2014/03/24

情報通信技術を世界に広げる KDDIの国際貢献活動

写真右上から時計回りに
・ブータンのルーラルエリアに導入したインターネットを使ってみる小学生たち
・青年海外協力隊としてセントルシアに派遣されたKDDI社員。巡回先小学校で
・栃木県小山市の国際通信史料館を見学する海外からの技術研修生
・海外コンサルティング事業で建設したコモロの衛星地上局

■PART1 人材育成支援から技術支援まで5つの分野での国際貢献

50年以上の歴史を持つKDDIグループの際貢献活動の概要を、分野ごとに紹介する。

海外人材を受け入れての研修と専門家の海外への派遣

KDDIグループの国際貢献活動の歴史は1957年にまでさかのぼる。現在、国際貢献活動の中心となっている公益財団法人KDDI財団は、2009年10月、海外留学生への奨学金援助などを主業務としてきた「国際コミュニケーション基金」と、海外研修生の受け入れや国際協力・援助を任務とした「KDDIエンジニアリング・アンド・コンサルティング」の2つの財団が合併し発足した。

KDDIグループの国際貢献活動は、次の5つの分野にわたり、世界の隅々まで、世界のすべての人々に情報通信の恩恵が行きわたることを目指して活動している。

エチオピア、シンガポールからの技術研修生受け入れ(1961年)

2014年1月に実施された「ルーラル地域向け小規模通信技術」研修で、実際にWi-Fiによるネットワークをセットアップして実習する海外研修生

①海外人材育成
②専門家派遣
③デジタルデバイド解消プロジェクト
④海外コンサルティング
⑤教育支援

①海外人材育成は、その中でも最も歴史があり、KDDIの前身の一社である国際電信電話(KDD)が、タイからの技術研修生を受け入れたのが始まりだ。

以来、144カ国から約5700名の研修生を受け入れ、衛星通信技術、光ファイバー伝送技術、無線通信技術、IP通信技術、情報セキュリティ技術など、多方面にわたる技術移転や人材育成を行ってきている。講義を聞くだけではなく、実際にネットワークをつないでみる実習や、KDDI社内施設等の見学が組み込まれている。

②専門家派遣では、日本から開発途上国への技術専門家の派遣を行っている。国際通信を行うためには、日本だけではなく相手国の技術を底上げし、環境を整備しなくてはならない。そのために、1960年代に海外技術協力事業団(現・国際協力機構)から要請を受け、通信分野の技術専門家を派遣したのが始まりだ。これまでに、アジアを中心にアフリカ、南米など二十数カ国に専門家を派遣している。

また、1967年からは青年海外協力隊、2006年からはシニア海外ボランティアの在職派遣も行っている。いずれも社員は会社に籍を置いたままで参加できる制度を整備しており、これまでに18カ国に59人の社員が派遣されている。

途上国での通信ネットワーク構築を支援

マラウィへ派遣された技術専門家。交換機の技術指導を行っている(1976~78年)

③デジタルデバイド解消プロジェクトは、主に開発途上国において大きな問題となっている情報格差(デジタルデバイド)解消に貢献することを目的に、現地の人々と共同で行うパイロットプロジェクトである。現地政府やAPT(アジア・太平洋電気通信共同体)、NGO等が資金を拠出するプロジェクトに参加し、各国の実情に合わせた通信システムの計画立案、設計、構築を支援してきた。プロジェクト事例については、PART2で紹介する。

④海外コンサルティングは、政府開発援助(ODA)などの公的資金を活用した開発途上国での通信インフラ建設プロジェクトに対して、設備調達から建設工事監理まで、総合的コンサルティングを提供するもので、これまでに33年間で55カ国で実施してきた。現在はカンボジアの「メコン地域通信基幹ネットワーク整備計画」を進めている。

カンボジアへの学校寄贈

2013年のカンボジアへの学校寄贈式典では、子どもたちに絵本を贈呈

⑤教育支援プログラムは、KDDI財団が日本国内でクラシックのチャリティコンサートを毎年開催し、その収益金と寄付金を財源として、NGOと協力してカンボジア各地に小・中学校(KDDIスクール)を建設するもので、2004年度から続けている。

寄贈した学校はPCも備え、子どもたちがインターネットを利用できる環境を構築している。パソコンやデジタルカメラを初めて見る子どもたちは目を輝かせるという。学校寄贈に加え、カンボジアで絵を教えるNGOを支援したり、カンボジアの伝統芸能であるスバエクトム(影絵芝居)の継承のために、芝居一座への支援も行っている。

また、KDDI財団では、情報通信の普及・振興に資する調査研究やNPO/NGOの活動支援、海外からの留学生への奨学金援助などを行っているが、2013年には、新たな助成制度である「特定地域調査研究助成」を設けた。特定地域(主に政府開発援助対象国)に滞在し、実施する調査・研究活動に対する助成制度だ。国際社会の発展に貢献するとともに日本と現地のつながりに寄与することを目的に、現地に赴いて汗を流すNPOなどの活動を支援するものだ。

■PART2 情報通信技術を世界各地に広げるデジタルデバイド解消プロジェクト

国際的な情報格差(デジタルデバイド)を解消するため、途上国のルーラルエリアにもネットワークを普及させる挑戦は続く。

ルーラルエリアにも情報通信を

KDDI財団が、国際貢献活動の中でも特に力を入れているのがデジタルデバイド解消プロジェクトである。情報通信技術を活用できる人々と活用できない人々との間に生じる貧富や待遇、機会の格差解消に向けたものだ。開発途上国の、中でも情報通信が普及していないルーラルエリア(へき地)において、現地政府やAPT等の資金援助によるネットワーク構築プロジェクトや、KDDI独自のパイロットプロジェクトの実施を通じて、KDDIのノウハウや技術を提供している。近年は、ネットワークの接続にとどまらず、接続したネットワークの活用にまで踏み込んだものが多いのが特徴だ。

カンボジア----学校寄贈に合わせ地域ネットワーク構築

カンボジアのKDDIスクールに設置されたデジタルデバイド解消プロジェクトのための無線鉄塔

カンボジアにて、遠隔地の診療所とプノンペンの中央病院を結ぶプロジェクトで、診療所職員に指導を行う

カンボジアにおけるパイロットプロジェクトは、KDDI財団による学校寄贈と足並みをそろえ、寄贈した学校に整備したネットワークを地域で活用する形で行われている。2005年にプレアヴィヒア州でのKDDIスクールの建設に合わせ、学校をハブとした地域無線LANを構築したのが始まりである。

その翌年にモンドルキリ州に建設したKDDIスクールでは、VSAT衛星通信によりインターネットへのアクセスを可能にした。2007年には、テレコムカンボジア、プノンペン大学、シハヌーク病院、早稲田大学などが参加する「APT J3カンボジアプロジェクト」を実施した。プノンペンにあるテレコムカンボジアの通信タワーと、そこから22km離れたアンスヌール地区にあるKDDIスクールの間を無線で結び、この2カ所をハブとして、プノンペン側ではシハヌーク病院と王立プノンペン大学、学校側ではもう1校の学校と7カ所の診療所をWi-Fiで接続し、遠隔医療や遠隔教育システムを導入した。

2008年には、カンダール州の学校建設に合わせ、アンスヌール地区に太陽光発電機を増設している。KDDIスクールを建設する地域は商用電源がないことが多いが、ネットワーク機器の稼働には電力の調達が欠かせない。当初は発電機を設置していたが、燃料代が不足したり、発電機のメンテナンスができず、整備したネットワークが稼働できなくなってしまうという問題が出てきていた。持続可能なネットワークの実現のため、可能な地域では電源を太陽光発電に切り替えているのである。新しい学校では、最初から太陽光発電を導入している場合もあるし、発電機を導入した学校でも、発電機を売却してそのお金で太陽光発電装置に切り替えた例もある。

その後も学校寄贈に合わせたネットワーク整備とともに、以前のプロジェクトで構築したネットワークのメンテナンスを続けている。

マーシャル諸島----離島に衛星経由の携帯電話網を構築

太平洋に浮かぶ島国、マーシャル諸島共和国では、同国運輸・通信省、教育省、保健省、国家通信局などと連携し、2010年、2011年と続けて、首都のあるマジュロ環礁と、離島のメジット島の2カ所に通信ネットワークを構築した。このプロジェクトでは、衛星通信回線とフェムトセル基地局を応用したGSM携帯通信網を組み合わせ、メジット島からの音声通信、データ通信を行うパイロットネットワークを構築し、通信実験を行った。

フィリピン----ネットを利用した教育・啓発活動

フィリピン・ロンボク島での無線設備設置作業

2005年、「デジタルデバイド解消とICTセンター活用による離島の地場産業育成のための遠隔教育システムのパイロット構築」を実施。ADSLによるインターネット接続があるバンタヤン島の市庁舎をハブとして、KDDI研究所が開発した無線通信方式「CFO-SS」で、離島を含む6~7つのサイトからのインターネット接続を実現した。

「地場産業育成」とは、海の環境を守る漁法についての啓発活動である。当時、現地近海では海中でダイナマイトを爆発させて魚をとる「ダイナマイト漁法」が行われており、サンゴ礁の破壊や魚資源の枯渇が問題となっていた。インターネットを介してマニラやセブの大学と接続することで、島の漁民を対象とした環境教育と啓発を行った。

2010年に実施したプロジェクト「パソコンと周辺機器の寄付および情報共有化とビデオ会議機能の構築」では、市庁舎と島の間の無線接続を、CFO-SSから民生品の機器を使用したWiMAXに更新した。WiMAXなら、屋外など過酷な環境での運用実績がある機器が市販されており、接続のための調整も簡易であるため、2006年頃以降のネットワーク接続にはWiMAXが活用される例が多い。

ベトナム----水害情報や教育等にネットを利用

2006年に実施された「災害情報共有のための地理情報システムとWiMAXの実証実験」では、ハノイの北西50kmにあるフート省内でWiMAX接続を行った。フートはソンホン川の上流に位置し、雨季には水害が頻繁に発生するため、インターネットを利用して、ハノイからフートへ、雨の情報や川の水位の情報を送る情報伝達網を整備した。その後、2009年には、SNSを活用した人材育成学習と訓練システムの共同研究として、eラーニングシステムの導入を行っている。

さらに2010年には、視覚障がい者のためのICT活用のための共同研究として、ベトナム通信省、国家戦略研究所、盲人協会、早稲田大学などと協力して必要な機器やサービス、また政策や施策を検討した。日本で活用されている視覚障がい者用の音声読み上げソフトや点字ディスプレイを現地に持ち込んでの実証実験も行っている。

ブータン----ルーラル地域接続のパイロットプロジェクト

ブータンのポプジカ村で、現地政府・通信会社と協力してWi-Fi網を構築する

ブータンでは、国家プロジェクトとして、全土にブロードバンド網を敷設する目標が立てられており、光ケーブルによる基幹ネットワーク敷設が進められているが、ルーラル地域にまでは届いていない。そこで2011年に、首都ティンプーから車で10時間ほど離れた山村にWi-Fiネットワークを構築し、WiMAXで基幹ネットワークに接続した。また、今後ブータン全土のブロードバンド網構築に生かせるように、接続したネットワークの性能や特性について研究した。

ブータンの国土はヒマラヤ山脈の南麓にあり、ほとんどの道路が険しい山道である。時にはがけ崩れで車が通れず車中で夜を明かしたり、路面の岩にぶつかってガソリンタンクに穴が開いたところを石鹸とガムテープで応急措置をして最寄りの町まで走るといった困難があったという。

ミクロネシア連邦----離島のインターネット環境を改善

ミクロネシア通信省と共同で離島にインターネットを導入するプロジェクト関係者

島嶼国であるミクロネシア連邦では、主要な島を接続する衛星回線が既に構築されているが、離島やルーラルエリアのインターネット環境整備が課題となっていた。2009年のプロジェクトでは、ミクロネシア連邦交通通信インフラ省と共同で、3州・5カ所にテレコムセンターの構築を行った。約500km間隔に位置する3州を衛星回線で接続し、首都パリキールのあるポンペイ島でインターネットゲートウェイ回線に接続した。また、各島にファイルサーバーとキャッシュサーバーを追加設置し、インターネットのダウンロード速度を大きく改善した。同時に、最新のソフトウェアをセットアップした中古パソコンを現地の高校に寄贈している。

2013年度には、ヤップ島から船で片道1週間かかる離島にテレコムセンターとインターネット環境を構築するプロジェクトが進行中だ。

本来、距離や国境を越える力を持つ情報通信技術。とはいえ、まだまだ、その恩恵に与れない地域は多い。デジタルデバイドの解消に挑むこれらの活動は、世界全体の健全な発展に寄与してくれることだろう。

■伊藤泰彦KDDI財団理事長インタビュー

長期的な人間関係を築くのが国際貢献事業の役割

開発途上国におけるデジタルデバイドの解消は国際的に重要な課題となっています。KDDI財団は、通信事業者ならではの国際貢献として取り組んでいますが、それだけでは現地の人たちは食べていけません。それでは彼らの経済を良くするためには何が必要なのか。今すぐ必要なのは食糧ですが、国の将来を考えると知識が必要だということは彼ら自身も分かっています。そこでKDDI財団は、海外人材育成や留学生支援、カンボジアで学校を建てるプロジェクトなどにも取り組んできました。

学校を建てるのは簡単なのですが、難しいのは継続的なメンテナンスです。学校を建てて、インターネットの素晴らしい回線を引けば子どもたちは喜びます。でもそのうち、発電機を回すためのガソリンが買えない、通信費が支払えないとなってしまうこともあります。もう少し簡易な方法の方が、子どもも喜ぶし、我々も助かります。作るのが使命ではなく、持続可能な仕組みにすることが求められていますし、世界である程度利益を上げている企業は、そういう援助に取り組む義務があると思います。

カンボジアという国は、就学率は全国でも7割から8割、ルーラルエリアに行けば5割以下、1日の生活費は1~2ドルという地域もあります。都市部は急速に発展していて、アンコールワットのあるシェムリアップは3年で都市の規模が3倍になりましたが、わずか数十km離れた村は、今でも夜は街灯もなく真っ暗です。でも携帯電話は使え、一般家庭に電気が来ているわけではないので、村の中心に充電屋さんがあります。既存の技術が普及していないからこそ、新しいテクノロジーが爆発的に広まっています。現地に行けばそういう現状が見えてきます。

アフリカでの普及を見ると、アジアの開発途上国でも、次にはeマネーが生活の中に入ってくるでしょう。アフリカで広く普及しているM-PESA(携帯電話を利用した決済・送金システム)は、いずれ先進国に入ってきてもおかしくありません。現在、先進国では、国境を越えた金融取引には規制が入ることが多いのです。このように開発途上国の方が進んでいる例もあり、彼らから学ぶことはたくさんあります。援助ではなく、お互い得ることがある、ギブアンドテイクの考え方で協力しなくてはいけません。

別の例を挙げると、開発途上国では季節労働者が国境をまたいで移動しますから、通信も国と国をまたぐローミングサービスが重要になります。どのようなサービス体系が良いかは、アフリカやヨーロッパから学べるのではないでしょうか。日本のこれからのサービスを考えるには、海外から学ばなくては、また〝ガラパゴス"になることを心配しています。

今後は、長期的展望にもとづいた海外との関係を築きたいと考えていますし、それがKDDI財団の役割だと思っています。海外人材育成事業も留学生支援も小学校を建てる援助も、「人間関係を作る」、これに尽きます。そのためには、現地を見て、望まれる援助をすることが大事です。まずはアジアを対象に、人を送り、受け入れる事業を、継続的に行っていきたいと考えています。

インドのガンジーの言葉に、「木を育てるには10年後を見よ。10年後、木は育ち人々が憩える木陰を作る。人を育てるには30年後を見よ。30年後、彼らが国を支えているだろう」というものがあります。我々も継続が力なりと考えてやっています。おかげさまで、東南アジアやアフリカを訪れると、政府の上層部の方で「私もKDDIの研修で学んだことがある」とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。そういう言葉をいただくと、本当に役に立ったのだなという気がします。

文:板垣朝子

presented by KDDI