2013/03/12

3.11を前に首都圏直下型地震を想定した模擬訓練を実施


未だ癒えない大きな傷跡を残した東日本大震災から丸2年。KDDIは2度目の3.11を前にした3月8日、被災地に出動して携帯通信網復旧を行なう移動型基地局・可搬型基地局の設置訓練を実施した。

会場の東京臨海広域防災公園(そなエリア東京)には、全国に13カ所あるKDDIテクニカルセンター(TC)のうち、金沢TC、高松TC、福岡TC、札幌TCの4チーム16名の携帯電話基地局復旧要員が集結。KDDI技術統括本部 運用本部 副本部長 難波一孝氏の指揮の下、3つの車載型基地局(大型・小型)と1つの可搬型基地局の設置を同時に行なった。

それぞれのTCに属するメンバーたちは、通常、TCごとに訓練を行ない、地震や大雪、台風などの災害時の出動に備えている。KDDIでは東日本大震災以降、今回のような全国規模の合同訓練をより強化し、定期的に開催。各TCが積み上げてきた運用ノウハウの共有や、さらなる技術力向上を目指している。

首都圏直下型・震度7の地震を想定

今回の訓練は、東京湾北部を震源地とする首都圏直下型地震が発生し、東京23区を中心に多くの地域で震度7の揺れを観測したという想定。通信各社は基地局を中心に広範囲に被害を受け、携帯電話通信は困難な状況に。早急な通信確保をするべく政府と東京都から、①政府の防災拠点となる有明の東京臨海広域防災公園、②練馬区役所、③品川区役所に対する通信確保要請を受けた、というシナリオだ。

ヘリコプターから金沢TCの3人が全速力で基地局設置につく

KDDI特別通信対策室からの指令が下ると、まずは金沢TCの電波復旧要員3名を乗せたヘリコプターが到着。これは陸路での急行が困難な場合に現場の状況把握のために取られる措置だ。ヘリコプターの扉が開くとメンバーたちは全速力で所定位置に急ぎ、現地に基地局設置が可能であることを確認した後、衛星携帯電話イリジウムで特別対策室に報告。これを受けて、特別対策室の指示に基づいて、3か所で3つのTCチームが同時に車載型基地局の設置に着手した。

訓練に参加したメンバーの中には女性要員も。小さな体でキビキビ動き、落ち着いた様子で本部との連絡を取り合う頼もしい姿が印象的だ。

東日本大震災でも活躍した車載型基地局

災害時、真っ先に被災地に赴いて、電波復旧の第一歩を担うのが車載型基地局だ。東日本震災でも地震発生から約2時間後に、11台の車載型基地局が東北へ向けて出発。各地の防災拠点や避難所で携帯電話の電波確保や充電サービスを行ない、多くの人々に、つながる安心を届けてきた。KDDIは震災後、車載型基地局を15台から20台に増強している。

車載型基地局は、ワンボックスカーやトラックに、携帯電話基地局装置と発電機、高さ12メートルも伸びる携帯電話用アンテナ、基地局と局舎を結ぶ衛星通信装置と衛星通信用のパラボナアンテナを搭載。大型車で直径1.5キロメートル、小型車で同1キロメートルの範囲に電波を届けることができる。がれきや障害物の多い被災地にもスムーズに侵入できるよう、最近ではより小型なものに進化しているという。

移動型基地局の設置作業では、高いアンテナを伸ばすため、強風や余震で倒れない安定した足場の確保がカギに。望ましい場所が選定できたら、車体をジャッキアップして水平に固定する。その後、パラボナアンテナを立ち上げ衛星回線を捕捉しながら、タワー型アンテナをセット。訓練はメンバーが常に声を掛け合い、指さし確認をしながら実際の出動に即した手順で行なわれ、わずか20分ほどで3か所における設置が完了した。

立ち上がった車載型基地局前には、避難者に対する充電サービスブースも登場。ここではau端末に限らず、他社端末でも充電することができる。

災害時、電波復旧の要となる車載型基地局。3カ所での設置訓練が行われた

可搬型基地局の登場で広がる復旧方法のバリエーション

さらにその後、車載型基地局を設営した3か所のうち、東京臨海広域防災公園のみ通信断絶の長期化を想定。可搬型基地局に切り替える訓練が続いた。

可搬型基地局 組み立ての様子

可搬型基地局とは、アンテナや無線機、発電機などの各部品をトラックなどで搬送し、現地で組み立てる方式のもの。東日本大震災以降に新設されたもので、KDDIでは全国に27台を導入し、整備を進めている。車載型基地局で迅速に現地へ駆けつけて電波を回復した後、この据え置き式の可搬型基地局に切り替えれば、車載型基地局を新たな避難所へすみやかに送り込むことが可能になる。電波復旧のスピードを高め、カバーエリアを拡大できると期待されている。

トラックからの機材の搬出と設置、機器の接続と、今回の訓練では20分程度で設置を完了したが、実際に電波を送受信して使用可能にするには、少なくとも数時間が必要。被災地の過酷な状況の中で部品を一つずつ組み立てなければならない上、ビルや障害物を避けて衛星から安定的に電波を受信でき、設備一式を設置できる場所の選定にどうしても時間がかかるためだ。

難波氏によると、現在の可搬型はまだまだ“伸びしろのある”初号機とのこと。これからさらに改良を続け、電波復旧の中核を担う設備として今後の活躍に期待が高まる。

通信網確保の使命に全力を尽くす

可搬型基地局に切り替えるために撤収した車載型基地局は、台場区民センターを想定した新たなに設置場所に移動して再び設置完了。ここで約2時間半にわたる一連の公開訓練が終了した。

KDDI技術統括本部 運用本部 副本部長 難波一孝氏

訓練終了後、TCメンバーが集まり、難波氏による総括が行われた

難波氏は「今回の車載型基地局は、小山TCから持ってきたもの。各TCメンバーがいつも扱っているものと勝手が違い戸惑ったかもしれないが、その分、新たな発見も多くあったはず。それぞれに感じたことを振り返り、改善のテーマを見つけてほしい。お客様の元に早く駆けつけて電波を供給するという使命のため、これからもより技術を向上させてほしい」と総括。復旧要員たちをねぎらった。

会場では、停電によって機能不全に陥った基地局に電源を供給する移動電源車や、映像伝送用の車載型地球局(ビックシェル)、衛星携帯電話「インマルサットBGAN」等の展示も行なわれた。東日本大震災でも多くの基地局が停波したが、その77%は停電によるものだったという。KDDIは2009年から太陽光パネルによる発電力、蓄電力と商用電力を組み合わせたトライブリッド基地局や基地局バッテリーの24時間化を推進する一方で、燃料さえあれば発電し続けることが可能な移動電源車を55台・ポータブル発電機を85台保有。災害復旧時には移動型基地局と共に被災地に出動し、大きな働きを担う。

展示された(左から)移動電源車、車載型地球局(ビッグシェル)、衛星携帯電話

訓練を終えて難波氏は、「全国のTCで日頃から訓練は行なっていたものの、東日本大震災では作業に時間がかかり、お客様を長く待たせてしまった場所もあった。あの時の経験を風化させてはいけないという気持ちでこれまでやってきた。それと同時に、復旧した携帯電話で家族と話せたお客様のほっとした笑顔も忘れられない。この教訓を生かして、今後も手を緩めることなく訓練と災害時のための整備を強化していくことが私たちの使命だと考えている。現場の一人ひとりが自立して行動できるよう、いざという時につながるKDDIを目指して、これからも努力していきたい」と語った。

取材・文:まつざきみわこ 撮影:斉藤美春

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