2014/03/14

東日本大震災の教訓を生かせ 首都圏直下型地震を想定した模擬訓練を実施

東日本大震災から丸3年を迎えようとする3月8日、KDDIは、首都圏直下型地震を想定した模擬訓練を実施・公開した。全国から災害復旧に当たるスタッフや設備を集め、被災によって機能停止した携帯電話網や基幹通信網を復旧する訓練を行った。

au携帯電話網を復旧する車載型基地局

模擬訓練の会場となったのは、東京都有明の東京臨海広域防災公園(そなエリア東京)。訓練は、以下の想定の下で行われた。

・3月8日12時30分に東京湾北部を震源地とするM7.3の首都圏直下型地震が発生、東京23区を中心に多くの地域で震度7の揺れを観測。

・通信会社も基地局を中心に広範囲に被害を受け、携帯電話通信が利用できない状況で、KDDIは、政府、東京都から東京臨海広域防災公園、練馬区役所、品川区役所への通信確保要請を受け、また、中央自動車道に沿って設置されたKDDIの基幹伝送路(光ケーブル)の断線が発生。

ヘリコプターから降り立ち、全速力で予定地に駆けつける隊員たち

13時に開始された訓練は、まず、ヘリコプターで復旧要員が訓練会場に降り立つところから始まった。先発隊として、車載型基地局を設営可能かどうかを現地調査するのが、その任務だ。ヘリコプターから全速力で予定地に駆けつけた隊員たちは、場所の安全性、平坦性、さらに衛星通信に利用する南方向の見通しがあること等を確認し、KDDI災害対策本部に衛星携帯電話で報告。これを受けて、車載型基地局が出動した。

車載型基地局とは、携帯電話基地局に必要な設備一式を搭載した車両で、被災によって携帯電話基地局が機能停止した地域に乗り付け、エリア復旧を行う。携帯電話基地局無線装置と最大12mの高さのアンテナに加え、基地局へのアクセス回線(固定通信網)が断線していた場合にKDDI通信網との接続を確保する衛星通信装置、さらには停電時にも稼働するための発電機・電源装置を備えており、まさに1台でau携帯電話のエリアを復旧させることができる。

立ち上げを完了した車載型基地局

今回、車載型基地局を設営するのは3チーム。東京臨海広域防災公園を大阪/名古屋テクニカルセンター(TC)チームが担当、練馬区役所は仙台/多摩TCチーム、品川区役所は広島TCチームが担当する。TCは札幌から那覇まで全国13カ所にあり、KDDIの通信ネットワークの運用と品質管理を担当している。各TCでは、平常時から、災害時の出動に備えた訓練を行っている。

各チームは、車載型基地局とサポートカーで現地(会場内に設置された想定設置場所)に到着すると、速やかに設営作業を開始。基地局アンテナを屋根に設置するとともに、車内に設置された無線装置や発電機を稼働。同時に、屋根に設置した衛星通信用アンテナを稼働させて、災害対策本部に試験電波発生を要請したところで設営完了。到着から完了までは、各チーム20分前後だった。ただし実際の被災地では、設置場所の確保や車両の乗り入れ、衛星通信用アンテナの稼働などに、訓練時よりも時間がかかることが多いという。

車載型基地局の立ち上げでは、車両の屋根の上での作業もある。被災者が近づきすぎると危険なため、設置に先立って周囲に立ち入り禁止地域を設けたり、アンテナ設置前に車両をジャッキアップして強風等で車両が倒れないようにするなど、安全確保作業も行う必要がある。各作業において、チームのメンバー全員で声を出して内容を確認しながら、確実に作業を進めていた。

断線した光ケーブル復旧訓練を初めて公開

光ケーブル復旧に当たる、KDDIグループ会社の日本通信エンジニアリングサービス(J-TES)のチーム。道路パトロールカーが先導し、距離3km分の光ケーブルを搭載したユニック車とワゴン車が出動

人力でドラムから光ケーブルを引き出す

携帯電話のエリア復旧訓練と並行して、光ケーブルの復旧訓練も行われた。まず、道路パトロールカーが出動し、安全確保のために車線規制などを行う。こうして作業場所の安全を確認した後、復旧チームが距離3km分の光ケーブルを搭載したユニック車(クレーンを装備したトラック)とワゴン車で出動。復旧に当たるのは、KDDIのグループ会社で、陸上光ケーブルネットワークの運用・保守を行っている日本通信エンジニアリングサービス(J-TES)のチームだ。

現場に到着すると、光ケーブルの切断箇所を確認するとともに、人力でドラムから必要な長さの光ケーブルを引き出す。高速道路に併設された光ケーブルには、約1kmごとに接続ボックスが設けられている。復旧作業では、切断箇所を含む区間を新しい光ケーブルに置き換える。

まず、光ケーブルを切断して外被を剥くと、光ファイバーが4本収容された「テープ芯線」がいくつも現れる。このテープ芯線の被膜を剥き、アルコールで拭いてはじめて、光ファイバーが現れる。これを専用のカッターで垂直に切断し、接続機器にセットして、新しい光ケーブルの光ファイバーと熱で融着する。最後に、接続前に通しておいた被膜に熱を加えて止め、接続部を保護する。

光ファイバーは太さが0.25mm程度の極めて細いガラス線維で、非常に脆いことに加え、接続する際に中心がずれたり、角度がついたりすると、データの転送ができなくなってしまう。そのため、光ファイバーの融着は、専門のエンジニアが専用の機器を使って行う極めて繊細な作業だ。訓練では、テープ芯線1本分のみを接続したが、光ケーブル1本にはテープ芯線が50本(光ファイバー200本)収納されており、実際の復旧作業では、これをすべて接続しなければならず、大変時間のかかる作業となる。東日本大震災では延べ20kmに及ぶ断線が発生し、復旧には約1日を要したという。

光ケーブルを切断

光ケーブルの外被を剥くと、光ファイバーが4本収納された「テープ芯線」がいくつも現れる

光ファイバーを切断し、新しい光ケーブルの光ファイバーと熱で融着する

融着したケーブルを接続ボックスに収容し、復旧完了

このころ、携帯電話基地局復旧作業は、次のフェーズに進んでいた。東京臨海広域防災公園に可搬型基地局を設置し、設営されていた車載型基地局は台場区民センターに移動して基地局を立ち上げる。また、練馬区役所には移動電源車が投入された。可搬型基地局とは、ワゴン車やトラック、ヘリコプター等で運搬可能な携帯電話基地局で、無線機、アンテナ、電源装置および発電機がセットになっており、長期にわたって運用が必要な場所に設営することが想定されている。移動電源車は発電機を搭載した車両で、基地局としての機能は失っていないのに、停電のために停止した基地局を復旧するために利用される。小型で運搬が容易な可搬型基地局と大容量の車載型基地局が、状況に応じて展開される。



13時47分には、東京臨海広域防災公園から台場区民センターに移動した車載型基地局設営も完了し、訓練は終了した。

ワゴン車やトラック、ヘリコプター等で運搬可能な携帯電話基地局である「可搬型基地局」。無線機、アンテナ、電源装置および発電機がセットになっている

閉会式では、佐藤準一KDDI技術統括本部運用本部副本部長が以下のように訓練を総括した。

「3年前に実施した車載型基地局の立ち上げコンテストに比べると、皆さん、非常に手際よくやっていた。感覚的には半分くらいの時間で立ち上げができており、たいへん感心した。3年前の未曾有の大震災から、いろいろな対策を打ってきた。直近では、最近の大雪のときに、ここにいる皆さんの中にも活躍した人がいるだろう。大きな災害はもちろんだが、爆弾低気圧のような、地域の災害にもきめ細かくきっちりと対応して災害対策を行っていきたいと思っているので、ますますよろしくお願いしたい」

船上基地局設備をはじめ、災害対策用設備を展示

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、震災翌日時点で、東北6県で最大1,933のau携帯電話基地局が機能停止した。地震発生2時間後には、復旧のために全国のTCからスタッフが東北に向けて出動している。訓練中のアナウンスによれば、最初に車載型基地局を立ち上げたのは、避難所になっていた宮城県の岩沼小学校。震災発生1.5日後の13日の深夜3時30分に金沢TCが設営したものだ。このようなKDDIグループを挙げた復旧作業により、停止した基地局は、同年3月末時点で231局にまで復旧、4月末には地震発生前とほぼ同等のエリアをカバーし、6月末には発生前とほぼ同等のエリア・品質を回復した。

また、光ファイバーによるKDDIの基幹ネットワークにおいても、東北への中継ルートが一部寸断し、通信が困難な状況になったが、地震発生翌日には迂回ルートを構築、2日後には被災ケーブルの修復も終えて正規運用状態に戻している。

なお、KDDIは、通信網の復旧に加えて、被災地での支援活動として、携帯電話充電サービス、au携帯電話無料貸し出しや、自治体や自衛隊等へのイリジウム衛星携帯電話無料貸し出しなども行っている。

KDDIは、東日本大震災での教訓を受けて、災害対策を進め、現在は車載型基地局20台、可搬型基地局27台を全国の全拠点に分散配備しているほか、災害時に向けたさまざまな設備を導入しており、その一部が、訓練会場でも展示されていた。主な展示内容を紹介しよう。

車載型地球局 ビッグシェル

車載型中継局 レピータ号

■車載型地球局 ビッグシェル
衛星通信を利用して、映像の送受信を行う車両。固定通信網や電力が遮断された場所でも利用できる。「緊急通行車両」に指定されており、大規模災害発生時には、被災地の状況を国内外へ伝える役割を果たす。阪神・淡路大震災や東日本大震災時にも、被災地からの映像の送受信を担った。災害時以外にも、スポーツイベントや屋外コンサートのTV中継などで活躍している。

■車載型中継局 レピータ号
携帯電話の電波を中継する車両。通常の車載型基地局がau携帯電話のエリアを単独で構築するのに対して、レピータ号は、携帯電話の電波を中継することで、機能している基地局のエリアを拡大する。

■レーザー通信トランシーバー(キヤノビーム)
レーザーで拠点間通信を行うシステム。2km離れた地点間で100Mbps、1kmで1Gbpsの通信が可能。電波を使用しないため、免許不要で利用できるのが最大の利点。全国各地のイベントで臨時のデータ通信経路として利用しているほか、音声通信に利用するフィールドトライアルも実施している。大災害発生時には、携帯電話基地局への固定通信網が損傷した場所の迂回通信路としての利用が見込まれている。

■船上基地局
被災により道路が寸断されて陸からはアプローチできない地域に携帯電話エリアを復旧する方法として、総務省、海上保安庁等と協力して船舶(巡視船)に携帯電話基地局を搭載する実証試験を実施している。訓練当日は、船舶に搭載する基地局設備を展示。機器の構成は車載型基地局とほぼ同じだが、船上基地局で特徴的なのが衛星通信用アンテナ。船が大きく傾いても、誤差±0.2度以内で衛星を捉え続ける自動追尾機能を持っている。衛星通信を利用して船上でWi-Fiを提供するシステムは既に利用され始めているが、船上に携帯電話基地局を設置することは現在の法制度では認められていないため、総務省との間で実用化に向けた調整が進められている。

■災害用備品
イリジウム衛星携帯電話や、衛星を使った高速データ通信を可能にするインマルサットBGAN、大災害発生時には誰でも使えるように開放されるau Wi-Fi SPOTなど、災害時に役立つ通信機器の展示を行ったほか、備蓄品紹介コーナーでは、災害時の非常食として、「ほかほかごはんづくり体験」のほか、保存パン、ようかん、クラッカーの試食コーナーも設けられていた。なお、KDDIの都内事業所では、都条例に基づいて社員数の3日分の水、食料および防寒シートを準備しているほか、東西日本に分散して、200名が1週間生活できる水、食料品等を備蓄している。

レーザーで2点間を結ぶキヤノビーム(右)

海から携帯電話エリアを復旧する船上基地局の衛星通信アンテナ

インマルサット衛星携帯電話(左)とイリジウム衛星携帯電話

au Wi-Fi SPOTのアクセスポイント。大規模災害発生時には無料開放される

今回の訓練は、KDDIグループの社員とその家族が、KDDIの災害に対する取り組みや通信サービス復旧要員の責務を知るための見学会も兼ねており、多くの社員と家族が訪れていたが、日頃、目にすることの少ない災害用設備について、熱心に質問したり、写真を撮る人も多かった。このように、災害時の対応方法を広く共有することで、より的確な災害対策と復旧に資することができるのではないだろうか。

文:板垣朝子 撮影:斉藤美春

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