2014/07/04
ハンドメイドのモノ作りを「文化」に高める――作り手と使い手を直接つなぐCreemaとKDDIの提携が目指すもの
アクセサリーやジュエリー、バッグ、雑貨、家具に食器――。幅広いジャンルのクリエイターの作品を自由に直接売買できるハンドメイドマーケットプレイスが「Creema(クリーマ)」だ。2010年にオープンして以来、クリエイターと消費者を結びつけるマーケットプレイスとして大きく成長している。
そのCreemaを運営する株式会社クリーマは6月、「KDDI Open Innovation Fund」を通じてKDDIと資本・業務提携を行った。CreemaはKDDIから得た資金でどのような発展を目指すのか、KDDIはCreemaとの協業をauサービスにどう生かそうとしているのか。クリーマ 代表取締役社長の丸林 耕太郎氏、KDDI Open Innovation Fundを運営するグローバル・ブレイン インキュベーション事業部 ベンチャーパートナーの立岡恵介氏、KDDI新規ビジネス推進本部 戦略推進部の松田 読が、Creemaについて熱く語った。
自らの経験をもとに「能力あるクリエイターを応援したい」とスタート
ハンドメイドマーケットプレイス「Creema(クリーマ)」の立ち上げから現在の運営について語るクリーマ 代表取締役社長の丸林 耕太郎氏(右)
Creemaは2010年6月にサービスをリリースし、丸4年が経過した。ハンドメイドマーケットプレイスをビジネスにしようとしたきっかけは、どこにあったのだろうか。
クリーマの丸林氏は、こう語り始めた。「私は音楽活動をしていて、学生時代にすでにプロとして活動していました。そこで見えてきたのは、能力が高いのに仕事がない人と、音楽的に優秀でなくても仕事がある人がいるということでした。能力がある人が活躍しないと、人間のためにも文化のためにもならない――そう体感していたことがこのビジネスの原点にあります」。時は流れ、丸林氏が起業に際して新規ビジネスの案を考えていたとき、50ほどのアイデアを列記した中にCreemaの原型があった。
「作り手と買い手が直接つながるマーケットプレイスを作ろうという気持ちが根底に流れていました。ストイックに創作活動に取り組んでいる能力のあるクリエイターがいい作品を作ることが、クリエイターの経済に貢献できるような仕組みの提供ですね。このマーケットプレイスには、売り手のニーズも買い手のニーズもあると直感的に感じました。無謀でしたが、マーケットリサーチなどは何もせず、Creemaを立ち上げました。今になって振り返ると、学生時代に感じた疑問を解消しようという気持ちが自分を突き動かしたのだと思います」(丸林氏)。
しかし、若き日からの思いを形にしたCreemaも、立ち上げ早々は必ずしも好調とはいえなかった。丸林氏は振り返る。「最初の1年はまったく伸びなかったですね。苦しい時期でした。まず、買い手の理解が得られませんでした。ネット上での個人間の売買にまだ利用者が慣れていなかった上に、市場も仕組みも醸成されていなかったのです。売り手となるクリエイターも、これはという人の個展へ飛び込んだり、ツテをたどったりして、当時いた2~3人のメンバーみんなで直接交渉しました。ただ、そんな中でもCreemaの方向に迷いはありませんでした」。
開始当初はリピートの買い手ばかりだった。しかし、サイトの細かい改善を行うなど、地道に改良を続けているうちに時代が少しずつ変化してきた。野菜などで産直品に目が向けられるようになり、生産者から直接モノを購入することが広がってきた。
さらに、「商品に対する価値観が変わってきた時期だったのかもしれません」と丸林氏は指摘する。皆が評価する、例えば「ブランド品」を欲しがる価値観ではなく、自分なりの面白さを基準にモノを持ちたいという、より"自分化"した価値観が、若年層を中心に広まってきたというのだ。クリエイターから直接、1点ものの商品を購入する。そうした経済活動を支えるCreemaに、世の中が追い付いてきた。
フェアでフラットな流通の場を創り出す
作り手の思いと技術がこめられた400万点にものぼる作品が出品されています。世界にふたつとない、あなただけの作品に出会ってみませんか。(写真はイメージ)
KDDI新規ビジネス推進本部 戦略推進部の松田 読
KDDI Open Innovation Fundを運営するグローバル・ブレイン インキュベーション事業部 ベンチャーパートナーの立岡恵介氏
ゼロからスタートし、苦難の1年を越えると、Creemaは成長の軌道に乗った。1年後にはクリエイターは600人へ、さらに1年後には3,000人のクリエイターが集まる場になった。現在まで、作品流通額は3年連続で400%を超える伸びをみせている。2014年には、出品するクリエイターが1万8000人を超え、50万点の作品が並び、月間100万人以上のユーザーが利用するマーケットプレイスに成長した。
客観的には大きな成功体験だと思うが、丸林氏はこう語る。「まだ、目標の達成率でいったら10%か15%といったところでしょう。これまで、クリエイターがビジネスをする世界にはプロデューサーやバイヤーといった人たちがいて、その人たちのメガネにかなったクリエイターだけが食べていけるという構図でした。私たちは、コアな世界を愛するクリエイターや買い手が、直接取引できるフェアでフラットな流通の場を創りたいと考えています。そして、魅力ある作品を制作されている全国のクリエイターが、Creemaに参加し、丁寧に作品販売を行ってさえ頂ければ、その経済がまわるような世界を創りたいと思っています。そのためには、まだまだ成すべきことは多く、提携していただける先を探していたのも事実です」。
一方、KDDIもベンチャーパートナーを探している中で、Creemaに出会った。KDDIの松田はCreemaとの出合いを振り返って言う。「現代は、急速にショッピングの体験が変わってきている時代です。10年前ならネットショッピングは一部の人のものでしたが、今ではもう普通のことになっています。スマートフォンがあれば、手元できれいな画像を見ながら、手軽にショッピングができます。そうした中で、ネットショッピングへの要求も変化していると感じています。以前ならば、1円でも安く商品を購入したいという方が多かったのですが、今ではネットショッピングでもリアルなショッピングに近い行動が多く見られるようになりました。良い物に出合ったら衝動的に買うといった行動です」。
auのお客さま向けのショッピングサービスとしても、目的のものを安く、手軽に購入する機能だけでなく、「ウィンドウショッピング」のように商品との出合いを大切にして、感性で購入できるようなマーケットプレイスが求められるようになった。
「Creemaは、当初からクリエイターさんが作るハンドメイド作品をまじめに取り扱っていらっしゃるという印象がありました。調べてみると、ビジネスは非常に伸びていましたし、サイトには人が集まる温度感や熱気があふれていました。今後の伸び代も、数字だけでなく、空気としても感じられました。とはいえ、提携決定の最後の決断は、"人"ですね。丸林社長の起業の背景や熱い姿勢、何があってもやり抜く力に共感しました」(松田)。
ベンチャーキャピタルであるグローバル・ブレインの立岡氏も「C2C(消費者から消費者へのビジネス)市場が伸びていることや、Creemaの成長率などは評価しました。一方で、コミュニティーやカルチャーをいかに作っていくかが、これからのCreemaの課題だとも感じました。そうした中で、人とのコミュニケーションをよく知っている丸林社長の力があるからこそ、ビジネスとコミュニケーションが両輪となってCreemaが今後大きくなっていくと判断しました」と、丸林氏の人となりを高く評価する。
Webサービスとリアルの融合で文化を生み出す
クリーマは、WebサービスとしてのCreemaを手掛けるだけでなく、実はリアルの場でのクリエイターと購買者とのコミュニケーションにも力を入れている。その一つが、東京・新宿の駅ビル「ルミネ2」に開設した「Creemaストア」だ。常設店舗を設けることで、購買者は多くのクリエイターの作品を実際に目で見て手に取れる。Webだけでは伝わりにくい、クリエイターと購買者の「共感」を、Creemaストアは提供することができる。
さらに進んだ取り組みが、東京ビッグサイトで開催しているイベント「ハンドメイドインジャパンフェス2014」(HandMade In Japan Fes 2014)だ。ハンドメイドインジャパンフェスは2013年に第1回を開催、好評を受けて2014年7月19日、20日には第2回の実施を控えている。2,200ブース、日本各地で活動する3,000人のクリエイターが集まり、ハンドメイド作品の魅力を見せる。
丸林氏はこんなエピソードを紹介してくれた。「Webとリアルの連動は、モノ作りの文化を広げるためにも必要だと考えていました。多くの人に見てもらうことで、Creemaの輪が広がるからです。ただし、こだわりがありました。イベントの名称としては、Creemaの名前を冠したものにするべきという声が多くありました。しかし、私は"ハンドメイドインジャパンフェス"で絶対に引かないつもりでした。世界中の様々な文化やクリエイティビティを楽しみながら受容する独自の感性と、繊細で器用な日本人の技術が、"メイドインジャパン"の基本にあると考えているからです。メイドインジャパンを支えているハンドメイドのフェスティバルです。こんなに大勢の人が、日本で自由に創作活動をしているんだということを感じてもらい、日本ならではの感性や技術を文化として海外にも発信していくためには、この名称しかないと心に決めていました」。
こうした姿勢は、KDDIにも伝わる。KDDIの松田は「クリーマは、クリエイターと直接向き合うハンドメイドインジャパンフェスやCreemaストアに早くから取り組んでいました。ネットショッピングが急成長しているといっても、リアルの市場の規模は桁違いに大きいものです。ハンドメイドインジャパンフェスの規模でリアルのイベントを開催しているマーケットプレイスは、クリーマのほかにはありません。KDDIでは新しい電子マネーのau WALLETなどで、Webとリアルの世界の橋渡しをしていますが、クリーマとKDDIが手を組むことで、Webとリアルの双方のビジネスを展開していけると考えたのです」と語る。
丸林氏も、「au WALLETは始まったばかりですから、今年のイベントでは対応できなかったのですが、今後はリアルのショッピングの場でau WALLETを利用できるようにしていきたいですね。Creemaストアから導入して、来年のハンドメイドインジャパンフェスではau WALLETで買い物ができるようになるとおもしろいですね」と、KDDIが投げたパスを受け止める。
KDDIの松田は、「1,000万加入を超えたauスマートパスで、Creemaの作品を紹介するところから協業の成果を示していく計画です。7月中には作品の紹介を始められると思います。さらに、携帯電話料金とまとめて決済できるauかんたん決済のCreemaへの導入も進めています。ネット上で決済することへの心理的な障壁を低くできると考えています」と、具体的な方策を示す。
丸林氏は、「最終的には、Creemaが大きな経済圏となって、日本で活動するクリエイターの皆さんと、日本のモノ作りの文化に貢献できたら、学生時代からの願いが実現できますね」と将来への抱負を語る。その人懐っこい笑顔と熱い思いが、きっとその願いを叶えてくれることだろう。
文:岩元直久 撮影:高橋正典
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