2014/06/03

『ニコニコ超会議3』超ダイオウグソクムシブースの舞台裏 伝説になる企画を

「ムシ全般が苦手」な担当者に降臨した提案

2日間にわたって開催されたニコニコ超会議3には、約12万5000人が訪れ、約760万人がネットで視聴した

4月26日(土)~27日(日)、千葉市の幕張メッセには、いつもなら決して隣り合うはずのないものたちがひしめき合っていた。アイドルのライブステージ、陸上自衛隊の戦闘ヘリ「AH-64D アパッチ・ロングボウ」、有人潜水調査船「しんかい6500」、ゲームのキャラクターに扮して歩く人々......。ニコニコ動画やニコニコ生中継で人気のコンテンツをリアルの場で楽しむこのイベント「ニコニコ超会議3」には、一度に入りきれないほどの人が朝から押し寄せ、入場待ちの長い列をつくった。

3回目の開催になる今年、目玉ブースの一つがau(KDDI)が提供する「超ダイオウグソクムシブース」だ。5年以上の絶食で話題になった"深海の巨大ダンゴムシ"こと「ダイオウグソクムシ」を実際に見たり、ひとまわり小さい「オオグソクムシ」をさわったりできるブースで、さまざまなイベントが開催されるほか、オリジナルグッズも販売される。

KDDI新規ビジネス推進本部ビジネス統括部の松岡由起子。手にしているのは「1号たんグソクカチューシャ」

「ニコニコ超会議にぜひ協力したいという申し出はしていたのですが、主催するドワンゴさんに『ダイオウグソクムシブースを作りませんか』と提案されたときは驚きました。『KDDIとダイオウグソクムシの組み合わせってどうなんだろう......?』と。私はムシ全般が苦手でしたし」と、今回の企画を担当するKDDI新規ビジネス推進本部ビジネス統括部プロモーショングループの松岡由起子は笑う。「正直、最初は驚きましたけど、ニコニコ超会議3に協賛するのなら、いらっしゃる方々に楽しんでもらうことがKDDIの役割ですから」と、同じく担当の岸 尚宏も企画発足当時を振り返る。

鳥羽水族館で5年以上に及ぶ絶食を続けたダイオウグソクムシ「1号たん」は、昨年3月以降、4回にわたって、その姿がニコニコ生放送で長時間(48時間~82時間)生中継され、多くの人が「いったい、いつ食べるのか!?」と固唾を飲んで見守ってきた。合計視聴者数300万人以上と、絶大な人気を誇るこのコンテンツをKDDIでブースにしませんか、という提案だったのだという。それならば、来場者に喜んでもらえるブースができるに違いない。早々にKDDI田中孝司社長の賛成もあり、プロジェクトは始動した。

「来年のニコニコ超会議でも、『去年、KDDIがこんな事をやってたよね』と皆さんの記憶に残るような"伝説の企画"をやろう、とみんなで決めました」と、ムシが苦手な松岡も開き直った。

動かないダイオウグソクムシをどう楽しんでもらう?

2匹のダイオウグソクムシを目の前に見られる水槽は、最大60分待ちの人気となった

オオグソクムシを触れるタッチプール。大胆につかまえにいく人もいれば、おそるおそる手を出す人も

動かないダイオウグソクムシが動くとサンバ隊が登場して見事なダンスを披露

前日の朝、ブースに全面協力する新江ノ島水族館から、ダイオウグソクムシ2匹とオオグソクムシ数十匹が飼育員の方々の手で慎重に運び出された。ダイオウグソクムシは深海の生物。明るい光に長時間さらさないよう、そして水温が低く保たれるよう、神経をつかう。搬送の模様もニコニコ生放送で中継され、ユーザーが見守る中、無事に会場に到着。ダイオウグソクムシは暗室に設置された水槽で、オオグソクムシは小さなプールで来場者を待つ。

そして当日は開場直後から、ダイオウグソクムシへ向かう行列もオオグソクムシへ向かう行列も瞬く間に長くなり、最大で60分待ちという長蛇の列になった。ダイオウグソクムシは、一度に見られる人数が限られるため、暗室の外にモニターを設け、リアルタイムでその様子が多くの人にも見られるようになっている。

ブースの様子はニコニコ生放送でも中継され、会場に来られなかったユーザーは、視聴したりコメントを寄せたりして、ネット上で楽しむことができる。まったく動きがない時間でも、ユーザーはコメントを書き込みつつ、雑談をしながら展開を待つ。何か起きるかもしれないけれど何も起きないかもしれない時間を楽しむこのスタイルこそ、従来のテレビ放送にはなかった楽しみ方。ニコニコ生放送と動かないダイオウグソクムシの相性の良さが人気の源のようだ。

午後1時。モニターが設置されたステージでは、新江ノ島水族館の飼育員によるシンポジウムが始まった。すると唐突に、巨大な羽根を背中につけたきらびやかなサンバ隊が現れた。ダイオウグソクムシに惚れ込んで「グソドル(ダイオウグソクムシ好きのアイドル)」を自称するMCの原田真緒さんが一声、「今、ダイオウグソクムシが動きましたー!!」。サンバ隊はステージの周りを踊りながらめぐり、あっけにとられる来場者に、オリジナルステッカーを配っていく。

このサンバ隊は、ダイオウグソクムシが動いたときにだけ登場する、いわば「祝砲」。このためだけに控え室で待機していたのだ。動かないことで知られるダイオウグソクムシのために、サンバ隊を終日待機させるなんて、普通のイベント企画では考えられないが、「これはドワンゴさんからの提案だったんです。私たちにはとても思いつかない発想でした......」。もしダイオウグソクムシが動いたら盛大に祝いましょう、そのためにサンバ隊を、と真剣にプレゼンするドワンゴの担当者さんたちの顔を思い出し、松岡は吹き出しそうになる。「ニコニコユーザーさんの好みを一番よく知っているのはドワンゴさん。auが普段ターゲットとしている層とは違うので、私たちが思いもつかないことを提案される。それがとても新鮮でしたね」と、岸も同意する。

この試みは来場者も視聴者も驚かせ、その瞬間、生中継画面には読み切れないほどのコメントが流れていった。とはいえ、両日とも2匹のダイオウグソクムシは泳いだりひっくり返ったりと、意外なまでに活発に動き回り、「一度も登場する機会がなかったらどうしよう」という心配とは裏腹に、サンバ隊も大活躍することになった。

伝説の「1号たん」3Dスキャンで復活

会場には、3Dスキャンと3Dプリンター技術で精密に再現された伝説のオオグソクムシ「1号たん」のフィギュアも展示

KDDI新規ビジネス推進本部ビジネス統括部の岸 尚宏

5年間絶食を続けた鳥羽水族館の「1号」という個体は、ニコニコ生中継では「1号たん」と呼ばれ、すでに伝説的存在になっている。残念ながら今年2月14日に亡くなったのだが、会場にはこの1号たんを3Dスキャンし、3Dプリンターで精密に再現したフィギュアが展示された。制作には1体につき40万円がかかっているが、3体制作されたうちの2体は、会場で行われた「No.1グソラー選手権」というダイオウグソクムシにちなんだクイズ大会の優勝者に贈呈された。

初日はプレゼンターとして、auのCMで"CHANNEL au社長"を務める哀川翔さんが登場。「ダイオウグソクムシを間近で見て、いかがでしたか?」と聞かれると、「気持ち悪いね(笑)」と一刀両断だったが、カブトムシやクワガタなどの昆虫好きで知られる哀川さんらしく、「水温7度なんだって? ふつう、生き物は20度を下回ったら動かないよね」「この1号たんのフィギュア、足が欠けてない?」など、鋭いコメントを連発(3Dスキャンによって「1号たん」の脚や触覚の欠如も忠実に再現されている)。

クイズにはダイオウグソクムシファンが集まり、あまりにも多くの人が正解し続けたため、問題が足りなくなる事態に陥りながらも、決められたポーズをとって最後まで動かなかった人が優勝というダイオウグソクムシにちなんだ「動かない選手権」で優勝者が決まり、1号たんフィギュアは哀川社長の手で優勝者に渡された。

精密に再現した1号たんを手にできたのは2名だけだが、物販コーナーには、伝説になるような数々のダイオウグソクムシグッズが並んだ。その中で異彩を放っていたのが、超リアルなiPhoneケース「1号たんグソクフォンケース」とカチューシャ「1号たんグソクカチューシャ」。ファンの期待に応えて、ほとんどデフォルメせずにリアルな作りを目指した。

「ダイオウグソクムシのグッズはこれまでにもいろいろ発売されていますが、ここまでリアルなものはそうないと思います」と岸が説明すれば、「iPhoneケースは原価が7,380円かかったんですが、3,000円で販売します。カチューシャは原価5,500円のところを1,500円。大赤字です(笑)。でも、とにかく来場者の方々に喜んでもらえることを、と思って頑張りました」と松岡が応える。この心意気とリアルさが受けて、iPhoneケースもカチューシャも大人気となった。

auスマートパス会員にリアルな特典を

超リアルなダイオウグソクムシのiPhoneケースやカチューシャなどを販売するコーナーにも長蛇の列が

リアルさに徹底的にこだわり、赤字販売に踏み切ったiPhoneケースは大人気に

「私たちには、『伝説になる企画にする』ということのほかにもう一つ、大きなテーマがありました。それはauスマートパス会員の方々にこのイベントでさまざまなラッキーな特典を提供するということです」(松岡)、「ニコニコ超会議は『ネットとリアルを融合する』イベント。私たちのサービスもオンライン上のサービスだけではなく、リアルにおトクを実感してほしいので、イベントのコンセプトとも一致していました」(岸)と2人が言うように、会場を訪れたauスマートパス会員には、さまざまな特典が用意された。

例えば先のカチューシャは、会員であれば200円引き、フードコートでは人気の「ニコバーガー」が200円引き。これだけでもauスマートパスの月額使用料372円(税別)に匹敵する。また入場待ち時間が長くなるニコニコ超会議では優先入場券の人気が年々高まっているため、auスマートパス会員限定の優先入場券も販売した。岸によれば、「2日通し券のほうが先に売り切れましたね」とのこと。また松岡は、「ニコニコ超会議3でのこうした特典のことを知ってスマートパスに入会されたお客さまもけっこういらっしゃったんです」という。

さらに、超ダイオウグソクムシブースのステージ前には、マッサージチェアが十数台設置されており、誰でも自由に使えるが、そのうち5台はスマートパス会員優先席となっている。「会場が広く、一日中歩き回ると足が相当疲れますので、ここでダイオウグソクムシをモニター越しに見ながら、疲れをもみほぐしてもらえたら」(岸)との心遣いだ。

会場の通信環境強化に注力

エリア対策のため会場外で稼働する車載型基地局には、立体的なラッピングが

Wi-Fi機器を背負って会場内に配置された人間Wi-Fi隊も頭にダイオウグソクムシ装着

特別協賛企業として、会場の通信環境強化にはとりわけ力を入れた。前々日から運用部門のスタッフが入って会場全体の通信環境の強化対策を行い、車載型基地局の配備はもちろん、会場内にも可搬型基地局を設置した。さらに、数十人の『人間Wi-Fi隊』も出動した。いわば人海戦術のエリア対策で、Wi-Fiルーターを背負ったスタッフが会場のいたる所に立つ。

岸は、「私たち企画運営する部署だけでなく、運用部門やカスターマーサービス部門などのいくつもの部署がニコニコ超会議3のために動いているんです」と説明する。

「ふだんからauでは『アクティブサポート』といって、Twitterで『auのここの電波が弱い』といった情報が上がったら、それをすぐに現場に伝えて改善対策をとる態勢をとっているんですが、ニコニコ超会議3でも、Twitterでそうした情報がつぶやかれたら、カスタマーサポートとテクニカルセンターとが連携して、車載型基地局や可搬型基地局を調整したり、といった対策も行います」(松岡)

ニコニコ超会議では、その場で生中継する人もいれば、TwitterやFacebookに投稿する人も多いため、通信環境の充実は来場者にとって重要なポイントに違いない。

「さらに、車載型基地局にはダイオウグソクムシのラッピングをしました。ラッピング自体はコミックマーケットへの出動時にも行っていますが、今回はなんと立体仕様です」(松岡)。見れば、車のサイドから巨大なダイオウグソクムシの頭が飛び出している。「午前中は入場するための長い待機列ができるので、待っている方にもこれを見て楽しんでいただければ」と松岡。人間Wi-Fi隊も、グソクムシTシャツを着て、頭にはグソクムシぬいぐるみを被り、グソクムシ仕様のフラッグを持つ。無料充電ブースもダイオウグソクムシ仕様の徹底ぶりだ。

人気コンテンツ×auでユーザーの共感を

超ダイオウグソクムシブースの左隣は安倍晋三首相もスピーチにやってきた言論コロシアム。反対側には大相撲の土俵があり、その脇にはアニメの声優に熱烈な歓声を送る観客、目の前を行き交うコスプレイヤーたち。

会場を訪れたKDDIの高橋 誠専務は会場を見回し、「こんな風に、全然違う嗜好の人が一堂に会するイベントは他にないですよね。若い人たちの価値観が多様化していることが各ブースを見ているとよく分かりますし、こういう時代にKDDIがどうやってユーザーと接していくかというヒントになります。こういう場所では通信関連の展示をするのではなく、ダイオウグソクムシのようにユーザーが実際に体験したいブースを作るほうが共感を得られるでしょう。これだけ多くの方がブースにいらして楽しんでいただけているのを見ると、良かったなと思いますね」と話す。

ダイオウグソクムシを見るための行列も、オオグソクムシに触れるための行列もとぎれる気配はない。来場者の記憶に残るブースになったことは間違いなさそうだ。岸は、「ネットの中で楽しんでいたものをリアルで楽しむ機会を提供する、このニコニコ超会議3のように、私たちは今後も、auのお客さまに、情報だけでなく、リアルな特典を提供する機会を作っていきたいですね」と抱負を語っている。

文:江口絵理  撮影:高橋正典

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