2013/09/10

KDDI ∞ Labo『∞ Jr.ハッカソン&アイデアソン』レポート 「あったらいいな」を形にする楽しさを満喫した2日間

2013年7月25日・26日の2日間、東京・渋谷ヒカリエ32階のKDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)スペースで、KDDI ∞ Laboとライフイズテック株式会社(以下ライフイズテック)の共催による「∞ Jr.ハッカソン&アイデアソン」が開催された。

ライフイズテックはKDDI ∞ Labo 第4期プログラム参加チームでもあり、主に中学・高校生を対象にした「ITキャンプ」を全国の大学キャンパスを会場に開催している。今回のJr.ハッカソンには、ITキャンプの参加者等、32人が参加した。

ラボ長の江幡智広による開会のあいさつの後、早速スケジュールの説明が行われた。1日目の午後にKDDI社内見学が行われたほかは、2日目の最終プレゼンテーションに向け、チームに分かれて、ハッカソン参加5チームはプログラミング、アイデアソン参加4チームはディスカッションとプレゼンテーション作成にじっくりと取り組む。

チームごとにライフイズテックの大学生スタッフがメンターとして付き、サポートする。また、アイデアやプログラミングのアドバイスをするメンターだけでなく、デザインをサポートするメンターもいるのが特徴だ。「デザインが良くなくてはいいものが作れないというのが理由のひとつです。また、子どもたちに自信を持ってもらうというのも目的ですので、プレゼンテーションの時にかっこいいものが出せると自信につながるので、デザインも大事にしています」と、ライフイズテック代表の水野雄介氏はその意図を語る。

KDDI ∞ LaboスタッフやKDDIの内製プログラミングチーム「ナナホンギプロジェクト」の社員もサポートに参加。「子どものころ、MSXでプログラミングしていたのを思い出しました」と参加者にエールを送る社員もいた。

渋谷ヒカリエ内のKDDIオフィスを見学。KDDIのサービスを開発・運営している社員等から話を聞く

いくつかのレクチャーも実施された。サービスの作り方を考えるレクチャーでは、5W2Hでおなじみのサービスを説明してみる、それを組み替えて新しいアイデアの種を作り出す、といった方法を解説する

ハッカソン 〜「作りたい」からはじまるプログラミングは楽しい!

ハッカソン参加者が取り組んでいたプログラムは、今年のゴールデンウィークのITキャンプで作り始めたものが多いという。iOSやAndroidだけでなく、マルチプラットフォームに対応したゲーム開発プラットフォームであるUnityによる開発に取り組んでいた参加者もいた。

中学3年生のめぐさんは「加速度センサーを使いたかったのと、かわいい女の子の絵をたくさん描きたかった」と、Androidタブレットを使って、画面上部から落ちてくる女の子を、タブレットを傾けて動かすネットでキャッチするゲーム「皿盛りLOVER」を開発。実際にプレイしてみたがなかなかの完成度で、ハマる。

めぐさんは昨年のクリスマスキャンプに参加した時に初めてプログラミングを経験した。わずか半年で200行ほどのコードを書き、本格的なゲームを開発した。「少し勉強すればだれでもできると思うので、みんなもっとやればいいのにと思う」と語る

RPG風のキャラクターステータス画面を作成していたのは、2年前の第1回ITキャンプから参加しているという高校3年生ミヤケアルト君。1年前にAppストアに公開したクイズアプリ「アニメ検定」は、1万件近くダウンロードされている。今回は、「予定を入力するのが面倒でスケジュールアプリを使いこなせないので、"入力したくなるスケジュールアプリ"というコンセプトで、キャラを成長させるゲーム的要素を取り込んだスケジューラーを開発中」という。

ミヤケアルト君が開発しているのは、RPGのキャラクタープロフィール画面のように経験値やレベルが表示され、スケジュールを入力するたびに成長していくスケジューラー。「自分が作りたいものを作っているので楽しい」という彼は、進学してさらにプログラミングを学んでいきたいと考えている

アイデアソン 〜ワークショップを通して「あったらいいな」を形にする

アイデアソン参加者は、「今の自分たちの生活の中にある課題」を話し合い、それを解決するためのアプリのアイデアを考えていた。考えたアイデアは、最終日に、アプリ画面のプロトタイプまで作り込んでデモンストレーションする。

紙やホワイトボードを使ってアイデアを出していく。「やることが多い」「起きられない」「宿題忘れる」「友だちとコミュニケーションしたい」など、等身大のキーワードが並ぶ。メンターのアドバイスを受けながら、最終的な提案まで作り上げていく

ワークショップの合間には、ライフイズテックのメンバーが新しいサービスを考える発想法やプレゼンテーションの方法等について説明する短いレクチャーが挟まれる。KDDI ∞ Labo一期生で「ソーシャルランチ」を開発したDonutsの福山 誠氏による講演や、好きな画像を加工してアプリの画面を作成してみる実習も行われた。メリハリをつけることで子どもたちの集中力を持続させる、ITキャンプのノウハウが生きている。

1日目の午後には、KDDI渋谷事業所オフィスの見学ツアーが行われた。広々としたオープンスペース内を見て回り、ところどころで勤務中の社員に質問も。参加者たちは、普段見ることのない会社の中を、興味深く見ていた。

アプリに、アイデアに、大きな拍手が巻き起こるプレゼンテーション

2日目は、プレゼンテーションについてのレクチャーなどを交えながら、みっちりと開発の追い込み。そして夕方に行われたプレゼンテーションでは、1組3分の持ち時間で、22組が開発したアプリやアイデアを披露した。その一部を紹介する。( )内は開発者・チーム名。

プレゼンテーションは、KDDI社内の「芝生広場」で行われた。参加者のほか、KDDI社員も、子どもたちの成果に耳を傾けた

席替え楽々(SINZI) ハッカソンに参加した小学校6年生のSINZI君のアプリ。人数と座席のレイアウトを選ぶだけで席替えができるアプリを開発した。「けんかになる」「嫌な思いをする人がいる」ので大変な席替えを楽にするためのアプリを考えたという

僕らの未来(TEAM JEJE) ハッカソンに特別参加の"スーパー高校生"Tehu君と矢倉大夢君による「チーム・JEJE」は、貧乏ゆすりによる太ももの揺れを測定するアプリを開発。このアプリで"小宇宙を躍動させ電力問題を解決してリア充を駆除できる"らしい

UNITYによる脱出ゲーム(すぎ) ゲーム開発プラットフォームUNITY、3DCGソフトのBLENDERとMAYAを使いこなし、一人で開発に取り組んだすぎ君の作品。テーマは、「失われた記憶と密室を巡る旅」。3Dゲームのオープニング画面の完成度の高さに歓声が上がった

左利きの左利きによる左利きのためのTwitterアプリ(Kikky) アイデアソン参加のKikky君の「左利きの自分に使いやすいTwitterクライアントがない」という悩みを解決する左利きのためのTwitterクライアント。左手の親指での操作に最適化されたインターフェイス。"書き込みボタンに指が届かない"いらいらを解消する

SUPER SHOOTING CREATOR(岡田侑弥) ハッカソン参加の岡田侑弥君は、「作るは使うよりも楽しい」をコンセプトに、誰でも直観的に、文字を入力せずにシューティングゲームを作れるツールを開発。ライフイズテックの夏キャンプで完成させて、アンドロイドアプリを公開する予定だという

Present Alarm(かなムーチョ) アイデアソン参加のかなムーチョさんは、「ユーザーにはっぴーをプレゼント」する目覚ましアプリを提案。友だちとお互いに「今日あるいいこと」をメッセージで届け合うことで、朝起きるのが楽しくなるというコンセプトだ。メッセージを送るとポイントがたまって画面に変化がついたり、メッセージを送ってもらえるように友人とコミュニケーションをとれる

全チームの発表が終わった後、メンターが参加者それぞれに対してメッセージを書いた認定証が手渡された。

ラボ長の江幡氏からは総括として、「自分の身近な課題に大人はだんだんと気付かなくなる。日常の"ちょっと困ったこと"への解決策を形にしていくのは素晴らしい。アイデアソンの様子はKDDIの七本木チームのミーティングのようでした。一緒に切磋琢磨できればいいと思います」とコメント。2日間がんばった子どもたちとスタッフをねぎらった。

最後に全員で記念撮影。プレゼンテーションを見学したKDDI社員からも、いい刺激を受けたという感想が聞かれた

インタビュー

KDDI ∞ Laboラボ長 江幡智広
「ものを作ること」の楽しさへの気付きを支援したい

KDDI ∞ Laboは、起業を志して世の中に何かを送り出そうという方を支援するプログラムで、何かを作り出したいという思いがすでにある人たちが対象です。一方で、その手前の、「新しいものを生み出したい、作り出したい」という気持ちを持ち始める人に関わることで、起業したいという志を持つ人も増えるのではないかという思いもありました。

そのような中、KDDI ∞ Labo第4期で、ITキャンプで中・高校生にものづくりの楽しさを教えていたライフイズテックさんに出会いました。3カ月間メンタリングする中で、ITキャンプに参加するような子どもたちを対象に何かプログラムを一緒にやれないかと打診してみたのが、今回の企画のきっかけです。5月の終わりごろに、「やるなら夏休みがターゲットですよね」ということで、あっと言う間に実施が決まり、ほぼ1カ月で準備をしました。募集は既にITキャンプに参加した方々を中心に、ライフイズテックさんのネットワークで行いました。

ハッカソン&アイデアソンという形にしたのは、ものを実際に作るということよりは、こういう機会に触れることで「ものを作ること」の楽しさに気付いて欲しいという思いからです。ものづくりというのは考えることから始まりますが、その手前の日常生活の中で感じている、「こんなことができていない」「こんなことができるといいな」ということを発表してもらうのがアイデアソン。もう一歩進んで、解決策を可視化するのがハッカソンという位置づけです。思いを形にすることの楽しさ。もちろんなかなかうまくいかない辛さもありますが、そういうものをハッカソン&アイデアソンを通して彼らに伝えたいと思います。

KDDIで中学・高校生向けのイベントを行うのは、今回が初めてです。KDDIに直接的なメリットがあるとはあまり考えていませんが、若い人たちにもの作りの楽しさを伝え、意欲を持ってもらうことを支援することで、KDDIがインターネットに広く関わって、起業を支援しているということを知っていただく機会になればと思っています。

一方、社内向けには、いい刺激になることを期待しています。KDDIからは、∞Laboチームの3名と、内製プログラム部隊である七本木プロジェクトから数名が開発支援についています。∞Laboでも、1チームに2人、メンターとして社員がつきますが、彼らもベンチャーの志や思い、技術に触れることで刺激を受けています。今回のイベントに関わった社員にも、通常の業務に戻ったときに、この経験を生かしてもらいたいですね。



ライフイズテック株式会社代表取締役CEO 水野雄介氏
スマホをきっかけに増えた「Life is Tech!」な子どもたちにアントレプレナーシップを

ライフイズテックでは、中学・高校生を対象にしたITキャンプを開催しています。大学のキャンパスを会場に、7つのコースに分かれてプログラミングを行います。メンターは大学生で、情報系の学生やデザインを専攻している学生などがついて指導します。

今回の∞ Jr.ハッカソン&アイデアソンには、ITキャンプ参加者の中でも比較的技術レベルの高い人を中心に集めました。キャンプで既にお互い知り合いだったりするので、その点も考慮して、楽しく開発やディスカッションができるようにテーブルを分けています。ハッカソンチームは、ゴールデンウィークのITキャンプで開発を始めたプログラムの続きに取り組んでいる人が多いです。

私は高校で物理を教えていたのですが、子どもたちと接していると、パソコンやゲームが好きで、ITをやりたいという子どもが多いのです。社会からも、IT教育は求められています。子どもの思いと社会の要望をつなぐ仕組みを作りたいと考えていたところ、スタンフォード大学にITキャンプというものがあることを知って見学に行きました。とてもいいプログラムだと思ったので、日本でも開催したいということで3年前に起業しました。

1年間の準備期間を経て、参加者40名のサマーキャンプからスタートしましたが、その後2年間で20回キャンプを開催し、延べ2000人が参加しました。今年の夏休みには、さらに1100人が参加します。参加者のほぼ5割がリピーターです。

参加しているのは、文字通り「Life is Tech!」だと思っているような子どもたちです。そういう子どもが増えているのは、スマートフォンの普及がきっかけだと考えています。実際に、ITキャンプに参加する子どもの半分ぐらいはスマートフォンを使っているようです。いつも使っているスマホのアプリを作ってみたい、これなら自分にも作れるんじゃないかという気持ちを持つのでしょう。作ったアプリは個人でもAppStoreに出せて、しかもコストがかからないという環境の変化もあります。

海外では、高校生が開発した「Summly」というアプリが約30億円でYahoo!に買収されたという成功例もありますし、もし失敗してもリスクはありません。自分が作りたいものを作っていけます。ちょうど自分の意思を持ち始める時期の中学・高校生に上から何かを教えようとしても響きませんが、自分の意思で何かを始めると大きく成長します。それをフォローしてあげて、しっかりといいものを作ることが、彼らの自信につながります。

今回の∞ Jr.ハッカソン&アイデアソンに参加した子どもたちには、アントレプレナーシップ、言い換えれば、今まで世の中になかったものを作って世の中を便利にするという考え方を持ってほしいと思いますし、そこから起業する子も、ヒーローとして出てきてほしい。子どもたちの可能性を伸ばす手法の一つだと思いますので、KDDIにはこれからも続けてほしいと思います。

取材・文:板垣朝子(WirelessWire News) 撮影:斉藤美春

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