2014/03/19
MWC 2014レポート スマホからウエアラブル、自動車まで、モバイルの多様化が浮き彫りに
Mobile World Congress 2014が開催されたFira Gran Viaの会場入口。今年も多くの来場者でにぎわった
スペイン・バルセロナで2014年2月24日~27日に開催された、世界最大級の通信関連イベント「Mobile World Congress 2014(MWC 2014)」。世界各国から1800社以上の企業が出展し、代表的な企業のCEOなどによるカンファレンスが繰り広げられた。主催者のGSMAによれば、MWC 2014には前年比18%増となる8万5000人以上の来場者が詰めかけたという。
最新のスマートフォンはもちろん、話題のウエアラブル端末、それらを支えるネットワーク技術、さらにさまざまなアプリケーションまで、数多くの"今と未来"が一堂に会した。そのMWC 2014のトピックを紹介する。
フラッグシップ機のニューモデルが登場
MWC 2014の会期中に、スマートフォンのフラッグシップモデルを発表したのがソニーモバイルコミュニケーションズ(以下、ソニーモバイル)とサムスン電子だった。
ソニーモバイルコミュニケーションズのブースに並ぶ新製品。左から「Xperia Z2 Tablet」「Xperia Z2」「Xperia M2」
ソニーモバイルは、会期初日の朝一番に発表会を開催し、スマートフォンのフラッグシップモデル「Xperia Z2」と、新興国市場などをターゲットにした「Xperia M2」、タブレットの「Xperia Z2 Tablet」をお披露目した。
Xperia Z2はXperia Z1の後継モデルで、5.2インチとZ1よりも一回り大きなフルHDディスプレイを搭載。どこから見てもXperiaだと分かるデザインを踏襲し、Xperiaのブランドアイデンティティーが確立されたことを示していた。機能面ではカメラや音に特に注力してブラッシュアップを図っている。フルHDの4倍の画素を持つ4K動画の撮影、120フレーム/秒の高速度撮影によるスロー再生など、映像の新しい体験を提供。フロントステレオスピーカーによるバーチャルサラウンド再生や、スマートフォン初のデジタルノイズキャンセリング機能への対応も、ソニーグループならではの音へのこだわりを感じさせる。
Xperia Z2 Tabletは、防水防塵性能を備えた10.1インチタブレットとして世界最薄の約6.4mm、世界最軽量の426g(Wi-Fiモデル。LTE/3Gモデルは439g)を実現したフラッグシップタブレット。来場者は、実際にその薄さと軽さを手にして驚きの表情を見せていた。
「Galaxy S5」を発表するサムスン電子のJK・シン社長兼CEO
サムスン電子(以下、サムスン)は初日の夜にバルセロナ市内で発表会を開催し、Galaxy Sシリーズの最新版「Galaxy S5」を公開した。Galaxy S5は、5.1インチのフルHD SuperAMOLEDディスプレイと、2.5GHzのクアッドコアCPUを搭載するフラッグシップモデル。発表会で防水・防塵に対応したことをアナウンスすると会場が歓声に包まれたあたりが、日本とグローバルの違いを象徴する。0.3秒の高速オートフォーカスカメラ、LTEと2×2 MIMOに対応したWi-Fi(IEEE802.11ac)を同時に使う「ダウンロードブースター」、指紋センサーなど、新機能も盛りだくさんだ。
ウエアラブル端末との"合わせ技"で新体験を提供
ソニーモバイルは、ウエアラブル製品のバリエーションとして、リストバンド以外にペンダントなどの使い方も提案した
サムスン電子のリストバンド型端末「Gear Fit」にはディスプレイが用意され、スマートフォンと情報のやり取りが可能
しかし、Xperia Z2もGalaxy S5も、現在のモデルからの順当な進化という印象が強い。MWCの会場でも、新端末に群がる来場者の熱気が年々、落ち着いたものになってきているように感じた。そうした環境の中で、両社を含めた端末メーカーは、スマートフォンと連携して利用するウエアラブル端末を大々的にアピールしていた。
ソニーモバイルは1月に開催された家電の見本市「2015 International CES」で紹介したリストバンド型のスマートウエア商品「SmartBand SWR10」を正式に発表した。スマートフォン向けの「Lifelogアプリケーション」と併せて使うことで、歩数や移動などの行動と、音楽、写真、SNSなどの履歴を一括して振り返る生活記録を作れる。サムスンは腕時計型の「Gear 2」2モデルと、リストバンド型の「Gear Fit」を発表。スマートフォンと組み合わせてフィットネスのアプリケーションへと利用範囲を拡大する。MWC会場では、ファーウェイもリストバンド型の活動量計「TalkBand B1」を展示した。これは、ディスプレイ部分を外すとそのままBluetoothヘッドセットになり通話ができる。
先進市場ではスマートフォンの普及も一巡した2014年。端末単体の機能やスペックの向上だけでなく、こうしたウエアラブル端末との合わせ技で、新しいユーザー体験を提供する方向で各メーカーが模索していることが伝わってくる。
グローバルでは低価格スマートフォンに勢い
グローバル市場では日本と状況が異なる国々も多く、MWCでも新興国市場に向けた低価格端末の発表や展示に興味が集まっていた。中国メーカーなどが低価格端末を投入する中、老舗のノキアは新興国市場向けにAndroidをベースにした新端末「Nokia X」シリーズを発表、展示した。グーグルのアプリマーケットである「Google Play」を搭載せず、ノキアとマイクロソフトのサービスを中核に据えたのが特徴だ。価格は、4インチディスプレイを搭載した最も安価な「Nokia X」が89ユーロ、最上位の5インチディスプレイを搭載する「Nokia XL」が109ユーロを見込む。
スマートフォンの第3のOSともいわれるMozillaの「Firefox OS」も存在感を一層高めていた。MWC 2013で発表されたFirefox OSは、すでに世界15カ国で搭載端末が販売されており、2014年にはさらに提供先を増やす。新興国市場向けの端末から導入が始まったFirefox OS端末は、さらに低価格路線の拡大を目論んでいる。新しく発表したFirefox OS端末向けチップセット「SC6821」は、エンドユーザー向けの端末価格として25ドルという低価格を想定したもので、一層の未開拓市場に足を踏み入れることが可能になりそうだ。一方で、クアルコムのデュアルコアCPUを搭載する新製品も発表され、より高度で高速な処理を必要とする中級モデル以上への足がかりもつかんだかっこうだ。
ノキアが展示した新興国市場向けの「Nokia X」(左)、「Nokia XL」。ポップな色使いが目に新しい
Firefox OS搭載端末を多数展示したモジラのブースには、関心の高さを示して来場者が途切れることなく訪れていた
MWC 2014に先駆けたプレスイベントでは、楽天とリクルートホールディングスがFirefox OS向けのアプリを提供すると発表。日本ではKDDIが2014年度中にFirefox OS搭載端末の提供を予定しており、アプリやサービスを含めたエコシステム構築への準備が着々と進んでいることをうかがわせた。
自動車など新しいアプリが次世代のネットワークに影響
クアルコムのブースに展示された車載用OSを搭載した自動車。ディスプレイはまるでスマートフォンのように情報を表示する
エリクソンのブースに掲げられた5Gへの道のり。2020年、東京オリンピックの年の商用化を目指す
モバイルや通信関連のイベントなのに、MWC 2014では自動車の展示が目立った。これは、モバイルと自動車が急接近していることを示している。"コネクテッドカー"といわれる、ネットワークに常時接続した自動車の姿が現実に近づいてきているからだ。ナビゲーションやエンターテインメントはもちろん、安全という側面からもネットワークと常時やり取りして情報を入手する必要性が高まっている。例えば、スマートフォン向けのプロセッサーで名を知られるクアルコムのブースでは、同社のSnapdragonプロセッサーのソリューションとして、車載エレクトロニクス向けOS「QNX」を搭載したメルセデスベンツを展示。大型のディスプレイにさまざまな情報が表示される様子を紹介していた。
そうした状況の中で、通信方式については、現行のLTEの次の次の世代に当たる「5G」への取り組みのアピールもあった。エリクソンやノキア ソリューションズ&ネットワークス(NSN)が提示する5Gの要件には、データ通信速度の高速化を目指すだけでなく、遅延の低減、信頼性の向上、広いサービスエリアといった項目が含まれる。自動車などがネットワークを介して安全を確保するようになった時代に、「圏外」や「通信エラー」があってはならないからだ。ネットワークが高度化し、それを利用する端末やアプリケーションが登場するというこれまでの流れとは異なり、今後のネットワークの進展はアプリケーションと密な連携によってもたらされることをMWC 2014は示していた。
文・写真:岩元直久