2014/02/28

au未来研究所が目指すもの リアルとバーチャルを行き来しながら「コミュニケーションの未来」を探る

スティーブンスティーブンのクリエイティブディレクター 古田彰一氏(右)と、博報堂DYメディアパートナーズ 須之内元也氏

「KDDIが運営する研究所で爆発事故が発生。極秘プロジェクトとして進められていた研究内容が強奪される事件が起きた」――そう報じたメディアもあった、au未来研究所の開設。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』や『東のエデン』などの作品で知られる神山健治監督の短編アニメーション作品「もうひとつの未来を。」がサイト内で公開され、話題となっているこの研究所は、KDDI研究所の付帯組織として位置付けられているという。この企画の背景を、制作を担当しているスティーブンスティーブンのクリエイティブディレクター 古田彰一氏と、博報堂DYメディアパートナーズ 須之内元也氏にうかがった。

通信キャリアは未来を向いているか?

「通信キャリアのビジネスがコモディティ化している中、auを選んでいただくための『あと一押し』になるような、ブランドとお客さまとの距離感、関係を作りたい」――au未来研究所の始まりは、KDDIの思いだった。

「KDDIからの説明を受けて、auのターゲットを分析したところ、アニメファンと親和性が高いという結果が出ました。アニメはネットと親和性、融和性が高いクリエイティブですから、今回の“ネットでお客さまとの関係を作る”という課題にはまさにぴったりだと思いました」と、古田氏は「アニメ」を中核とした企画の意図を語る。

未来をテーマに据えることは当初から意識していた。その背景には、「今の携帯キャリアは激しい競争の中で、『今の問題をどう解決するか』という視点に陥りがちではないか」という問題意識があった。「緊急度と重要度の2軸で4象限に仕事を分類したとき、人はどうしても重要で緊急の仕事ばかりやってしまいますけれど、一番大事なのは、緊急度が高くなくても重要な仕事だとよくいわれます。これと同じで、緊急度は高くないけれど、お客さまとKDDIが発展していく上で重要なテーマに取り組むのが大事なのではないか。“今、つながりやすさを向上すること”“今、価格をもっとフレンドリーにすること”、それももちろん大切なことですが、そこから目線を上げて未来の話をすれば、もっと大きくわくわくした話ができるのではないかと考えたのです」(古田氏)。

アニメ制作チームには、まさに今回のテーマである「未来のコミュニケーション」をテーマにした作品を手掛けてきた神山健治監督とプロダクションI.Gという最強の布陣を構え、「au未来研究所」のプロジェクトはスタートした。

本気で嘘をつくから本気で楽しめる

「KDDI研究所の付帯組織」として誕生したau未来研究所。神山監督のアニメーションには実在する建物が登場し、研究所員としてKDDI研究所に在籍する研究員が参加している。

KDDIの一組織として位置付けたのは、バーチャルなものであるほど本気で嘘をつかないと楽しめるものにならないという考え方による。「プロモーションのためにバーチャルな組織を作りました、では、ただのWeb上にある小さなキャンペーンになってしまいます。KDDI研究所という現実に存在する組織に接続することで、お客さんもバーチャルな世界を本気で楽しめます」(古田氏)。コミュニケーションの未来を考える研究所に、ユーザーも研究所員として参加するという設定で、「リアルとバーチャルを行き来して楽しめる空間」を演出する。

そのために重要な役割を果たしているのがウェブサイトだ。ここから先は少々ネタバレを含むので、まだau未来研究所にアクセスしたことがない方はぜひ一度、できれば二度ログインしてから続きに進んでほしい。

アニメと現実世界のブリッジを表現するサイト設計

au未来研究所サイトのトップページ

トップページにアクセスしたとき表示される建物や研究室の写真は、実際にKDDI研究所で撮影されたもの。「アニメの世界とリアルのブリッジを作るように設計しました。サイトのナビゲーションはあえて説明を少なくして、サイトに来ている人が自発的に情報を探したくなるようにしています」と須之内氏はその意図を語る。

研究所員に支給される「デスクトップ」

ナビゲーター役のキャラクター「フュート」

FacebookかTwitterを使ってログインすると、「研究所員」としてau未来研究所に参加したことになり、「デスクトップ」が支給される。コンテンツへのアクセスはすべてこのデスクトップを操作して行うのも、「研究所員として活動している」ことを実感させるための仕掛けだ。最初のログインで爆発事故が発生してほとんどのコンテンツにアクセスできなくなり、二度目のログインで復旧するという演出がされているのも、よりau未来研究所に没入してもらうため。「アニメに没入するためにサイトは何をできるか、アニメを見た後にサイトは何ができるかをシミュレーションして設計しています」と須之内氏は語る。

そこで課題となったのが没入感と使いやすさのバランスだ。作り込みに凝れば凝るほどコンテンツへのアクセスは「面倒」になってしまう。ここで意識したのが、今回のコンテンツの中核が「アニメ」であることだった。「アニメは非常に引きが強いコンテンツで、見たい人のエネルギーは強い。普通のサイトならちょっと面倒かな? と思うようなことでも、アニメファンならクリアしてくれるだろうという計算はしました。そのことで、より深い没入体験を提供することが可能になりました」(須之内氏)。

au未来研究所の調査対象である「未来ニュース」のひとつ、「“耳栓式”スマートフォン」

デスクトップというメタファーには、「未来の研究所員の体験」をそのまま提示したいという意図もあったと須之内氏は語る。未来の研究者は、今でいうノマド的にあらゆる場所から研究所にアクセスしている一方、ほかの多くの研究員もデスクトップを通してアクセスして一緒に研究をしているということを、チャットやメールなどのコンテンツで表現した。よく読むと、アニメのストーリーのヒントにつながるような内容も含まれている。

研究員としてコミュニケーションの未来を一緒に考え、自分のこととして活動してくれる人を仲間として集めたい。だから、ただ数を集めるのではなく、参加意識の強い人をキャッチするように、アニメのテーマもサイトの作り方も考えている。「とはいえ、入口であまりに面倒だと思われると没入する前にユーザーは離れてしまうので、そこはバランスが問われます。須之内さんには『あまり難しくしすぎないで』ということはずっと言っていましたね」(古田氏)。

未来を感じさせる仕掛けは、アニメ以外のコンテンツにもちりばめられている。「未来ニュース」では、未来ケータイを通して垣間見える未来として、「2019年のニュース」を発信している。ニュースには銀のさらやドミノピザなどいくつか実在する企業が登場するが、これらの企業は「5年先の未来を考える」というコンセプトに賛同してくれた企業だ。「やってみて分かったのですが、普段我々は未来のことを考えて生活しているわけではありませんので、『コミュニケーションの未来を想像して』といきなり言われても難しい。未来ニュースは、5年後、2019年を描くコンテンツで、想像力をふくらませるきっかけを提供しています」(須之内氏)。

「どうでもいいこと」の緻密な作り込みが作品の奥行きを生む

実際のKDDI研究所をモデルにした“au未来研究所”の外観

アニメ「もうひとつの未来を。」の中に登場するau未来研究所は、神山監督のチームがKDDI研究所をロケハンして、そこに監督自身のリアリティのある想像力で作りこんだものだ。室内にある重要な設備や装置はディテールを描いているが、その外側の空間はいかにも急造の、本来は別の用途の部屋のように見える。建物の外観などは実在するものをモデルにしているので、「KDDI研究所のどこかに、この部屋は実在するのかも」と、想像力をかきたてる。

神山監督は、コミュニケーションの未来に挑まなければ、KDDIがアニメを作る意味はないと考えていたという。「監督の意向としては、ケータイ、スマートフォン、デバイスの話にしたくない、というのはありました。とはいっても今回は"数年後"の未来の話なので、まだみんなスマートフォンを持って、ウエアラブル端末を活用しているのではないかという段階。その中で、デバイスの話に落とし込まず、限られた時間の中でコミュニケーションの未来を描くのに苦労していました」と古田氏は語る。

登場人物のキャラクター開発には、映画であれば半年かけるところだが、今回は2週間という短期間での開発になった。古田氏がプロダクションI.Gに打ち合わせに赴き、その場で決めていったという。「集団で会話するときの目配せの仕方にまで、そのキャラクターの過去が反映されるほどリアリティがある人物造形が神山アニメの特徴です。キャラクターの味付けはいわばアニメ作りの“秘伝のたれ”ですから、一緒にやるのは面白かったですよ」(古田氏)。

アニメ「もうひとつの未来を。」主人公の城戸大助と水絵ゆう

また、アニメでは細かいところの作り込みを徹底すると同時に、「伝わらなくてもいいもの」もたくさん埋め込んでいる。一例を挙げると、主人公の名前「城戸大助」は「KDDI好き」を早口で言ったときの発音、ヒロインの名前「水絵ゆう」は「ミスau」にかけているといった言葉遊びだ。「別に見つけてくれなくてもアニメは楽しめますが、誰かが見つけてくれれば、もっとあるかも、と探してくれるかもしれません。伝わらなくてもいいものをたくさん入れていくことで、作品に奥行が出るのではないかと思います」(古田氏)。第2部以降もさまざまな仕掛けがあるようなので、楽しみにしたい。

音楽には菅野祐悟氏を起用。2014年NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」の音楽を担当するなど、今まさにノっている作曲家だ。画質も音声も劇場上映が可能なクオリティで制作されているということなので、いつか劇場上映の機会があればと期待したくなる。

研究成果をリアルな形に

au未来研究所の研究テーマとしてリアルに活動しているのが、オープンラボラトリーの「未来のケータイコンテスト」である。参加している研究所員から寄せられたアイデアを選び、プロダクションI.Gのアニメーターがイラスト化する。400件弱のアイデアが寄せられ、一次選考に残った20点がイラスト化された。

「アニメーターによるコンセプトのイラスト化」という企画は珍しい。「アニメーターは単に絵が上手なだけではなく、動きの中で切り取った一枚絵を描く訓練を受けています。彼らがテーマを消化してイラスト化することで、実際にそのケータイが未来の生活の中でどのように活躍しているのか、それが利用されている空間や前後の時間がリアルに実感できるものができます。そこがふだんからアニメを描いているアニメーターの強みです」(古田氏)。

1月10日にはイラスト化されたアイデアの中から「自販機で買えるケータイ」「自分の潜在意識とコミュニケーションできるケータイ」の2点を優秀アイデアとして選定した。「自販機で買えるケータイ」は、近未来に実現できそうなアイデアとしてKDDI研究所が選定し、モックアップとコンセプトムービーが制作され2月17日に公開された。「潜在意識とコミュニケーションできるケータイ」は神山監督とスティーブンスティーブンが選定したアイデアだ。「自分が知らないところで自分をコントロールしている潜在意識とコミュニケーションできれば、本当の自分が分かる。だから、他人とコミュニケーションする前に自分とコミュニケーションすることができれば、自分を幸せにできるだろう。今の技術で実現するのは難しいけれど、人が幸せになれるケータイを、という気持ちで選びました」(古田氏)。こちらは、神山監督監修の下に作成した未来の利用シーンのイメージボードが、こちらも2月17日から公開中だ。

人を幸せにするコミュニケーションを作るのがKDDIの役割

2月28日に第2部、そして3月には第3部が公開され、城戸大助を主人公とした「もうひとつの未来を。」のストーリーは完結する。「コミュニケーションの未来という大きなテーマは、7分×3本で扱うのは大きすぎます。でも作品としては、最後は見事な、これしかないなあという終わり方だと思います」と古田氏は語る。

作品はまもなく完結するが、そのテーマであるコミュニケーションの未来は、現実にはどうなっていくのだろうか。「今はコミュニケーションを、そのひとつ前の段階で解決しようとしているように感じています。電波を通して携帯がつながるとか、SNSで人とつながるとか、“つながる”ところまでは解決しましたけれど、それで人が幸せになっているかといえば、SNS疲れという言葉からも分かるように、決してなっていません。じゃあ、どんなコミュニケーションを構築していけばみんなが幸せになれるのか。それを考えるのが、KDDIというコミュニケーションカンパニーの役割ではないでしょうか」(古田氏)。

一朝一夕には答えがでない問題だから、みんなで考えればいい。集合知を使って考えていくことを、活動としてこれからも継続できればいい。それが「au未来研究所」という新しいチャレンジが目指すゴールなのかもしれない。

文:板垣朝子 撮影:高橋正典

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