2014/07/03

KDDI ∞ Labo潜入報告 第6期生の大きな成長を感じさせるWeekly Presentation

3月からはじまったKDDI ∞ Labo 第6期プログラム。プロジェクトも終盤に差し掛かった6月6日に開催された第9回Weekly Presentation(WP)の様子を取材した。

毎週のプレゼンテーションでサービスを磨き上げる

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「Weekly Presentation」は、全チームで進捗状況を共有することを目的に、3カ月間の期間中、毎週開催されており、KDDI ∞ Laboの柱となるセッションだ。各チーム15分の持ち時間のうち5分でチームが取り組むプロジェクトの概要、現在の進捗、課題をプレゼンテーションし、残りの10分でその回のゲストへの質問と、ゲストや他チームのメンバー、KDDIのメンターや、∞Labo卒業生からの質疑応答(時には激しいツッコミ)」を受ける。

Weekly Presentationには毎回テーマが定められており(表を参照)、ゲストはそのテーマに沿ってチームにアドバイスができる専門家が招かれる。テーマに沿って順番に考えていくことで、3カ月間でアイデアをビジネスにするまでの一通りの課題がクリアになる仕組みだ。歴代の卒業生達が最も悩み苦しみ、時には「プレゼン準備をする時間があればコードを書きたい」などと内心思いながら、終わってみればもれなく「一番ためになった」と振り返るセッションだ。

この日のテーマは「サービスのプロモーション戦略」。ゲストの株式会社インスパイヤ 見満周宜氏に対して、ユーザーの獲得方法を中心に各チームがサービスを説明した。

ゲストや卒業生の実体験に基づくアドバイスやオファー

6月6日に開催された第9回Weekly Presentationの様子

プレゼンの開始前に、司会進行を務めるKDDIの石井亮平から、「持ち時間は15分だけどプレゼンは5分だから、そろそろ時間意識して行こう!」と声がかかる。Weekly Presentationには、進捗確認以外にも、最終発表会であるDemoDayで、5分間で自分達の事業のすべてを効果的に伝えるプレゼンを完成させるための効果的な練習という側面もあるのだ。卒業生の多くも、「毎週5分、同じサービスについてのプレゼンを繰り返すことで、自分達のやりたいことがクリアになると同時に、伝え方をブラッシュアップするいい訓練になった」という。

各チームのプレゼン内容

DemoDayまでおよそ1ヵ月となったこの日、各チームはどんなことで悩んでいたのだろうか。プレゼンはその場でアプリによるくじ引き順に進められた。

1)filme 門松信吾氏(株式会社コトコト)
「ママがスマホで撮った子どもの動画を、編集ができないので見返すきっかけもなく共有できない」という悩みを解決するために、1日30秒の動画を撮影するだけで、編集された「成長シネマ」を定期的にDVDで提供するサービスを開発。

システムはほぼ完成しており、現在の悩みはビジネスモデルだ。ママだけではなく、おじいちゃん、おばあちゃんにもアプローチするにはどうすれば良いかを考えている。会場にきていた∞Labo卒業生から「おじいちゃん、おばあちゃんが動画が欲しい動機を考えた方が良い」というアドバイスもあった。

2)macaron 吉田圭太氏(SPWTECH合同会社)
「みんなのきれいになる知恵が集まるアプリ」として、情報を使って女性をきれいにするというコンセプトでアプリを開発している。情報をキュレーションする女性を「パティシエール」と呼び、現在12名の女子大生が、パティシエールとしてどのようなコンテンツを提供するかを検討している。キュレーションアプリだが、ニュースではなくコンテンツにフォーカスして、女子大生の「お金ない、時間ない、知らない」の「3無い」を解決するための「きれいになるためにお金をかけなくても実践できる知恵」を提供する。

この日はデモを見せるところまでは至らず、司会者からは「本当に間に合うのか?」とのツッコミもあったが、「UIが既にできており、プレゼン指導の回までには見せられる」とのことだった。一応β版をスケジュール通りに完成したようだ。

3)Repro 平田祐介氏(Repro株式会社)
アプリ事業者向けに、彼らの重要な課題の1つである「ユーザーに利用し続けてもらう」ためのアプリ改善を効率的に行うためのSDKを提供する。SDKをインストールしたアプリをユーザーが操作すると、ユーザーの画面操作や画面遷移、操作しているときの表情などの情報を取得し、データとしてReproのサーバーに蓄積・提供する。プレゼンでは、実際にReproでユーザーの表情と行動情報のデータを記録している動画が紹介された。ゆくゆくは、アプリ事業者が設定する目標アクションまでの行動パターンを機械学習を応用して分析し、最適なページ構成やボタン配置を提案できる機能を提供したい意向だ。

ここでは名前は出せないが、複数の大手ネットサービス企業にパイロット版を既に提供しており、フィードバックをもらいながら年末には課金ができるレベルに完成させるのが目標。また、ユーザーの操作情報と顔の表情という言語に依存しないサービスなので、最初からグローバル展開も視野に入れている。

プレゼンの様子

4)MistCDN 田中晋太朗氏(Mist Technologies株式会社)
最新のWeb標準技術である "WebRTC"を利用することで、ブラウザ間でコンテンツ交換を行うP2P型CDN(コンテンツ配信ネットワーク)を提供する。MistCDNは、ユーザーPCにコンテンツをキャッシュすることで、同じコンテンツを視聴する他のユーザーPCからもコンテンツを配信し、配信の高速化とサーバの負荷分散を実現する。すなわち、「アクセスが集中するほど配信元のPCが増えるため、パフォーマンスが向上する」という従来の常識を覆す特徴をもつ。しかも、WebサービスへのMistCDN導入あたって、Webサービスの利用者は特別なソフトウェアのインストールが一切不要だ。

実際にMistCDNを用いて動画配信を行った結果、サーバー経由のトラフィックを最大で80%削減できることが確認された。これによりコンテンツ配信事業者は、配信インフラへの設備投資コストの大幅削減を期待できる。
本プログラムでは、あらゆるコンテンツの配信対応を見据えつつ、まずはインターネットトラフィックの大半を占める動画ストリーミング配信にフォーカスして開発を行った。

5)QuaQua 高木紀和氏(株式会社DUCKLINGS)
この日の朝、KDDIがハンドメイドマーケットプレイスCreemaと資本業務提携したというニュースリリースが発表された。ハンドメイドクリエイターのためのプラットフォームを事業化しようとしているQuaQuaにとっては他人事ではない。プレゼンのつかみにこの話題を持ってきたQuaQuaは、「それでもこれは、ハンドメイドマーケットという市場が今、熱い、ということのあらわれだと考え、どう差別化していくかをチームで考えています」とあくまでも前向きだ。

QuaQuaの特徴は、ハンドメイド製品をそのまま売るのではなく、デザイナーがまずデザインを投稿し、投票によってある程度の売り上げの見込みが立ったものを生産すること。できあがった製品はウェブで販売し、デザイン料をデザイナーに支払う、というモデルだ。サイトに人が集まり、投票してくれる、コミュニティの形成が重要になる。当面は、実力のあるクリエイターを集めることでQuaQuaブランドを形成することに注力するとのこと。

3カ月間で大きく成長した参加チームたち

3カ月前のキックオフミーティングの時に比べると、各チームともサービスの技術的な仕組みについてはかなり作り込まれており、ほとんどのチームがデモンストレーション動画や実証実験結果報告など、具体的な成果を出せる段階まできている。

だが、サービスは使ってくれるユーザーがいてはじめて完成する。サービスは誰をターゲットにしたものなのか、それには市場性があるのか、もう少し違うところを狙えばより大きなチャンスがあるのではないかといったディスカッションが、チームとゲストと来場者の間で交わされる。

また、今回のゲストの見満氏がベンチャーキャピタルという、いわば「お金のプロ」であることもあり、「グローバル進出をターゲットにする場合の資本政策はどうすべきか、法人はアメリカに設立すべきか」「現在のエンジェル投資家からの資金はあと数か月でなくなるがそのあとどうすべきか」といった、本当に生々しいお金相談も出た。見満氏はプロの立場から資金の調達についてもアドバイス。また、プレゼンテーション内容から、コラボレーションに適した具体的な企業名なども挙がっていた。まさに実践的なアドバイスだ。

KDDI ∞ Labo 第6期生(写真前列の左から3人目は、KDDI ∞ Labo長を務める江幡智広)

全5チームがプレゼンテーションを終えて見満氏は、全体を通した感想として、「今回のKDDI ∞ Laboは、これまでになかったものを作ることに各チームがチャレンジしていることがとても面白い」と述べた。また、チームに対してのアドバイスとしては、「KDDIという大企業のリソースを上手に使うこと。ネットワーキングや、資金調達が必要であれば相談にのります」と頼もしいコメントがあった。

最後にKDDI 江幡智広ラボ長が「最初は心配だったが、プロダクトの形はそれぞれできあがってきている。DemoDayに向かって開発スピードを上げるのも必要だが、いま一度、自分たちのサービスの価値を伝えるために、"何が強みで何ができるのか"を整理してほしい」と総括してプレゼンテーションの部は終了。休憩の後、ゲストの見満氏による「事業計画の作り方」のレクチャーが行われた。

Weekly Presentationはこの後、デモローンチ報告会に向けた資料作りに取り組む。最後に進行役の石井から、次回のプレゼンに向け、時間配分と構成、プレゼン時の視線や所作についてなどのアドバイスがあった。

思い返せば3カ月前、第6期生お披露目会の時の彼らのプレゼンテーションに比べると、どのチームも自信に満ちている。当初はアイデアが先行していたサービスが、目に見える形になってきたのも大きな理由だろう。それに加えて、「効果的なプレゼンテーションで自分たちのサービスを伝える」という、ビジネスでは必須のスキルも大きく成長したことを実感した。人は3カ月で変わるのだ。

第6期の成果を広く発表する「DemoDay」は7月14日。彼らのサービスが、どのような形で世に出ていくのか。「0から1」が形になる瞬間を、足を運んで見届けたい。

DemoDayに向けた参加5チームからのメッセージ

filme
filmeではお子さんの顔、動き、声などを解析し、日々の動画のベストシーンからまるで映画のように編集された「成長シネマ」を自動で作ることができます。DemoDayではこの「成長シネマ」の感動を体験してみてください。きっと、お子さんの成長を振り返る最高の手段だと感じて頂けると思います。

macaron
3ヶ月間自分たちの中で女子大生がほしがっている情報というものはどういうものか?という事に集中して製品の構想から制作までを行いました。情報量が増えていくこれからの世界で、特定の情報を切り出しユーザーに最適化するキュレーションアプリは人々の生活の指針になっていくと考えています。

Repro
Reproは2年内にグローバルで利用されるアプリ内ユーザー行動解析ツールになります。DemoDayでは、Reproが解決しようとしている課題がReproで解決できるのか、解決できたとして世界で勝てるのか、という2つの観点で見て頂けたらと思います。

MistCDN
我々は東大発のベンチャーとして、学術研究の応用でWebの世界を革新すべくMistCDNの技術開発に取り組んできました。Webサービスを影から支えるMistCDNはエンドユーザの方々の目に直接触れるような技術ではありませんが、是非DemoDayでは技術研究とWebの未来を感じていただければと思います。

QuaQua
3カ月前にはアイデアしかなかったが、なんとか形になるところまで来た。「クリエイターの創造力を最大化する」というビジョンを実現するには、やるべきことがまだまだたくさんあるが、実現の第一歩としてQuaQuaというサービスを世の中に普及させていきたい。

文:板垣朝子

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