2013/10/11

「お醤油貸して」のコミュニケーションをウェブで復活させる クラシファイド広告サービス『ジモティー』の可能性

欧米では大きな市場を持つ「クラシファイド広告サイト」の、日本でのさきがけとして注目されているのが、「ジモティー」だ。同社は、有望なベンチャー企業への支援を行うためにKDDIが出資したコーポレート・ベンチャー・ファンド「KDDI Open Innovation Fund」より出資を受けており、「auスマートパス」にアプリケーション提供も開始している。同社の加藤貴博CEOに、ジモティーの現状と目指すものについてお話をうかがった。

日本で2000万ユーザーのポテンシャルがあるクラシファイド広告

――「ジモティー」はどういったサービスを提供しておられるのでしょうか。

「売ります・あげます」から「アルバイト募集」「メンバー募集」「イベント告知」「サービスの案内」まで、さまざまなジャンルの広告を無料で掲載できるサービスです。海外では「クラシファイド広告」と呼ばれています。

――クラシファイド広告という言葉にあまりなじみがない方も多いと思うのですが、どのようなものなのかを教えてください。

日本語ではよく「三行広告」と解釈されていますが、広告の中でも、シンプルで、かつエリアとカテゴリー別に分類(クラシファイ)されており、無料で利用できる、というのが特徴です。インターネットのサービスとしては、アメリカのCraigslists(http://www.craigslist.org/about/sites)というサービスをはじめとしてグローバルな巨大サイトが複数あり、アメリカだけではなくさまざまな国で利用されています。

――無料で利用できる、ということは、これらのサイトはどのように収益を上げられているのでしょうか?

サイトによってさまざまですが、多くのサイトはジモティーと共通していて、基本は広告モデルです。目立たせたい広告を一覧で上位表示したり、背景色を変えたり太文字を使って目立たせるハイライト広告のオプションに課金しています。

――市場の規模はどのくらいなのでしょうか。

大事なのは売り上げや収益ではなく、「どのくらいのユーザーに使っていただけるか」という規模感だと思っています。Craigslistsは、アメリカの人口が3億人強に対して6000万人のユーザーですから、20%の利用率があります。イギリスの類似サービスは6000万人のうち800万人強ですから、およそ13%。そうしたことから考えて、人口に対して13~20%程度に利用されるポテンシャルはある、日本でいえば2000万人程度には使っていただけるインフラになるのではないでしょうか。

日本にも以前からクラシファイド広告の考え方はあって、2000年頃にはリクルートの「じゃマール」というクラシファイド広告雑誌やウェブサービスがありましたが、2001年になくなりました。アメリカのように新聞や雑誌が大々的に紙面を割いているわけではなく、ウェブでも使いやすいサービスが今までは少なかったということはあります。ジモティーは、そのニーズをくみ上げる、大衆のインフラ的に使ってもらえるサイトだと思っています。

「直接会って」取引が基本。近所の人にあげたいというニーズも

――ジモティーが、どのように利用されているのか教えてください。

月間100万ユーザーが訪問しています。DB連動も含めて、月400万件のトランザクションがあります。DB連動というのは、賃貸物件やアルバイト情報などを中心に、既存の事業者から情報をご提供いただいているものです。クラシファイド広告のポータルとして、ジモティーから先方に利用者を送るというメリットがあります。

ライバルはどこですか、とよく聞かれるのですが、クラシファイド広告サイトとして同規模のサイトは日本には今のところありません。ECサイトやフリーマーケット専門サイトと比較されることもありますが、提供している価値が本質的に違います。ジモティーは「地域」で取引するためのサイトなので、直接会って取引してもらうのが基本です。なので、決済機能の提供や配送についてのアドバイスなどはしません。

こうした特徴が利用されるカテゴリーにも表われています。利用が多いカテゴリーはPC版ウェブサイトの左上に集中していまして、「売ります、あげます」の不用品家具・家電のカテゴリーや、ペットの里親募集など、直接会わないと取引できないものが人気です。逆に、フリーマーケットなどで人気のあるブランド品やバッグなどはあまり取引されていません。

机、ベッド、冷蔵庫といったものを処分するときに使われるケースが多いです。たとえば、ソファーあげます、というのはとても多いですね。3万円で買ったソファーを捨てるのに、自治体の粗大ごみに出すと1万円かかるといわれたら、それならただで誰かに使ってもらおう、という人は多いです。掲載すると1時間でものすごい量の問い合わせが来るので、誰に決めたらいいか分からないという相談をいただくこともあります。不要な家具家電を格安で探しているユーザーが多く利用されているので、モノが足りないんです。

リピートユーザーの比率が高くて、月10回以上訪問されるヘビーユーザーが多いです。一度利用されると、「こんな値段でこれが手に入るの?」と驚かれて、欲しいものが増えたり、今度は自分の不要なものを投稿されたりという感じです。

家具家電と並んでご利用が多いのが子ども用品で、チャイルドシートやおもちゃや子ども服など、1年、半年のサイクルでサイズアウトするものを投稿いただいています。Facebookの友だちや保育園のママ友に聞いて欲しい人がみつかればいいけれど、不要になったタイミングで欲しいと言ってくれる人はなかなか見つからない。近所の人で、タイミングよく欲しいといってくれる人にあげるために、便利だという声はいただきます。

これまでネットでの取引をしてこなかった層にも広がる

40代、50代のユーザーさんが多いです。60代以上の方もかなりいらっしゃいます。主婦や定年退職後の男性は、地域で過ごす時間が長いということと、サービスが簡単なので利用しやすいということがあります。オークションサイトは難しすぎてよく分からなかったけれど、ジモティーなら使えるという方がかなりいらっしゃいます。

ジモティーの投稿画面。とてもシンプルに投稿できるので初心者にも分かりやすい

もらう側は学生や若い方も結構いますが、比率としてはやはり50代、60代の方が多いと思います。これまで、インターネットの取引サイトの利用者からはこぼれていた層なのだと思います。

――直接会っての取引を不安に思われる方もいらっしゃるとおもうのですが、その点についてはどのようなケアをされているのでしょうか。

「はじめて会う時の注意点」として、「最初はできるだけ人目のある場所で会いましょう」といった注意点を啓蒙する記事は作っていますが、実際にサイトでアンケートをとってみると、6割の方は知らない人と会って取引するのに不安を特に感じないという結果になりました。平気な人は想像以上に多かったです。また、実際に一度取引してみると、あっさり終わるんだなと実感されます。会って、お金と交換して、5秒で終わりますから。

逆に、対面だからこそ、「あげてよかった」と実感できるということはあるとおもいます。私がジモティーを使って自宅の電子ピアノを処分した時のことなのですが、お父さんと娘さんがバンに乗ってうちまで取りに来てくださいました。娘さんがその場で弾き始めそうなぐらいうれしそうで、目の前で、自分が使わなくなったものを喜んでくれているのを見ると、取引して良かったなと思います。

――会員登録するときに本人確認はしているのでしょうか。

会員登録と投稿はメールアドレスだけでできますが、投稿内容のうち、過去の傾向からトラブルになりやすい商品については、事前に投稿内容を確認の上、公的な身分証明書の提出をお願いする場合があります。チェックは、ある程度商品カテゴリーで絞り込んでから、人力でチェックしています。

また、連絡先の掲載については、携帯電話番号はSMS認証してから開示する、メールアドレスは直接開示せず取引ごとに発行する「代理メールアドレス」を通して連絡を取り合っていただくといった仕組みを用意しています。

――今までにあった取引で、記憶に残っているものはありますか?

一番印象に残っているのは「300坪の土地あげます」というものでした。島根県の77歳の方が、相続人がいらっしゃらないことが確定したので、それなら誰かにあげますと。私たちの方で投稿者の方にインタビューしてご紹介させていただくと、東京のユーザーの方で、老後を過ごす場所として引き取りたいという方にマッチングしました。

ほかにも、淡路島で阪神大震災の時に被災して断水した別荘を無料であげます、という投稿に、日曜大工チームの方が自分達で修繕して余暇を楽しむ場として利用したいと応じられたり、漁業を引退するので漁船あげますという投稿があったり、スケールの大きなものがたまに出てくるのは、利用されている方の年齢が比較的高いからだと思います。

一方で、「クワガタあげます」とか「家の前にいたカブトムシあげます」とか、今年の夏は緑のカーテンが流行りましたから、「ゴーヤあげます」というのも多かったです。あと、農家の方は、色が変わってしまった桃とか、少し傷がついたような、売りづらいものをあげますと出していらっしゃいます。

東日本大震災の被災地の方限定で「車あげます」というのもありました。仕出しや弁当宅配に使っていた軽のバンを被災地の方に使っていただきたいということで、これも大変感謝されました。

数としては「売ります・あげます」で物の取引が多いのですが、ペットの里親募集のカテゴリーも人気です。現在500件~550件程度が掲載されていますが、マッチング総数は数千件、この半年でも2000件が決まっていて、マッチング率は高いです。里親募集されているNPOにシェルターを見学させていただいたり、里親募集の際の規定を教えていただいて、ご理解いただいた団体から募集を掲載していただくこともあります。

「地域向け広告」ニーズとマッチした媒体がなかった

――加藤さんがジモティーにかかわるようになったきっかけを教えてください。

実は私はジモティーに関しては創立メンバーではなくて、IVPというベンチャーキャピタルが100%出資して設立しました。創業時のコアメンバーが中国でクラシファイドサイトを運営するファウンダーに話を聞く機会があり、ニーズはありそうなのに日本では誰もチャレンジしていないので作ってみようということになりました。

私自身は、前職はリクルートでバーティカルサイト(垂直統合型サイト)の企画運営をしており、地域向け広告を掲載したいお客さまはたくさんいるのに、コストが折り合わず決済していただけない、というケースを見てきました。募集ニーズを持っているお客さまがたくさんいらっしゃるのに、そういう広告を載せる媒体がない。リテールのお客さまでも広告を載せられる場所を作る価値は高いのではないかと考えていたところ、人材紹介会社からジモティーへのオファーを受けました。

会社の設立は2011年2月、私が入社したのは2011年10月、サイトがオープンしたのはその翌月です。2011年3月には東日本大震災がありました。創業メンバーは、あの未曾有の震災で、「今から立ち上げようとしている事業は、地域でのつながりや、取引ができる場所の必要性が増す中で、重要なインフラになる」と考えていたそうです。私自身にも震災の影響はかなりあり、ローカルの中で人とのつながりが希薄化して孤立している人たちや、本来行われるべきコミュニケーションがなくなっていることをなんとかしなくてはいけないという意識を強く持つようになりました。

失われたコミュニケーションの回路を回復するプラットフォームへ

――今後はジモティーをどのように育てていきたいですか?

一つのターゲットは3年後、サービス開始から5年になりますが、それまでに1000万ユーザー獲得を目標にしています。使っていただけるユーザーが増えないと、探す人にも投稿する人にもメリットのあるサイトになりませんから、大きくすることにこだわっていくのが大切だと思いますし、そのためにサイトを使いやすくしていきたいと思います。

もう一つは、「ローカル」の取引を大切にしていきたい。商品は宅配便や郵便で送って、お金は振り込むという「取引」ではなく、直接出会って手渡しで取引することで「人のつながりができた」という声を聞きたいと思います。

そしてもっとユーザーとモノが増えた先には、もっとリアルタイム性や共益性をあげていきたいと思います。たとえば団地で一人暮らしをしている老人が「電球を付け替えるのが大変だから誰かお願いします」と投稿すると、近くにいる人がそこへ行って、その願いをかなえてくれる。そのくらいのメディアパワーを持つのが目標です。昔はしょうゆが切れたらお隣に「しょうゆ貸してください」とお願いに行きましたよね。そういう世界をウェブで実現したい。

それはいわば、失われたコミュニケーションの回路を回復するようなもので、アメリカのクラシファイド広告とは全く違った世界です。それぞれの国で文化も、ローカル情報の発信の仕方も違っても、インフラには共通性がある。それが、クラシファイド広告というインフラの可能性なのだと思います。

取材:板垣朝子(WirelessWireNews) 撮影:斉藤美春

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