その結果、バナー広告の主な用途であるブランディング広告の広告主が、スマートフォンから離れつつあるというのが現状です。

つまり、サイドメニューがもっと開かれるようになり、そこに大きなバナー広告スペースを設置できれば、クリエイティブの質が高い、見て楽しいブランディング広告を出せる場所になります。それを参加企業とレベニューシェアすれば、マネタイズの源泉になります。

参加企業にとってはサイドメニューを開いてもらうことがお金になるので、しっかりとインテグレーションしてもらえる。するとさらにユーザーはサイドメニューを開くようになり、回遊性が高まるという正の循環が生まれるのではないか。こういう仮説を立てました。

スマートフォンサービスの梁山泊として、「価値倍増」を進める

Syn.構想を進める前に、実は2014年の2月から3月にかけて、仮説を検証するための隠密テストを実施していました。Qrankにサイドメニューを実装して、バナー広告も実際に表示してみたら、サイドメニュー利用率も高かったですし、広告もよく利用されるという結果になりました。これはいける、ということになり、こっそりとパートナーを集め始めたのです。

その時の思いは、1つのサービスが支配的にすべてのサービスを提供する経済圏を作るのではなく、私はよく「餅は餅屋」と言っているのですが、それぞれが尖ったところを持つよいサービスが集まった、"梁山泊型"の共同体を作りたいということです。それは、分断されたインターネットをつないでいくことにもなり、ユーザーが一番喜ぶ世界だと考えました。そのためにも、ファーストパートナーには、サービスを一緒に盛り上げていくモチベーションが欲しかったので、資本提携する形で提携を進めさせていただいたところもあります。

「Syn.alliance」提供サービス一覧(2014年10月16日時点)
(クリックで拡大)

スマホを使いこなしている人にありがちなのが、便利なアプリがあるという情報があれば探してインストールするのですが、結局使わなくなってしまい、どこに何が入っているか分からなくなってしまうという現象です。今、250万のアプリがAppStoreなどに存在していて、1台のスマホには平均38個のアプリがインストールされています。でも、普段使っているのはそのうちの8個程度。そこから、もともとインストールされているカメラやメールなどを除くと、自分でインストールして普段から使っているアプリは平均たったの4個程度です。これはスマホが持つ本来のパフォーマンスを全然発揮できていない状態です。

スマホに本当に必要な機能は「使いたい時に使いたいサービスが手元に届く」ことだと思っています。Syn. のサービスは、どのサービスを使っていても、サイドメニューを開けばお薦めサービスをリコメンドしてくれます。使いたいサービスにいつでも手が届く状態を提供することで、スマホのパフォーマンスをより発揮させるという意味で、「価値倍増」という大きな目標を掲げました。

価値倍増をどうやって実現するかと言えば、例えばアクションを半分にするということがあります。4クリック必要なアクションを、2クリックにするのは価値倍増だと思っています。そうすることで、今まで4個しか使っていなかったサービスを8個使えるようになれば、それも価値倍増です。これはユーザーにとっての価値ですが、Syn.のパートナーにとっても、ナショナルクライアントがブランディング広告を出せるようなスペースを創造することがスマホの価値を高めることになります。

そのために、天気、ニュース、カレンダー等、サイドメニューに掲載する12のカテゴリーをまず設定しましたが、現時点で全部埋まっているわけではありません。ユーザーニーズのプライオリティと、我々の世界観に共感してくれるパートナーがいたカテゴリーから順にサービスを開始しています。世界観を作るのは合理的な判断ではなく、マインド、目的意識をもって結束することですから。そういう意味でも"梁山泊的"だと思っています。

ファーストパートナーの12社は、この話を説明すると、すぐにピンときてくれた会社が集まっています。心から共感してくれた企業だけが集まってスタートできたと思っています。12社に共通しているのは、経営者が自社のサービスをものすごく愛しているということ。彼らはユーザーのことを真剣に考えているからこそ、協力することの大切さを直観的に分かっていますし、思想面で一緒にやれたのだと思います。

「他のサービスとリンクするとユーザーが逃げる、取られる」という言い方をする企業もありますが、ユーザーは24時間一つのサービスを使っているわけではなく、必ず別のサービスも使っているんです。これはユーザーの取り合いではなく共有なのですから、ユーザーが減ることはあり得ませんし、Syn. が始まっても実際まったくそのようなことはありません。まだ開始して間がありませんが、既に成果が出始めています。

ユーザーの「ホームサービス」が決まれば動きは決まる

実は、サイドメニューのインテグレーションはシリコンバレーでは少しずつ流行り始めていて、GoogleやYahoo USも取り入れ始めていますが、日本ではSyn.が最初です。Syn.の特徴は、Webとアプリの区別なしにサイドメニューの中にインテグレーションしていることで、これは世界初かもしれません。

インターネットという俯瞰した見方をすると、現在は「アプリ」と「Web」を区別する世界観がありますが、それにはあまり意味がないと思っています。アプリは通信速度に関係なくさくさく動いて表現の自由度が高いですが、アップデートを怠ると最新のサービスを使えません。Webは通信速度に依存しますが、常に最新の状態にアップデートされています。サービスの特性に基づいて使い分けるのが自然ですし、どちらも「インターネット」という傘に収まっているのですから、気にせずつなげばいいと考えています。

各サービス間のシームレスな行き来を実現する共通サイドメニュー「Syn.menu」の一例
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サイドメニューがあることで、スマートフォンを使う時のアクションも変わります。私の場合ですと、天気を見たい時には「ウェザーニュース」を使うのですが、今までならホーム画面でウェザーニュースのアイコンを探すところから始まったのが、自然とサイドメニューを開いてウェザーニュースにアクセスしています。そして、自然にまたサイドメニューを開いてカレンダー「ジョルテ」を利用するという動きになっています。

カレンダー、天気情報、ニュースなどの毎日使うデイリーツールが起点になって、ユーザーがほかのサービスも利用する動きになるのが見えてきました。サービス開始から2週間で、「スケジュールアプリをよく見る人は天気をよく見る」「ファッション情報を見ている人はエンタテインメントを見ている人と親和性が高い」といった相乗効果がデータで明らかになり始めています。サービス間の連携は早めに形にしていきたいと考えていますので、楽しみにしてください。

ユーザーのホームにあたるサービスが決まれば、自然に動きが決まってきます。各サービスのユーザーを一番よく知っているのはそのサービスを提供するサービサーなので、いいものを提供するのが大事ですし、インターネットユーザーが心地良い状態をつくるために多様性を認め、収束できるものは収束するというやり方をとっていきたい。そして成果はみんなで共有することで、すべてのサービスがブラッシュアップする世界観を作りたいと思っています。

Syn.はインターネットカンパニーのサービス

サービスとサービスをリンクしてインターネットをもっと面白くしたいという発想は、個人的には前々職のヤフーにいた時から温めていたアイデアですが、当時はもっと稚拙なもので、日の目をみることはありませんでした。ヤフーからFacebookに転職して、世界の動向を知り、ワールドワイドに展開しているプラットフォーム企業の考え方を感じ取れたことが大きな糧になりました。

なぜKDDIがSyn.構想を進めるかといえば、「インターネット全体を面白くすることでKDDIの収益にもつながるから」なのですが、私自身の思いとしては、戦略的にどうこうというよりも、日本全体のことを考えてインターネットを、スマートフォンを盛り上げていきたかった。それができる企業は、消去法で考えていくとキャリアしかありません。様子をうかがうのではなく、世の中にインパクトを与えるのがキャリアの役割だと思いますし、Facebook Japan 副代表としてKDDIの社員やカルチャーと接していた時から、日本でそれができるキャリアはKDDIしかないと思っていました。

10月16日、「Syn.alliance」に参加したインターネットサービス企業の各代表者

今は「KDDIのSyn.」ですけど、本当はSyn.が主役で、インターネットカンパニーのサービスとしてのSyn.のブランドを確立して、あくまでもKDDIは黒衣という世界を作りたい。その意気込みが、発表会で着用していた「インターネット」と大きくプリントされたTシャツです。

笑いが取れて良かったですが、決して冗談でやったわけではなくて、私のまじめな思いです。

今後の展開についてはまだ言えないことの方が多いのですが、ユーザーの許可を得た上で、ワンクリックで、サービス間でユーザーのデータを送れるようなことができれば面白いと思います。ヤフーのようなポータルサービスであればできることですが、独立したサービス間でそういうことができれば新しい世界観になりますし、我々はプラットフォーマ―としてそういうことを実現していきたいと思っています。さらには、利用履歴などのユーザーデータを管理する「DMP(データマネジメントプラットフォーム)」をリンクさせることも考えています。10数社が集まってデータを共有するのは初めてだと思います。法的に許されて、ユーザーのプライバシーを侵害しない形でのコラボレーションを現在模索中です。

Syn.menuに続いて、各サービスの情報等をお届けするSyn. notificationもスタートしました。最初は各サービスの新着情報を表示するだけですが、そう遠くないうちに、新しいこともできるようになります。

Syn.の現状はまだ全体構想の1%ぐらいです。ほかにもいろいろと構想があり、2015年の初めぐらいには発表できるように動いています。これからもっともっとインターネットを面白くしていきますので、期待していてください。

構成:板垣朝子

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