2014/10/03

自ら変わることの大切さを伝えたい 『新世代エイジョカレッジ』発起人のリクルートホールディングスに聞く女性活躍推進の未来

7社の「営業女子」が集まって、キャリア課題と向き合う

女性リーダーの活躍が進む企業でも、営業分野では、なかなか女性リーダーの登用・育成が進まない。そんな共通の課題に対し、異業種でタッグを組んで向き合おうとの試みが、今年6月にスタートした。7社の「営業女子」が参加するプロジェクト「新世代エイジョカレッジ~異業種女性営業活躍推進プロジェクト~」(エイカレ)だ。各社から集まった29人のメンバーが、約半年間のグループワークを通して、自らのキャリア課題を分析し、営業で女性がさらに活躍するための提言を行う。11月下旬の最終報告では、7社の役員に対し、プレゼンテーションをする予定だ。

「新世代エイジョカレッジ」スケジュール
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発起人はリクルートホールディングスとサントリーホールディングス。KDDIからも、4人の女性社員が参加している。現在はそれぞれが、リクルートホールディングス、サントリーホールディングス、日本アイ・ビー・エム、三井住友銀行、キリン、日産自動車からなる混成チームの一員となり、最終プレゼンへ向けて議論を進めている最中だ。

今回は、「エイジョカレッジ」の事務局を務めるKDDIダイバーシティ推進室の間瀬英世が、発起人の1社であるリクルートホールディングスのダイバーシティ推進グループマネージャー、二葉美智子氏を訪問。このプロジェクトの意図や、今後の女性活躍の展望などを伺った。見えてきたのは、女性が抱える「外」と「内」の問題だ。

若手女性は「見えない赤ちゃんを抱っこしている」

「新世代エイジョカレッジ」発起人の1人であるリクルートホールディングスのダイバーシティ推進グループマネージャー、二葉美智子氏

間瀬:そもそも「営業女子」に特化したプロジェクトを考えられたきっかけは何でしょうか。

二葉:リクルートでは、2006年からダイバーシティ推進を進めてきました。まずは仕事と家庭の「両立支援」に着手して、2012年からは女性の「活躍支援」へと重点がシフトしています。ただ、どんなに研修をして、女性側に「スイッチ」が入っても、日常業務に戻ると、そのスイッチが元に戻ってしまうケースもありました。そこで、女性たちを取り巻く「環境」に着手する必要があると感じたのです。

間瀬:なるほど。12年から女性の活躍推進にシフトした点は、KDDIも同じです。

二葉: 私たちは、28歳女子向けのイベント『Career Cafe 28』も実施しているのですが、皆、不安を抱えていますね。独身・既婚や子どもの有無に関わらず、女性には「両立への不安」があるのです。当社では、それを「見えない赤ちゃんを抱っこしている」と表現するのですが、周囲の結婚や出産をきっかけに自分の将来を考え始めると、焦り、不安になる。そこで、キャリアアップを目指す動きが止まってしまうのです。職種別でその要因を考えていくと、営業現場の課題が浮かび上がりました。当社では、20代女性の6割が営業職であり、営業で表彰される社員を見ても男女半々なのですが、営業の女性管理職率は、他の職種と比べて低い水準にあります。そこには上司のマネジメント力や働き方、生産性など、根深い問題があると考えました。

間瀬:そうなのですね。ただ、なかなか、他社と組んでプロジェクトをするという発想には至らないと思います。どうして「異業種合同」という発想が生まれたのでしょう。

二葉:個人的なことになりますが、ダイバーシティの担当になって2年経った昨年、産後休暇を取得し、会社をしばらく離れました。その中で、「働くことの意味」を考え、「もっと世の中に貢献したい」という思いが出てきたのです。限られた時間で働くなら、1社だけではできないことをやりたいという思いもありました。それで、『Career Cafe 28』に来ていただいた各社の皆さんとの会話などを通して、どの会社にも共通した「根深い課題」があるなと思ったのです。それなら、問題の原因を一緒に考え、リクルートだけではなく数社が集まって、何か手を打った方が良いのかなと思いました。

「複数社でタッグを組む」ことで、何かが変わる

間瀬:数カ月、会社を離れたことがきっかけで視野が広がったのですね。確かに、ずっと社内にいると、なかなか「他社を巻き込む」という発想は出てこないかもしれません。

二葉:いくら正論を言っても、人の固定観念は、なかなか変わりませんよね。いろいろな形のコミュニケーションを繰り返し、ようやく価値観が変わっていく。そのコミュニケーションの1つとして、「複数社でタッグを組む」ことを考えたのです。お声掛けした全社から、賛同していただきました。

間瀬: 「エイカレ」に参加するにあたって、KDDI社内では全く異論はありませんでした。現場の課題が、広く認識されていたのだと思います。参加した若手女性も、他社の優秀なメンバーから多くの刺激を受けているようです。

「新世代エイジョカレッジ」の参加者と事務局メンバー

二葉:リクルートの参加メンバーからも、「エイカレ」を通してキャリアアップを志向するスイッチが入ったという声があります。自分の悩みを周囲と共有し、課題として分析すれば、個人的な悩みが一般化されますよね。自分の問題を客観視できるようになり、キャリアに対し、主体的にコミットしていくようになる。これは異業種合同で実施する大きなメリットだと思います。

間瀬:自社内で議論しているのとは、やはり違いますね。

二葉: 今まで、社内には、「女性が昇進を望んでいない」という声もありました。それが、「エイカレ」を通して、女性が「望まない、望めない」理由が少しずつ、見えてきました。組織や働き方、自分の問題など、まだすべての課題を出し切ってはいませんが、研修を通して、メンバーは自分のキャリア課題にどんどん「コミット」していくようになっています。10月に行う中間プレゼンと、11月の最終プレゼンには、審査員として各社の役員クラスもお呼びしています。社会的な注目も大きく、広報活動にも、かなり力を入れています。注目されることで、参加する女性社員だけではなく、役員クラスの皆さんの「コミット」も、より期待できるかなと。

「成長したい」、でも「管理職を目指すべきか分からない」

二葉:リクルートで意識調査をした結果、「私は成長したい」という項目の回答には男女差がありません。ところが、「より高い役職に就きたい」と言う男性は74%もいる一方、女性では4割に満たない。「どちらともいえない」が3割です。でも、女性たちは皆、「営業やお客さまのことが大好き」と言います。仮説ですが、野球でいうと、メジャーリーグに行こうとして日本のプロ野球の2軍にいる男性と、「草野球が楽しい」と言っている女性のような感じでしょうか。今は楽しくても、5年経つと差が出てきます。メジャーを目指す人は、どんなに辛いことがあっても、それは上を目指すためだと乗り越える。男女関係なく、そういう人は「積み重ね」で成長していきますよね。

「エイジョカレッジ」の事務局を務めるKDDIダイバーシティ推進室マネージャー 間瀬英世

間瀬:「辛いことを乗り越える」という点では、男性上司は、大きな負荷を与える可能性のある仕事を女性部下に割り振らない傾向があるかもしれません。

二葉:加えて、女性の中には、「結婚したら自分のキャリアはどうなるか分からない」など、自分の未来を、環境に委ねてしまっている人もいます。

間瀬:確かに「エイカレ」でも、最初のプレゼンでは、仕事と生活の両立のために「周りを変えよう!」という女性が多かったですね。ファシリテーターの方からは、そこに指摘が入りました。環境だけじゃない、自分の考え方にも問題があるかもしれないというところに気が付くのは難しい。

二葉:自分の未来を周囲に委ねようとしていると、自分の状況が変わらなかったときに、周りのせいにしてしまいます。そういう人は、自分でオーナーシップをもって、人生の舵をとる覚悟をもつ機会がなかったのかもしれません。根深いですね。育った環境、例えばこれまでどういうことで褒められてきたのか、といったことも関係しているでしょう。でも、気付くきっかけが無かっただけかもしれません。

間瀬:「エイカレ」が、そういうことに気付くきっかけになってほしいですね。

二葉:実は一番変えやすいのは自分なんですよね。「明日から、自分に何かできることがある」ということを知り、一歩ずつキャリアを積み、いざ、結婚や出産など、環境が変わった時にも、ベストな選択ができる自分でいる。この方が豊かな人生を過ごせるということに気付いていただければと思います。

「女性のテーマ」から、「働き方」全体の改革へ

間瀬:いろいろお伺いしてきましたが、二葉さんとしては、これから社会全体で、「女性の活躍推進」の状況がどうなっていくと思われますか?

二葉:早く「女性」から次のテーマにいきたいですね。女性と男性の活躍に差があるのは、結局は働き方の問題だと思うんです。「ワーキングマザー」といっても、働く上での制約は2つだと思います。まずは子どものお迎えなど、時間の制約。もう1つは、子どもに何かあると突発的に休まなければならない点です。これは、ワーキングファザーや介護されている方も同じ。そういう人たちも、「いかに短い時間で質の高い仕事ができるか」が重視される仕組みになれば、本当にフェアな成果で評価されるようになります。ですから、夜遅くまで毎日頑張って、やっと業績が上がるような、そういう働き方やマネジメントは、変えないといけません。

間瀬:ワーキングマザーが働く上での制約が2つだけというのは新たな気付きでした。長時間労働で会社に貢献するという現状の働き方だと、そういう人たちは「急に休むのか」とマイナスの評価を受けてしまいます。そのあたりの意識改革も必要ですね。

二葉:私は、29歳から33歳まで、中国の上海に駐在していました。現地の中国人と共に事業立ち上げを行い、彼らの就業観や価値観などに触れ、「ダイバーシティ」にあふれた環境を経験しました。帰国後、グローバル人事を担当し、改めて、いかにリクルートが「画一的なマネジメント」をしてきたかが分かりました。今までならそれも強みでしたが、これからは絶対に変わらなければいけません。マネジメントと働き方を変える。早く女性の問題を超えて、「働き方」「多様な人材を活かすマネジメント」というテーマに行きたいですね。

文:北条かや 撮影:高橋正典

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