2014/10/15

被災地の復興と自立のために通信事業者は何ができるのか CSR・環境推進室の取り組み

KDDIでは、復興支援のために設立した復興支援室にとどまらず、全社でCSR活動として東日本大震災の被災地支援に取り組んでいる。CSR・環境推進室長の鈴木裕子に、これまでの活動とこれからの取り組みについて聞いた。

離ればなれになった人と人を、ICTの力でつなぎたい

KDDI CSR・環境推進室長の鈴木裕子

KDDIでは東日本大震災後の2011年7月から、CSR活動の一環として社内公募による被災地支援ボランティアの定期派遣を実施してきた。2014年4月にCSR・環境推進室長に着任した鈴木の最初の仕事は、今年の被災地ボランティアの方針を決めることだった。「被災地ボランティアでは、岩手県大槌町の瓦礫撤去や塩害で枯れた木材伐採、古民家のリフォーム、漁業支援などの活動を行っており、私自身も東北ボランティアには何度か行きました。でも、最近の状況がどうなっているのかが分からなかったので、まずは現地の状況を確かめてみたいと、復興支援室の阿部博則室長にお願いして2泊3日で現地を回りました」(鈴木)。

現地に赴いた鈴木の第一印象は「何もない」というものだった。「ボランティアに行った時は、まだ瓦礫の山だったのですが、3年たった今では、もともと空き地だったかのような何もないまっさらな更地になっていました。ここが住宅地だったといわれても元の姿が想像できませんでした。気仙沼では、内陸側や山の上に仮設住宅ができていましたが、かつて一緒に暮らしていた人が離ればなれになっていました。若い人は都会に出てしまい、高齢者は町に残り、コミュニティーが無くなってしまったと聞きました」。そこで鈴木は、疎遠になってしまった住民をICTの力でつなぐことで、コミュニティーの再生に貢献できるのではないか。力仕事ではなく、KDDIのリソースであるICTを使った貢献ができないだろうかと考え、コミュニティー、産業、教育、消費を支援する施策を実行に移した。

コミュニティーを再生するタブレット教室

KDDI復興支援室が実施した「高齢者向けタブレット教室」の様子。音声検索を試してみて、盛り上がる参加者。

コミュニティーを立て直すために企画したのがシニア向けタブレット教室だ。仮設住宅に引きこもりがちなお年寄りが外に出るきっかけになればと考えたのだ。

まず、7月に復興支援室が東松島市で実施したタブレット教室を見学した。「東松島市では、すでにタブレットをお持ちでも使えないという方も含め、15名の方が参加していました。電源の入れ方、ピンチやスワイプの操作といった初歩の使い方から始め、地図を見たい、テレビ以外の情報源として活用したい、音楽や民謡を聴きたいといったご要望に応えて、一つずつ教えていました。その様子を見ていて、タブレットが使えるようになることで人が集まり、コミュニティーが再生するきっかけになると感じました」。

9月20日には、気仙沼市でタブレット教室の開催を決定。気仙沼市に出向している復興支援室の岩尾哲男に依頼して参加者の募集をしたところ、わずか30分で定員に達した。マンツーマンで教えられるよう、社員ボランティアを講師として派遣した。土曜日の朝出発してその日のうちに東京に戻るという強行軍だが、「土日の両方家を空けるのは難しい」という社員にとって、参加しやすい形で実施できた。

ICTによる産業の創出と自立への支援

かつてボランティアで瓦礫撤去を手伝った大槌町では、大槌湾ほたて養殖組合のネット販売を支援する。「とてもおいしいホタテなのに、FAXかケータイのアドレス宛のメールで注文を受けているだけで、ウェブサイトすらない状態でした。通販サイトの構築を提案しても、『ICTとかよく分からない自分たちには無理ではないか』と尻込みする漁師の皆さんを説得して、まずは受付方法はこれまでとおりでいいから、ウェブサイトだけでも作らせてくださいとお願いしました」。そして、毎週の打ち合わせのためにテレビ会議ができるよう設定をしたタブレットを2台送付。ウェブサイト〈http://ootsuchi-hotate.jimdo.com/〉を9月にオープンした。引き続き2015年3月を目標に、画面から注文できる通販サイトの構築を提案中だ。「ICTが分からなければ、分かるまで教えますから」と説得しているという。

支援の目標は大槌のホタテである「ひょうたん島『活ほたて』」をブランド化し、復興関連の補助金がなくなっても自立できるだけの売上を上げられるようになること。東京で産直イベントがあれば駆けつけて、一緒にホタテを売りながら説得する鈴木の熱意に、漁師の皆さんのモチベーションも上がりつつある。

「KDDIと一緒にやると売り上げが上がるらしい、という実績を作って、他の地域にも支援を広げていきたいと思っています。大槌町は以前から過疎化、高齢化が進んでいたところに、震災で甚大な打撃を受けた場所です。大槌がICTの力で復活して元気になれば、東北全体も元気になると思うんです」

東北の未来を創る子どもたちへの教育支援

こうした活動を通して鈴木が強く感じたのが、東北と東京の「情報格差」だ。「大槌では、30代や40代の若い漁師の方でも、ICTに対しては強い苦手意識がありました。東北の子どもたちを対象にIT教育を行って、都心に行かなくても、地元にとどまって仕事ができることを知ってもらうことで、ひいては人口流出に歯止めがかかることになるのではないかと考えました」。

「KDDIキャンプ」にて、地域の課題解決を考える中高生 =2014年8月18日~20日、東北大学青葉山キャンパス(宮城県仙台市)

そこで、KDDIとライフイズテック(※)が主催し、プログラミングキャンプ「KDDIキャンプ」を実施した。東北各地から20名の中学生・高校生を東北大学キャンパスに集め、3日間に渡り、スマートフォンアプリやウエブサービスの開発を基礎から学びながら、自分が住む地域の課題を解決するためのアプリ・ウェブサイトの作成をチームごとに取り組んだ。

1日目には恐る恐るパソコンをのぞき込んでいた子どもたちが、3日目には自分たちでどんどん先生に質問しながらアプリを作り上げていった。「教育は続けることで地域に根付いていきます。教育を受けた子どもたちが、さらに同世代や下の世代に楽しさを伝えていけば、子どもたちの未来はますます広がっていくと思います」と、鈴木はその意義を語る。参加者にはキャンプ終了後もオンラインでの指導を続け、来年3月に発表会を行う。

(※)ライフイズテックは、インキュベーションプログラム「KDDI∞LABO」の4期生で、中高生のためのプログラミングキャンプやスクールを実施している会社です。

町内会も巻き込んだ社外マルシェで持参商品を「完売」

8月には、風評被害を受けている福島の農産物や食品の消費拡大を狙いとした「KDDI復興支援マルシェ」を開催した。それまでにも社員食堂を利用した「社内マルシェ」は開催していたが、「もっとたくさん売るために、社員だけではなく地域の町内会の人たちにも参加していただける形で」と、初めて外部の人も立ち寄れる本社ビルロビーを会場とした。マルシェではお酒、果物、野菜、お菓子、調味料などを販売。飯田橋町内会や近所の幼稚園にもチラシのポスティングを依頼して宣伝したので、社員だけではなく、近所の人たちも大勢、買いに来た。

風評被害に苦しむ福島県産品の消費拡大を支援する「KDDI復興支援マルシェ」 =2014年8月21日

小泉進次郎復興大臣政務官が視察に訪れたこともあり、会場は大盛況。出店者には「持ってきたものはせっかくなので全部売ってください!」と気勢を高め、当日は社員も法被姿で売り子となり盛り上げた。その結果、出店者によっては福島から持参した商品だけでは足りず、急きょ、東京の倉庫にある商品まで持ち出すほどの売り上げを上げられた。

「売り上げも大事ですが、多くの人に産品に触れてもらうことが大事です。お店のチラシを配って、『おいしかったらまた買ってね』と伝えて、広く知ってもらうことを目指しました」と鈴木。

今回は福島産品だったが、宮城も岩手も同じ被災地だ。同様の取り組みを続けていきたいと鈴木は考えている。

支援は継続することが大事

震災から3年が経過して支援内容を見直した理由を、鈴木は「復興支援のフェーズが変わったから」だと言う。「この3年間で『通信事業者として何ができるのか』を考えられるところまで、東北が復旧してきたということだと思います。そこに生き続けていく人が、自立するために何が必要なのかを、通信事業者としていつも考えています。人もツールも、通信事業者が持っているリソースをすべてつなぎ合わせることで、現地の人のためになることを継続していきたい」と鈴木は言う。

「いろいろな取り組みを始めましたが、これらはすべて継続しなくてはいけない支援です。大きなイベントを1回だけ実施することは、当社の使命ではありません。継続して支援することが大事です。やり続けなくては、という熱い思いを持っています」。通信事業者だからできる支援を模索しながら、復興支援室とタッグを組んだKDDIのCSR活動はこれからも続く。

文:板垣朝子 撮影:斉藤美春

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