2014/07/31
| 更新
2021/09/19
ついうっかりを防いでくれる『歩きスマホ注意アプリ』 誤判定を防いで使い勝手も落とさない工夫
ニュースで頻繁に見かける「歩きスマホ」の危険性。KDDIも7月17日にAndroidスマートフォン向けに「歩きスマホ注意アプリ」を提供開始した。アプリ開発を担当した商品統括本部 商品技術部の渡辺千洋に、その狙いと特徴を聞いた。
「歩きスマホ」が「歩きケータイ」よりも危険な3つの理由
視線の違い。スマートフォン(上)、フィーチャーフォン(下)
フィーチャーフォンの時代も、歩きながらケータイでメールを使っている人はしばしば見かけた。「もちろん、フィーチャーフォンでも歩きながらのメールは危険なのですが、端末がスマホになったことで、さらに危険が増したと考えています」と渡辺は言う。
スマホの危険度がより高い理由は3つある。一つ目はコンテンツの違いだ。フィーチャーフォンに比べて、スマートフォンのコンテンツはゲームやウェブブラウザなど、没頭できるサービスが増えている。すなわち、周囲への注意がおろそかになり、危険につながる。二つ目は、物理キーがないこと。フィーチャーフォンの操作はテンキーで行うので、慣れた人なら画面をほとんど見なくても文字入力が可能だったが、スマートフォンではタッチパネル操作なので、必ず画面を見る必要があり、視野が狭くなる。そして三つ目の理由は、形状の違いだ。スマートフォンは片手でグリップしづらく、手のひらに載せて画面をより水平にして使うことが多い。そのためフィーチャーフォンに比べると目線が下がるので、周囲が見えなくなるのだ(比較写真参照)。
実際に、どの程度危険なのかを調べてみると、歩きスマホが原因で発生したねんざなどの軽いけがや、他人との衝突といった小さな事故は、歩きスマホ経験者の10人に1人から2人は経験しているというデータが出ていることが分かったという。「端末を提供する事業者として、お客さまがスマホを使っていて危険や嫌な目にあったり、周囲の方が不快に思われるのは望むところではありません。楽しくサービスを使っていただくためにも、歩きスマホをやめていただけるような機能を通信事業者が提供しなくてはいけないと考えています」(渡辺)。
利用者の邪魔にならずに確実に警告を伝えるには
「歩きスマホ注意アプリ」の機能は、「あなたは今、歩きスマホをしていますよ」ということを知らせることだと言う。渡辺は、「歩きスマホが社会問題化してきたのはここ1〜2年のことですから、我々がお客さまに"それがマナーとして良くない"ということをお伝えしきれていないのが現状です。まずは、知っていただくことに重点を置きました」と言う。
警告画面表示例
アプリ開発にあたって一番重視したのは、「アンインストールされない」ことだった。そのために、「歩きスマホをしていることを確実に知らせること」と、「アプリを入れることによるデメリットの最小化」の両立を目指した。そのカギとなるのが、歩きスマホを検知した時の警告の表示方法だ。全画面に警告を表示して実行中のアプリを中断すれば、確かに歩きスマホはできなくなるが、利用者からみれば、このアプリのせいで、書きかけていたメールのデータが消えたり、ゲームが強制終了されてしまうことになりかねない。アプリが動作したときのデメリットが大き過ぎれば、利用者はアプリをアンインストールしてしまうだろう。それでは意味がない。
渡辺は、「お客さまに通知しつつ、かつ通知されたときにお客さまにデメリットがなく、このアプリを使い続けていただけるUIを議論しながら、いろいろ試しました」と言う。その結果採用されたのが、歩きスマホを検知すると画面全体に「やめましょう、歩きスマホ」と大きく表示されるが、その表示は半透過状態で、アプリの動作はそのまま継続できるというもの。利用者が立ち止まれば、「やめましょう」の表示は消え、それまで行っていた操作をそのまま再開できる。この表示方法によって、「歩きスマホをしていることを確実に知らせること」と、「アプリを入れることによるデメリットの最小化」を両立した。
20人以上のテストで「歩きスマホ」判定精度をブラッシュアップ
アプリ開発を担当した商品統括本部 商品技術部の渡辺千洋
もうひとつ、開発で力を入れたのが、「歩きスマホ」をしている状態を確実に検知すること。加速度センサーでスマートフォンの動きを検知しても、それが「歩きスマホ」による場合もあれば、乗り物などに乗っていて利用者は座っていたり立ち止まっている場合もある。揺れる電車の中や長いエスカレーターで上っている最中など、ちょっとした時間にポケットからスマホを取り出してメッセージを確認するといった動作は誰もが行うこと。そのたびに、立ち止まっているのに「歩きスマホはやめましょう」と表示されるようなアプリでは、たちまちアンインストールされてしまうだろうから、判定精度の高さは必須条件だ。
「歩きスマホ」判定の精度を上げるために、開発チームはひたすら歩いてデータを収集した。平地や坂道を歩いている時、階段の昇り降りをしているとき、エレベーターに乗っているとき、電車に乗っているときなど、スマホ自体は動いていても、状況によって加速度センサーは検知する、利用者が歩いていない場合のスマートフォンの動き方は違う。端末の傾きも重要なデータだ。さらに同じ動作をしていても、年齢や性別によっても動きは違う。
最終的に、テストには20人以上が参加し、「歩きスマホ」判定から除外するパターンの洗い出しを行った。「特に階段昇降のテストは大変で、参加者は筋肉痛で悲鳴をあげていました」(渡辺)。そうした苦労の甲斐あって、誤動作の少ない「歩きスマホ判定」技術を確立した。
実際にアプリがインストールされたスマートフォンを持って歩いてみたが、歩き始めて数歩で「やめましょう、歩きスマホ。」と表示され、立ち止まればすぐに表示が消える。その一方で、その場でスマートフォンを揺らしてみても警告が表示されることはなかった。
無意識にしてしまう「歩きスマホ」を減らす
これまで見てきたとおり、「歩きスマホ注意アプリ」の機能は、歩きスマホを開始した時に「やめましょう」と注意を促すもの。果たして実際に歩きスマホを減らす効果はあるのだろうか。
渡辺によれば、「歩きスマホに関するアンケート調査などの結果を見ると、歩きスマホをするお客さまの割合は2:6:2に分かれる」と言う。もともと歩きスマホはしない人が2割、歩きスマホのどこがいけないんだと思っている人が2割、そして残りの6割は「いけないことだとは思っているが、ついうっかりやってしまうことがある」という人だ。このアプリは、その6割の人に働きかけることを目指している。信号待ちの間にスマホを取り出して信号が変わるとそのまま歩き始めてしまったり、電車の中でスマホを見ていてそのまま画面を見ながら下車してしまうなど、「無意識の歩きスマホ」が発生するきっかけはあちこちにある。心当たりがある人も多いのではないだろうか。「歩き始めた時に画面に注意が出れば、"歩きスマホをしてしまった"ことに気づいてやめてくれると思うんです」(渡辺)。
もともと歩きスマホはしない2割の人に加えて、「ついやってしまう」6割の人も歩きスマホをやめれば、世の中の8割が歩きスマホをしない人になる。そうなれば、社会全体に「歩きスマホはいけないこと」というマナーが広がり、残りの2割の人も歩きスマホはしづらくなるだろう。
アプリのターゲットを「子ども向けのマナー教育」ではなく、「(大人も含めた)社会全体のマナー啓発」としたのも、「社会全体の問題としてマナーを浸透させる」ことが重要だと考えるからだ。「歩きスマホをする人の多くは大人です。いくら子どもにマナーを訴えても、周りの大人がやっていたら子どもはやってもいいと思ってしまいます。このアプリの"歩きスマホをお知らせする"という機能には、大人なんだから自分で気づいて自分でやめてほしい、というメッセージを込めています」と、渡辺は説明する。
「歩きスマホ」はしてはいけないというマナーを広げるために
歩きスマホは、日本だけではなく世界的に問題化している。アメリカでは"Texting while Walking、Reading while Walking"といった表現が定着してきており、州によっては、これに対して罰金を科すところもあるという。つい先日、ワシントンで歩道に「スマホ禁止レーン」と「歩きスマホ専用レーン」が出現(実際には、人間の行動に関するTVシリーズ撮影のための、地域運輸局の許可を得て行われた実験)したことが話題になったが、歩きスマホ専用レーンには"CELLPHONES WALK IN THIS LANE AT YOUR OWN RISK"と大きく書かれていた。これも「危険性を啓発する」取り組みの一つだといえるだろう。だからといって法律で取り締まろうとしても、「歩きながら本を読むのと何が違う」といった反論や、そもそも歩きスマホという行為を定義するのも難しいため、そう簡単ではないというのが専門家の意見だ。
「やめましょう、歩きスマホ。」啓発共通ロゴマーク
やはり歩きスマホを減らすには、法律に頼る前にマナーを浸透させる必要がある。日本では、通信事業者各社が加盟する電気通信事業者協会(TCA)や鉄道会社などが共同で、共通ロゴを使ったポスターやアプリなどの取り組みを行っている。auの「歩きスマホ注意アプリ」にも、もちろんこのロゴが使われている。
「昔は街中で普通に見かけた歩きたばこが、マナー浸透につれて徐々に減ってきたように、歩きスマホもマナーを広めることで減らすことができると思います」と渡辺。社会に浸透し始めたスマートフォンにまつわるマナーや常識は、これから作り上げていくものであり、通信事業者であるKDDIはその中でも中心となる役割を担う責任がある。歩きスマホ注意アプリへの取り組みもその一環だ。今後は、「歩きスマホ注意アプリ」の端末へのプリセットなども検討し、アプリとマナーの浸透を図っていく。
※歩きスマホ注意アプリは、2021年2月28日にau Marketからのアプリ配信、およびアプリのサポートを停止しています。 配信終了以前にアプリをダウンロードされたお客さまは継続利用が可能ですが、アプリのアンインストールや端末の初期化を行った場合、再ダウンロードができなくなりますのでご注意ください。
文:板垣朝子
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