2014/06/18

真の「つながりやすさ」を実感してもらうために 屋久島・世界自然遺産登録地域のLTEエリア化に成功

「ここから先は携帯電話は使えません」と縄文杉へ向かう荒川登山口で登山ガイドが注意喚起をしていた、屋久島の世界自然遺産登録地区。その中でも登山客の多い縄文杉や宮之浦岳山頂が、今年のゴールデンウィーク前からau 4G LTEのエリアとなった。約35km離れた対岸の種子島から電波を発射して、海越えでエリア化に成功したのだ。この屋久島対策局建設に携わったKDDI福岡エンジニアリングセンターの伏見正則に話を聞いた。

人口カバー率では測れない“つながりやすさ”

種子島から屋久島を望む

屋久島の縄文杉付近

鹿児島県佐多岬の南方約60kmに位置する屋久島は、世界自然遺産への登録も相まって屋久杉や自然に触れ合うための観光客が増えている。島民が居住している沿岸部にはauの基地局があり、エリアとなっていたが、樹齢4,000年以上と言われる縄文杉をはじめとする屋久杉の巨木が自生する島の中心部や、九州最高峰である宮之浦岳(標高1,935m)では携帯電話サービスを提供することは非常に難易度が高かった。それは、国立公園内ということもあるが、電柱すら設置されておらず電気や基地局までの回線を引くことができないためである。

「対岸の種子島の基地局から、海を越えて電波発射し、縄文杉周辺や宮之浦岳山頂をエリア化する」というプロジェクトのアイデアは、KDDI福岡エンジニアリングセンターから出たものだった。「居住区域だけではなく、多くの人が訪れる観光スポットでは、訪れた人が感動をその場から、より多くの人々に伝えたいという想いがあるので、それを携帯電話サービスで実現する事が我々のミッションであり、なんとしても実現したいという強い想いがありました」(伏見)。

お客さまの感動を届けるという強い想いを実現するため、本社も巻き込みプロジェクト推進の体制をつくり、観光客が増えるゴールデンウィーク前までに実現することを目標とした。しかし、現実としては残り2カ月を切っており、通常ではありえない短期間で、しかも海越えの30km以上離れた場所をエリア化するという技術的にも非常に難しい工事がスタートした。

重く、大きな指向性アンテナを慎重に設置

種子島から屋久島に向けて電波を発射

通常でも陸続きで半径10数km程度の広い範囲をカバーする基地局建設の例はあったが、距離としても35km離れた場所に、そのうえ電波が乱れやすい海越えでピンポイントにエリアを作るのは、auにとっても初めてのチャレンジだった。今回のエリア化にあたり、電波を効率良く届かせるために電波が無駄に横に広がらず、より強い状態で目標に到達させる特別なアンテナが必要であった。そこで、通常の基地局建設で用いるアンテナ(長さ1.5m程度の筒状)とは異なる特殊なアンテナを急遽準備したが、1.5m四方の大型で大きく重いアンテナであった。そのため、設置する鉄塔がアンテナ荷重に耐えられるかが新たな問題として浮上し、その問題を解決するために、設置方法や強度検討などが慎重に繰り返された。検討の結果、取り付けが可能と判断し工事を進めた。さらに、アンテナから縄文杉を狙うと同じ方向にある、九州最高峰の宮之浦岳山頂までも一度にエリア化してしまうことで、お客さまの感動を伝える機会を増やそうと考えた。

4月21日、種子島に特殊なアンテナが搬入された。設置に当たる工事担当者も、この特殊アンテナの設置は初めてであるため、取り付け方法の確認や実際にクレーンによる吊り上げテストを何度も行い、試行錯誤のなか工事のやり方を決めた。しかし、折悪しく雨が降ってきたため、確認作業や吊り上げテストはより危険度を増し、安全管理をより厳重に行ったうえで実施した。そして翌4月22日に、特殊アンテナの取り付け工事が開始された。この日はさらに雨が強くなり工事実施のチャンスは絶望的だった。また工事担当者の気持ちの焦りも出てきて、本当やり遂げられるのかと皆が不安になった。しかし、初めての工事を完成させる喜び、またその先にある携帯電話を使うお客さまの笑顔に向けて、気持ちを一つするように現場のコミュニケーションを絶やさずに空とにらめっこをしながら、工事開始のチャンスをうかがった。やがて関係者の想いが通じたのか雨も弱まり、安全確認を充分に行ったうえで、工事が開始された。

アンテナ吊り上げの準備の様子

対岸の種子島の対策局のアンテナ吊り上げ工事

「ここで使えるなら、私もauに変えよう」

基地局工事は種子島で行われたが、エリア化する場所は屋久島であり、工事を終えたその足で伏見は屋久島へ渡った。工事の翌日に縄文杉まで登山をし、エリア化されていることを自身で確かめるためだ。縄文杉は標高1,300mの高さにあり、登山口から片道5時間11kmかかるルートだ。登山~電波測定~下山を考えると、少なくとも早朝4時に宿舎を出発する必要がある。

荒川登山口ではいつも通り登山ガイドから「ここから先は携帯電話の電波は入りません」と、観光客に注意を促す説明がされていた。伏見は、電波対策を完了したので電波が入るとの確信と、35kmも届かないかもしれないという不安を抱きながら目標に向かって歩き始めたという。一刻も早く縄文杉へ辿り着き、電波状態の確認をしたいとの気持ちの高まりから、登山道の途中での景色を眺める余裕はなかった。お昼前に縄文杉へ到着し、携帯電話を片手に展望デッキに足を踏み入れたその瞬間、4G LTEとの表示とともにアンテナバーがハッキリと確認された。「キター!」と思わず心の中で叫んだ。5時間にもおよぶ登山の苦労は一瞬にして吹き飛んだ。また、展望デッキにて通信を確認したところ、LTEデータ通信や音声通話も可能だった。縄文杉展望デッキがサービスエリアとして確認された瞬間だった。

縄文杉前で電波の確認状況をするKDDI福岡エンジニアリングセンターの伏見正則

「携帯電話が使えないはずの展望デッキでデータ通信や通話を行っている我々を見て、登山口で登山客に対して『携帯電話は使えません』と言っていた登山ガイドから驚きとともに『携帯電話使えます? どこの会社ですか?』と声を掛けられました。『電波対策を行い、使えるかどうかの確認のために来ました。auの電波は使えますよ』と答えたところ『ここで携帯電話が使えるのであれば、自分もauに変えよう』とおっしゃってくださいました。世界自然遺産である縄文杉の前で、au 4G LTEが使える状況は非常に誇らしかったです。樹齢4,000年の縄文杉と現代のテクノロジーが共存した瞬間でした」(伏見)。

同時にエリア化を狙った宮之浦岳にも、別チームが登山し電波測定を行った。縄文杉同様に4G LTEの通信が可能との一報が入り、非常に難易度の高い場所2カ所同時のサービスエリア化が成功した。「今回のように乗り越える壁が高いほど、達成した喜びは大きく、もっと果敢なチャレンジをし、お客さまに感動を届けたい」と、伏見は今後のエリア対策への抱負を語っている。

文:板垣朝子

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