2014/09/10

KDDIのミャンマー進出の意義 通信環境を急速に整備してミャンマーの発展に役立ちたい

2014年7月16日、KDDIと住友商事は、MPT(Myanma Posts & Telecommunications)と提携してミャンマー通信市場に参入することを発表した。その狙いとKDDIのグローバル事業戦略における位置付けについて、田島英彦取締役執行役員常務・グローバル事業本部長に聞いた。

KDDIのグローバル事業の3本の柱

KDDIのグローバル展開には3本の柱がある。法人を対象に通信とデータセンターサービスを提供する「グローバルICT事業」、主に個人を対象に携帯電話・固定系サービスを提供する「グローバルコンシューマ事業」、そして通信事業者間の国際接続を担う「キャリアビジネス(ホールセール事業)」だ。

KDDIの田島英彦取締役執行役員常務・グローバル事業本部長

3つ目のキャリアビジネスについてはその内容が想像しづらいが、田島は、「キャリアビジネスは、KDDIの前身のひとつである国際電信電話(KDD)から続く事業で、世界中が音声通話でつながるために、各国の通信キャリアが相互に協力して通話を中継し合う事業です。KDDIは長い年月を経て、全世界600社以上の通信キャリアと良好な関係を築いてきました。これは我々にとって大きな財産であり、『実績と経験の有効活用』によりグローバル事業の基盤となっています」と語る。

グローバルICT事業は、グローバル事業の『成長を支える礎』と位置付けられている。通信だけではなく、グローバルデータセンター「TELEHOUSE」を中心に、ネットワーク、海外SI、クラウドなどを一体で提供する。通信事業者がデータセンター事業を手掛ける理由を田島はこう説明する。「企業活動のあらゆるものがデータ化されてサーバーに蓄積されるようになりました。企業を人の身体に例えれば、データセンターは脳、ネットワークは神経にあたります。脳と神経、どちらがなくても企業は動けません。ですから、データセンター事業とネットワーク事業にはシナジーがあり、一体として提供することに大きな意味があるのです」。

一方、圧倒的多数の顧客を対象にするグローバルコンシューマ事業はグローバル事業の『規模拡大のエンジン』と位置付けられている。田島は、「KDDIは、通信サービスを通して、いかに社会に貢献するかに軸足を置いています。それは海外で事業を展開するときも同じです。単に他国の大手通信事業者を買収するのでは、社会を変えることはできません。我々の技術とノウハウで、高品質な通信サービスを実現し、現地のお客さまと社会の発展に貢献する。まず、現地の人に喜んでいただけるサービスを提供することを第一に考えています」と説明する。これまで、モンゴルでは同国最大の通信事業者であるモビコムの経営に参画。同社に技術とノウハウを提供し、高品質な携帯電話サービスを実現してきた。また、アメリカではLocus Telecommunications、Total Call Internationalの2社で中南米からの移民を中心に、ターゲットを絞った携帯電話事業を展開し、KDDIが培った日本ならではのきめ細かいサービスと品質を提供することで急成長している。これらは前述の信念から生まれた成果だろう。そして今回、その信念の下に新たにミャンマーでMPTとの通信事業の共同運営が開始される。

10%台にとどまる携帯電話普及率を2016年末までに80%に

ミャンマーでの調印式の様子

日本・ミャンマー関係者で、調印後に記念撮影

2014年7月16日、ミャンマーの首都ネピドーにて、KDDIが設立し、今後パートナーである住友商事も出資予定のKSGM(KDDI Summit Global Myanmar)とMPTは、ミャンマーにおける通信事業を共同で行うことに合意し、「共同事業運営契約」を締結した。これによってKDDIは、携帯電話、固定電話、インターネット等、通信全般のサービスをミャンマーで提供することができるようになった。ミャンマーに進出した理由を田島は、「高い成長が見込まれ、しかもその国民の皆さまの生活の質を向上させるために、我々の技術を最も効果的に使える国はどこか、世界中の国とマーケットを調査していたところ、ミャンマーという国の現状を知り、お役に立てると考えたから」だと言う。

ミャンマーの現在の携帯電話の普及率は約10%、固定電話は1%、インターネットにいたってはわずか0.1%にとどまっている。各種統計によれば、携帯電話の普及率が10%上がればGDPが1%以上押し上げられるという調査結果もあるほど、通信は経済発展には不可欠だ。

「東南アジアの中でも、ミャンマーでの携帯電話の普及率は、あまり高くありません。そこで、KDDIの技術と経験を活用し、『切れない、信頼性の高い』通信を実現することで、ミャンマー経済の発展に貢献することができると思いました。ミャンマーでの携帯電話の普及率が上がり、我々も企業として成長することができれば、双方にとってWin-Winの関係が築けます」。(田島)

ミャンマー政府は2016年末までに携帯電話の普及率を80%まで上げるという目標を掲げている。現在の人口が約6,500万人で2013年末の普及率が10.5%なので、現在およそ680万加入ということになる。これから2年ちょっとで5,200万まで加入数を増やすということだ。「6,500万人というのはタイと同じぐらいの人口であり、ミャンマーの通信市場も同規模程度まで成長ができるマーケットです。多くのお客さまに通信の利便性を享受していただくためのお手伝いができるというのが、我々が通信事業者として、ミャンマーの人たちのお役に立てると考えた理由です」と田島は言う。

「携帯電話や固定電話が欲しくても手に入らない」状況を解消する

今回、KDDIおよび住友商事と共同事業を行うMPTは、これまで国営事業体としてミャンマーで唯一、通信事業を担っていた組織だ。民政移管に伴う「開国」の動きの中で、海外からも事業者を入れることで市場競争原理を取り入れ、普及を促すのがミャンマー政府の方針だ。政府は2013年にはカタールのOoredooとノルウェーのTelenorを参入事業者として選定した。Ooredooは2014年8月15日からすでにサービスを開始しており、Telenorは9月から追随する予定だ。

これによって、MPTは、初めて競争環境にさらされることになる。「急拡大する市場のペースに合わせて、MPTが外資系通信会社に伍して戦うには、やはり技術的に優れたパートナーと組む必要があると、我々に声をかけていただきました。MPTは携帯も固定通信もすべて提供しており、同様にすべてのノウハウを持つKDDIを評価し、選んで頂いたのだと思います」と田島は振り返る。

ミャッ・ヘイン ミャンマー通信・情報技術大臣との固い握手

MPTに課せられている課題は、ネットワークを急ピッチで強化し、携帯電話のエリアを広げること。近年の日本国内におけるUQ WiMAXのエリア展開やau 4G LTEのエリア整備などで実証されているように、モバイルネットワークの高速展開はKDDIの得意とするところだ。加えて、ネットワークのキャパシティーも増やすことにより、携帯電話を利用したいすべてのお客さまにSIMカードを届けることも可能になる。田島は、「いつでもどこでもつながる高品質なネットワークと、そのネットワークにつながるSIMカードを、欲しい方はいつでも手に入れられる。こうなることをミャンマーの国民の皆さまは待ち望んでいらっしゃると思います」と指摘する。

状況は固定電話網も変わらない。ここでも、KDDIが持つ固定電話網やインターネットプロバイダーとしてのノウハウを活用し、固定通信環境の改善に、今後取り組んでいく予定だ。

合言葉は「Moving Myanmar Forward」

MPTとの共同事業は、BCC(Business Co-Operation Contract、経営協力契約)という、日本ではあまりなじみがないスキームで実施する。契約に基づき、仮想的な共同事業会社を作り、お互いが持っているリソースを「持ち寄って」事業を展開する方式だ。今回の場合は、MPTが持っている通信ライセンス、ネットワーク、携帯電話用の電波(周波数)、従業員、顧客ベースなどを提供し、KDDIと住友商事が技術、ノウハウ、マネジメント、スペシャリスト、エンジニア、増強すべき基地局設備、資金を提供し、生じた利益は双方合意したルールに基づき分配する。

新規参入したOoredoo とTelenorは現在ネットワークの構築を進めているが、一から基地局を建設してエリアを構成する両社に比べれば、既に固定網・移動通信網を保有しており、既存顧客ベースもあるMPTとKDDI・住友商事のBCCは有利なポジションにある。しかも、既存顧客はARPUの高い優良顧客である。

「我々にとっては、戦いの相手はライバル2社ではなく、我々自身がどこまで高みを目指し、技術と信頼性でミャンマーの国民の皆さまと社会に貢献できるかということです。それがきっちりできれば、結果は当然ついてくるはずですし、結果が出なければ、それは我々が掲げる『一番喜んでいただけるサービスを欲しい人に届ける』ことが実現できていないということですから、さらに努力しなくてはいけない。それだけのことです」と、田島はミャンマーでの事業の意義を再び強調する。

「そのために、MPTの方々と一緒に素晴らしい企業文化を作っていきたい。今後は、競争環境が導入されますので、『お客さまに貢献することが存在価値であり、それができなければ市場では淘汰される』という原理原則を常に頭に置いて、事業を展開していきたいと思っています」。と、田島は言う。

2012年以降、急速な民主化と経済改革が進むミャンマーでは、今、あらゆる産業が飛躍的に成長している。この流れを止めないためには、道路、電気、そして通信のインフラが整備されなくてはいけない。

「新会社で合言葉にしているのが、“Moving Myanmar Forward”です。通信だけで社会を変えることはできませんが、筋肉があっても神経がないと身体が機能しないように、通信がなくては国は成長できません。KDDIは通信を通してミャンマーに貢献していきますし、MPTも我々も一緒に共存共栄を目指したいと思っています」(田島)

何度もミャンマーに足を運んだ田島は、既にミャンマーの前進を肌で感じている。「この1年でヤンゴンの市街地を走る車の台数は急増しました。その95%は日本車です。同じように、これから3年で急増する携帯電話のほとんどをMPTの携帯にできたらと思います」と語る田島。質・量ともにミャンマーのナンバーワンキャリアを目指すKDDIと住友商事、MPTの挑戦が、今始まった。

文:板垣朝子

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