2014/03/28

地下や屋内でも迷わず目的地へ 渋谷地下で『スマホで道案内』社会実験を実施

"ダンジョン(迷宮)"とも呼ばれる東京・渋谷駅周辺の地下を、土地勘のない人でも迷わずクリアできるアプリが登場した。渋谷駅周辺地域ICT活用検討協議会が社会実験として3月25日から5月31日まで提供するもので、スマートフォンで目的地までの行き方を細かく道案内してくれる。対応スマートフォンを持っている人なら、誰でもアプリをダウンロードして実験に参加できる。

地下の各所にスマートフォン向け"道しるべ"を設置

携帯電話での歩行者ナビゲーションサービスは、2003年に提供開始された「EZナビウォーク」以来、10年以上の歴史があるが、スマートフォン時代になり、よく利用する機能としてすっかり定着している。目的地さえ入力すれば、電車の路線だけでなく、乗車駅まで、そして降車駅からの道案内までしてくれるため、初めての場所に行くときでも道に迷うことはずいぶん少なくなった。ただ、これらのサービスは人工衛星からの電波で現在地を割り出すGPSを利用しているため、屋内では利用できないのが玉にキズ。特に、迷いやすい大規模ターミナル駅では、例えば「3番出口を出て真っすぐ」と言われても、駅構内で迷ってしまって反対方向へ歩いていたという経験は誰しもあるだろう。

渋谷駅周辺は現在、再開発が進行中で、鉄道間の乗り換え通路が変更になるなど大きな変化を繰り返しており、目的地にスムーズにたどり着けない利用者が多く出ていることから、今回の社会実験が計画された。道案内のためには、GPS衛星からの電波が届かない場所でも現在位置を取得できるようにする必要があるため、今回の実験では、スマートフォンが位置情報を取得できる"道しるべ"を渋谷地下の各所に設置するとともに、それを利用した道案内アプリ「渋谷歩行者ナビ」を開発して提供する。

アプリ「渋谷歩行者ナビ」を立ち上げると、まず現在地を確認し、目的地を選ぶメニューが表示される(今回の実験では、スクランブル交差点・ハチ公前、井の頭線渋谷駅改札口、ヒカリエ改札など7カ所)。目的地を選択すればナビがスタートする。画面には現在地周辺の地図が表示され、進むべき方向が青い線で表示される。地図の向きは実際の方位に合わせて回転するため、画面を水平にしたときに青い線が示す方向に歩いていくだけでいい。さらに、画面下部には、「14番出口を左手に、出口1-12方面(北)へ」「エスカレータ・階段横の地下通路を通る」といったように文字情報も表示されるので、地図では迷いやすい分岐等でも安心して進んでいける。地図はGoogle Mapを利用しているため、地上に出れば、そのままGPSによる地図として利用できるほか、渋谷ヒカリエなど、一部のビルについてはフロアごとの地図も表示できる。

道案内の方法には、「AR表示」も用意されている。AR表示に切り替えると、画面にはスマートフォンのカメラが捉えた目の前の景色が映し出され、その上に、黄色い矢印で進行方向が表示される。地下街には、三叉路、五叉路など、どの通路を行けばいいのか分かりにくい分岐も少なくないが、AR表示なら直観的に進行方向が把握できる。ただし、「歩きスマホ」を防止するため、利用者が動き始めると、AR表示は自動的に解除されて地図表示に戻るようになっている。

「AR表示」では、画面に表示された目の前の風景の上に、進行方向を示す黄色い線が表示される

利用者が動き始めると、自動的に地図表示に

地下や屋内での現在位置取得には、2つの方法が利用されている。

ひとつは電波を利用するもので、Bluetooth Low Energy(以下、BLE)を利用したID発信機を63カ所に設置した。スマートフォンから、各発信機に近づいたことを検出でき、発信機までの大まかな距離も分かる。電波が届く範囲は10m程度だ。渋谷歩行者ナビは、ID発信機からの信号を自動的に受信して現在位置を取得してくれ、ナビゲーション中は、経路上にあるID発信機をたどって、表示する地図と進行方向を書き換えていく。今回利用されるID発信機は、49mm×39mmと名刺の半分くらいの大きさで厚さ30mm、重さも最大40g程度ながら、乾電池で1年間程度利用できる。

Bluetooth ID発信機を利用する場合には、自動的に現在位置を取得する

もうひとつは、「ARマーカー」を利用するものだ。渋谷地下の各所に、今回の社会実験の告知を兼ねたポスターが貼られているが、その中に位置を示す情報が埋め込まれているのである。これをアプリから撮影することで現在位置を取得する。BLEを利用する場合とは異なり、ARマーカーを読み取るというアクションが必要だが、BLEに対応していないスマートフォンでも利用できるのが大きな利点だ。

KDDIが実験環境の構築とアプリの開発を担当

今回は実験ということもあり、BLEを利用したアプリはiOS用(iPhone5、5sのみ対応)、ARマーカーを利用したアプリはAndroid用(対応機種に制限あり)のみが提供される。より多くの人に参加してもらい、利用効果と課題を検証することが今回の社会実験の目的のひとつである。その結果を生かして、将来は、渋谷以外の場所への展開や、地下・地上を問わず行きたい場所への経路案内、車いすの利用者には階段を避けてエレベーターで移動できるルートを案内したり、地震等の発生時に避難経路を案内するといったシステムの提供を目指している。2020年の東京オリンピックをにらんで、日本を訪れる外国人観光客のために、多言語への対応も今後の目標のひとつだ。

なお、実験の実施主体である渋谷駅周辺地域ICT活用検討協議会は、国土交通省関東地方整備局、国土交通省東京国道事務所、東京都、渋谷区、東京大学先端科学技術センター、携帯電話会社のKDDI、NTTドコモ、ソフトバンクモバイル、渋谷駅に乗り入れている鉄道会社の東京急行電鉄、JR東日本、東京メトロ、京王電鉄、それに日本空港ビルデングで構成されている。

KDDIは、同協議会に参画して実験実施に尽力するとともに、協力企業とともに、実験環境の構築とアプリ開発を担当した。渋谷周辺の地下は管理者が鉄道会社、自治体、商業施設等と入り組んでいるのに加え、鉄道会社は安全への意識が極めて高いため、ID発信機の設置に当たっては設置場所の調整や、位置を正確に取得できるようにするための電波出力調整に苦労したという。このように、環境構築における課題を洗い出せたことも、今回の実験の成果のひとつだ。

KDDIの担当者は、「KDDIの生業であるモバイル、スマホを、実社会生活の中でより活用していただくことを目指して、今話題になっている渋谷駅での歩行者ナビゲーションに取り組んでいます。渋谷駅のみならず、首都圏の鉄道駅は多数の路線が乗り入れており、乗り換えや周辺地域へのアクセスに苦労するケースが増えてきています。今回の渋谷駅での実験を契機として、そのような課題を解決する一助になればと考えています」とコメントしている。

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