2014/02/21

オンライン学習塾・アオイゼミと共同でネットで学べるケータイ教室を開催

KDDIは社会貢献活動の一環として、小学生から高校生までを対象として、全国の学校に講師を派遣して、携帯電話やインターネットを利用するルールやマナー、リスクなどを啓発する「KDDIケータイ教室」を開催している。1月31日、KDDIは、動画配信を利用した学習サービスを展開するアオイゼミと共同で、中学生向けケータイ教室の特別授業を初めてインターネットでライブ配信した。その狙いをアオイゼミ代表取締役塾長の石井貴基氏と今回の講師を担当したKDDIの葛西直美に聞いた。

サービスのプラットフォームでもある「スマートフォン」教育の必要性

アオイゼミのスマートフォンアプリの画面イメージ。授業の動画とともに、受講生からのコメントが表示される

アオイゼミは、中学生を対象とした、いわばオンライン学習塾だ。英語・数学・理科・社会の授業を、インターネットで無料ライブ配信している。配信中に受講生からの質問や感想を受け付ける双方向の授業が好評で、2013年7月からの半年間で受講生の数は10倍に急成長している。

石井氏がこの事業を立ち上げたのは、前職で生命保険会社のファイナンシャルプランナーとして、北海道で家計コンサルティングを行っていた時の経験が基になっている。「家計の悩みを聞くと、教育費負担が重い、塾に行かせるのが辛いとおっしゃる保護者の方がとても多い。その時に感じた、"日本全国のご家庭に、インターネットを使って、安く授業を届けたい"という思いが原点になっています」(石井氏)。授業はパソコンだけでなく、スマートフォンのアプリでも配信しており、多数の受講生が利用している。

アオイゼミ 代表取締役塾長 石井貴基氏

またアオイゼミは、インターネットサービスを開発するスタートアップ企業やエンジニアを対象としたインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」第5期生として、受講生同士が利用できるSNSの開発に取り組んでいる。双方向の授業を行うことで、コミュニケーションが学習に良い影響をもたらすことを実感しており、現在の「講師と受講生との双方向コミュニケーション」から一歩進んで、受講生が実際の教室にいるように、友人同士で教え合い、コミュニケーションする場を用意することを目的としている。「アオイゼミのSNSなら安心できる、と保護者の方も安心していただけるようなものを作りたいと考えています」(石井氏)。

とはいえ、中学生の保護者は、SNSを通した出会い系サイトへのアクセスやゲームへの高額課金など、スマートフォンの利用に不安を感じている。アオイゼミにとってはサービスのプラットフォームでもあるスマートフォンを安全に利用してもらうための啓発活動も課題だ。「KDDIが社会貢献活動の一環として、子ども向けのケータイ教室を実施していることは知っていましたので、中学生向けの特別授業をお願いできないか、KDDI ∞ Laboのメンターを通してお願いしました」(石井氏)。

8年間のケータイ教室で初めての「インターネット授業」

今回の講師を担当したKDDI葛西直美

「KDDIケータイ教室」は、社会貢献の一環として2006年から行われている。社員ボランティアを中心とした200名の講師が、要望に応じて全国の小中高校に赴いて授業を行う。中高生へのスマートフォンの普及に応じて内容も変わっており、最近ではSNSやインターネット全般の使い方まで取り上げている。今回の講師を担当した葛西は、講師登録から5年目のベテラン。「普段の仕事では、子どもたちと接することはありません。KDDIケータイ教室という取り組みは、未来を担う、多くの子どもたちとの接点となる貴重な機会だと思い、講師登録をしました」とその動機を語る。

多忙な業務の合間を縫って、年に3~4回の授業を担当する。「行くたびに感動するのは、子どもたちが皆、私の顔を見ながら話を聞いてくれて、終わったら『先生、ありがとうございました』と元気にあいさつしてくれること。私のことは覚えていなくても、KDDIの人にこんな話を聞いたと家族に話してくれたり、歩きながらスマホをしそうになったときに『今日、KDDIの人に危ないって言われたな』と思いだしてポケットにしまってくれればいいと思います。こういう活動を長く継続することが、通信キャリアとして社会の役に立っているのだと感じます」(葛西)と、手応えを感じている。

普段の教室は、学校の体育館や多目的ルームで数百名の生徒たちを目の前にして行うことが多く、インターネットのライブ配信でケータイ教室を実施するのはKDDIにとっては初めての試みだ。葛西は、「アオイゼミのことは今回のお話をいただくまで知らなかったのですが、インターネットですべての子どもに授業を届けるという理念を聞いて、とても共感できました。特別授業として場を作っていただき、KDDIとしても他がやっていない初めての試みなので、新しい価値を生み出し、社会貢献が出来そうと思い、お引き受けしました」とその意気込みを語った。

「学校では教えてくれないけど必要なこと」という感想も

アオイゼミのスタジオで本番開始。授業の様子はリアルタイムで配信される

授業が行われたのは1月31日19時から。普段は講師が1人でカメラの前に立つアオイゼミのスタジオに、葛西と石井氏が並んで立った。授業は葛西が行うが、リアルタイムで寄せられる受講生の質問を石井氏が読み上げ、内容に反映する。普段からアオイゼミでは、「君が分からないことは他の人も分からないかもしれないから、積極的に質問してください」と受講生に呼びかけており、1つの授業で800~900件のコメントが寄せられる。教える葛西からは、「ライブ配信で、リアルタイムで直接コメントが入るので、どんなことを書いてくれるかとても楽しみにしています」と、緊張しながらもわくわくしている様子が伝わってきた。

都内のマンションの一室をスタジオとして利用。ここから授業が配信される

リアルタイムで寄せられる受講生からのコメントは講師に伝えられ、授業内で読み上げられることも

授業のタイトルは「知らなきゃヤバい?! スマホの良いこと、悪いこと」。アオイゼミの公式サイトだけではなく、ニコニコ生放送でも放送されており、授業の合間にはニコ生アンケートも挟まれる。アオイゼミは中学生の受講生が視聴しているが、ニコニコ生放送の視聴者には社会人も多いようだ。石井氏がそれぞれの受講者に手慣れた様子で呼びかけながら、授業は進められていく。「コメントを読み上げられるのは、昔のラジオ番組で、投稿はがきが読み上げられるような面白さがあるのかもしれません。それがまた、ここにしかいない塾の友だちと、みんなで一緒に勉強している気持ちを盛り上げているのかもしれませんね」(石井氏)。

取り上げたテーマは「ついうっかりが怖い! ソーシャルゲームに潜む高額課金の罠」「まさかこんなことになるなんて.........インターネットで出会う危険」「知らないうちに大炎上! 人生崩壊の危機」の3本である。いずれも、アプリ内でお金を使ってアイテムを買ったことがあるか、知らない人とSNSやチャットで会話したことがあるか、自分や身の回りの人がブログやSNSの炎上にあったのを見たことがあるか、といった質問から始まり、実際にあったトラブルの実例紹介、どうすればいいか、という順に話を進めていく。最後は、KDDIが制作した、家族まで巻き込んだブログ炎上とその対応を紹介する動画を配信。もちろん内容はフィクションなのだが、「お父さんが指示する火消し対策が的確すぎる」と、ニコ生視聴者からも感心する声が出るほどの出来映えだった。

ニコニコ生放送での反応もリアルタイムでチェック

照明や配線など、随所にスタートアップらしい手作り感があふれるスタジオ

最後の質問タイムでは、「迷惑メールはなぜ来るのか」「チェーンメールが来たときはどうすればいいのか」「困ったときに相談する窓口はないのか」といった具体的な質問が次々に寄せられ、受講生の関心の高さがうかがえた。1時間の予定が足りなくなり10分延長した授業終了後のアンケートでは、55.8%が「とても楽しかった」、26.6%が「楽しかった」と回答。「とても役に立った」「学校では教えてくれないけれど必要なこと」「このような授業は定期的にやるべき」といった感想が寄せられた。最終的にアオイゼミ公式サイトでの受講生は650人、ニコニコ生放送の来場者は1000人を超えた。普段の授業ではそれぞれ1500人程度なので、受験シーズンと重なったこの時期としては、大反響だったといってよいだろう。

2012年11月に実施された内閣府の調査「青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、中学生のスマートフォン保有率は25.3%で、前年の5倍近くになっていたという。2013年の調査結果はまだ発表されていないが、「体感ではスマートフォン保有率はおそらく40%を超えています。保護者はスマートフォンを持たせたくない、けど子どもはLINEをしたいというので、iPod touchやタブレットを持っている子もいますから、それも加えるとおよそ6割ぐらいはスマートデバイスを持っているのではないかと感じています」と石井氏は語る。ますますスマートフォンが中学生にとって身近になる中、その安全・安心な使い方を教える必要性は高くなっていくだろう。

「アオイゼミ単独で実施するよりも、通信事業者であるKDDIと一緒に行う方が、説得力も信頼性も増すと思います。ぜひこれからも一緒に取り組んでいければと思います」と石井氏は振り返る。KDDIのCSR活動にとっても、オンラインのケータイ教室という新しい挑戦はひとまず成功したといえそうだ。

文:板垣朝子 撮影:斉藤美春

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