2013/09/20

山口市中心商店街の活性化のために制作したCafe MapがKDDIのAR(拡張現実感)技術SATCHを活用

日本の地方都市の多くは、全国展開しているチェーン店を呼び込み、郊外に大型のショッピングセンターを誘致して活性化を図ってきた。だが、それは地方都市の画一化を推し進める結果となった。個性を失った地方都市は、活気がなくなっていく。その象徴が中央商店街の衰退だ。しかし、近年、地方都市を自分たちの手で盛り上げて、地方を活性化させていこうという動きが活発になっている。山口県の山口市にある株式会社街づくり山口では、ネットとリアルを連携させた新しい街づくりの一環として、KDDIが開発したAR(拡張現実感)技術SATCHを組み合わせたCafe Mapを作製した。

大学生の提案からはじまったCafe Mapづくり

山口市中心商店街の店舗等で配布している「Cafe Map」

今回、Cafe Mapの制作を提案したのは、山口大学の地域魅力発信サークルSQUAREのメンバーだ。SQUAREは、商店街を中心とした地域活性化について調査することを目的とした学生サークルで、山口市中心商店街を調査しているうちに、商店街にある店舗を紹介するマップがないことや全国チェーンではない個人経営のカフェがたくさんあることに気がついた。SQUAREの金重暁子さんは、「こういう個性的でかわいいカフェを紹介するマップをつくれば、若い人やニューファミリー層の人が商店街を利用するようになるのではないかと思いました」とCafe Mapの構想を考えたときの様子を振り返った。

SQUAREのメンバーはCafe Mapの作製について、山口市の中心商店街でイベントを担当している株式会社街づくり山口に相談した。山口市中心商店街では、ここ2〜3年で若い店主の経営する飲食店が増えていたが、そのような情報を伝えるツールがあまりなかったので、Cafe Mapの制作を後方支援することにした。
「商店街を利用しているのは60%以上が50代以上の方々です。大学生以下の若い人たちに商店街のことをもっと知って欲しいという想いがありましたので、Cafe Mapがそのきっかけの1つになればと思いました」(街づくり山口・宮野孝夫さん)

SATCHによってAR技術を手軽に活用

スマートフォンやタブレットをかざすと、掲載されたカフェのくわしい情報が表示される

企画を練っていく過程で宮野氏が思いついたのがAR技術の活用だ。「この商店街には歴史のある店舗が多いので、携帯端末を今の店舗にかざせば、昔の店舗の様子や店主の若い頃の写真を見ることができるサービスができないかと考え、KDDIに相談したところ、SATCHを紹介していただいたのですが、AR技術といった新しい技術は、若い世代の人たちとの相性がいいのではないかと思い、Cafe MapにAR技術を組み合わせることを提案しました」(宮野氏)

SATCHの特徴は、KDDIの提供するツールを利用することで、ARコンテンツを簡単につくることができる点にある。手間や費用をかけずにコンテンツをつくり、活用していくことで、AR技術がより身近な存在となる。実際、今回のCafe MapはARコンテンツも含めて、すべてSQUAREのメンバーによってつくられている。メンバーのほとんどが就職活動中だったので、限られた時間の中で集中して制作にあたったという。

コミュニケーションのきっかけツールに

Cafe Mapは2013年3月に完成し、商店街にある12店舗の個性的なカフェを紹介している。SATCH VIEWERアプリとAR情報をダウンロードしたスマートフォンをMapの画像にかざすことで、AR情報を浮かび上がらすことができる。その中には山口県のゆるキャラ「ちょるる」と記念撮影できるものも用意されている。これもSQUAREのメンバーが考えたもので、記念写真はメールやSNSなどを通じてたくさんの人たちにシェアできるようになっていて、幅広い年代の人に喜んで使ってもらっているという。

完成したCafe Mapは山口大学、商店街の店舗、市の施設などを通じて、3万枚ほど配布している。評判は上々で、今年度中には7万枚を配布する予定だ。掲載された店舗の1つ、Cafeぷらりの店長・志道勇さんは「Cafe Mapを手に掲載されている店舗を巡るお客さんもいました。私たちとしても、お客さんとのコミュニケーションのきっかけになっています」とCafe Mapの効果を教えてくれた。

地元で大人気の山口県PRキャラクター「ちょるる」を表示させ、いっしょに写真を撮れる機能も

Cafe Mapができたことにより、商店街の中でバラバラに存在していた店舗につながりが見えるようになってきた。今後は、掲載するカフェの数を増やし、情報も充実させていく予定だ。
SQUAREメンバーの水口奈穂子さんは、「マップをつくる過程で、取材時期と配布時期がずれていたために、お店のおすすめメニューが変わってしまったというアクシデントもありました。『新しいメニューができました』『この時期のおすすめはこれです』といったリアルタイムな情報もARコンテンツを通して提供できるようにもしていきたいですね」と展望を語った。

Cafeぷらりでは、レジ前でマップを配布。折りたたんで持ち歩きやすいように作られている

Cafe Map制作の中心となった3人。右から街づくり山口の宮野孝夫さん、山口大学の金重暁子さん、水口奈穂子さん

取材・文:荒舩良孝 撮影:伊藤善規

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