2014/04/23

いよいよやってくる『Firefox OS』(2) リクルートホールディングス

Firefox OSスマートフォンが日本に登場するより前に、Firefox OS向けのアプリケーションを世に問う企業がある。2014年2月、リクルートホールディングスと楽天が、それぞれFirefox OS向けのアプリの提供を開始した。日本企業が今、Firefox OSのアプリを提供する意味はどこにあるのだろう。今回は、リクルートホールディングスアライアンス担当の宗藤和徳氏に、Firefox OSとの関わりについて尋ねた。

HTML5のプラットフォームとしてFirefox OSに注目

リクルートホールディングス(以下、リクルート)は、2014年2月にカメラアプリ「cameran」のFirefox OS向けアプリを公開した。Firefox OSへの進出とリクルートの事業との接点はどこにあるのだろうか。宗藤氏はまず、リクルートのビジネスについて解説してくれた。

リクルートホールディングス 国内事業統括室 アライアンスグループの宗籐和徳氏

「リクルートが提供する価値は、情報を探したい生活者と、情報を提供したい企業の間のマッチングです。手段となる媒体は多種多様で、紙の雑誌から始まり、フリーペーパー、パソコンによるインターネット、携帯電話のモバイル、そして今ではスマートフォンへと広がりを見せています。ICTが進化したことで、"モノの探し方"は変化し、現在では、スマートデバイスを使うことで、24時間どこにいても情報のマッチングが可能になりました。スマートデバイスにどれだけ最適化した形でサービスを提供できるか、それがリクルートにとっての課題です」

スマートデバイスへの対応の方法としては、大きくWebサイトでのサービス提供と、アプリでのサービス提供の2種類があり、各々に使われ方が異なると考えている。

「スマートデバイスでは、ホームスクリーンにアイコンが並んでいることから、アイコンによる行動指向性が高いと考えています。何かをしようとする行動が、アプリのアイコンと対応しているのです。いかにアプリをたくさん用意して、ユーザーのホーム画面に置いてもらえるかが、利用頻度に影響を与えます」

これまで、iOS、Androidが中核となってスマートデバイスを牽引してきたが、一方でプラットフォームの多様化も進んでいる。MozillaのFirefox OS、AmazonのFire OS、Tizen AssociationのTizen OSなどだ。その中でリクルートはまず、Firefox OSに目を向けた。

「iOSやAndroid向けのネイティブアプリの開発に比べ、より汎用的技術を使える点が大きく異なります。注目しているのが、標準技術であるHTML5です。W3C(World Wide Web Consortium)で標準化されているHTML5は、マルチデバイス対応が容易です。HTML5の世界でアプリの体験をどのように積み上げていくかを考えたとき、HTML5のプラットフォームとして最も進んでいたFirefox OSに白羽の矢が立ちました。Firefox OSで経験を積めば、それ以外のHTML5プラットフォームへの展開もしやすいでしょう。もちろん、iOSやAndroid向けのアプリ開発者と比べてHTMLを扱える開発者、制作者は10倍も20倍もいるということも背景にあります」

第一弾としてカメラアプリ「cameran」をグローバルに展開

Firefox OSをアプリ展開の1つの方向性と見極めたリクルートは、今回、カメラアプリ「cameran」を開発・提供した。写真家の蜷川実花さん監修による、独特の世界観の写真を作れるアプリだ。

「Firefox OSは、低スペックのハードウエアでもアプリが動き、アプリをダウンロードしなくても使えるといった特徴があります。これなら、まだインターネットやスマートフォンを使っていない"残りの40億人"にも届く可能性があります。グローバルの展開としては、先進国や日本にとらわれる必要はありません。アプリとしては、言語に依存せず、初めてスマートフォンを使う人にもインパクトがあるコンテンツを選びました。それが『cameran』だったんです」

FireFox OS向け英語対応アプリ「cameran」。写真家の蜷川実花さん監修で、独特の世界観の写真を作れる

リクルートは、実は国際企業グループである。グループの109社のうち、およそ50社が海外に籍を置いており、海外での売上も伸びているという。

「Firefox OSアプリのグローバル展開を考えたとき、言語依存しないことと、HTML5で提供できるユーザー体験の中でユニークなものを出そうということの2つが選考基準でした。cameranは、Firefox OS向けアプリにカメラアプリが少なかったことや、iOS向けのアプリとしてグローバルで受け入れられた経験があったことから、第一弾として提供しました。続いて、写真・動画共有アプリ『SeeSaw』の提供を始めています。こちらは写真にお絵描きをして友人同士で送り合えるアプリです。こうしたアプリに対して、世界のユーザーがどのような反応をするかを楽しみにしています」

HTML5という標準技術を採用しているとはいえ、Firefox OSは新しいプラットフォームだ。Firefox OS向けにアプリを作るとき、苦労はなかっただろうか。

3月にリリースした写真・動画共有アプリ「SeeSaw」。FireFox Makretplaceを通じてグローバルにダウンロードすることができる

「iOS向け、Android向けアプリよりもシンプルにした部分はありますが、開発日数はさほどかかりませんでした。今回、cameranのフィルター処理などは演算時間がかかるため、スペックの低いマシンでも快適に使えるようにするチューニングには苦労しました。ゲームなどを動かすのはまだ難しいのではという印象もあります。逆に、リクルートのコンテンツはあまり動画は多くないので、Firefox OSに移行しやすいかもしれません」

公開を始めて、実際のグローバルでの反響はどうだろうか。宗藤氏は笑いながら答えてくれた。

「想定以上にダウンロードされている印象ですね。cameranについては狙い通りで、カメラアプリがあまりないことから相対的に露出機会が増えて先行者利益を得ています。リクルートは約400種類のアプリを提供していますが、その中でもいくつかのアプリは、手直しをしてグローバルに提供することで、ユーザー接点を増やすことができそうな印象です。面白いのは、問い合わせやユーザーレビューにスペイン語が多いことです。これまでグローバルというと英語での対応が中心でしたから、新しいユーザー層とのコミュニケーションが始まっている感覚があります。翻訳してみると、"このアプリ最高"とか"かっこ良くて面白い"といったコメントを数多くもらっています」

日本向けアプリやサービス開発に加え、開発者への啓発活動も

Firefox OSを搭載したスマートフォンがまだ登場していない日本国内に対して、リクルートはFirefox OSの展開をどう考えているのか。グローバルとは違う視点があるはずだ。

「今後、iOSやAndroid向けのネイティブアプリと、Webとの差がなくなっていくことが考えられます。アプリをダウンロードすること自体がナンセンスになる時代がくるかもしれません。機能としても、HTML5でローカルストレージにアクセスできますし、Webでもアプリと同じことができるようになっています。そうした可能性を持つHTML5に対応できるノウハウを今から確保しておくことが、国内向けの視点です。もちろん、今後の日本での端末提供を見越して、『ホットペッパーグルメ』などのアプリやサービスのFirefox OS対応も進めていきます」

リクルートでは、Firefox OS向けアプリの開発支援にも取り組む。Mozilla Japanの協力を得て、リクルートが主催するアプリ開発コンテスト「Mushup Awards」を通じて、開発者へのFirefox OSの啓発を進めていく。

「Mushup Awardsは、すでに9回実施している実績のあるアプリ開発コンテストです。リクルートでは、Mushup Awardsを通じてオープンイノベーションを広げていこうと考えています。これはMozillaがHTML5という汎用的な技術でイノベーションを起こそうという考え方と相性が良く、Firefox OS向けアプリの開発支援活動を協力して始めたところです。こうした支援活動によって、開発者のコミュニティなどを通じて世界中のエンジニアとつながれたら良いですね」

グローバルと国内、それぞれの市場に向けての思惑はあっても、リクルートはFirefox OSが導く新しい世界の開拓に取り組んでいる。

「先行するグローバルだけでなく、国内でも端末の提供をアナウンスしているKDDIや、他の影響力のあるコンテンツプロバイダーと連携しながらFirefox OS向けのアプリの普及を推進していきたいと考えています」

文:岩元直久  撮影:高橋正典

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