2014/11/12
今さら聞けない『人工知能(AI)』の仕組み 「49%の人は仕事を奪われる」は本当?
人工知能(AI:Artificial Intelligence)。新聞やニュースを眺めていて、この言葉を目にしない日はなくなった。GoogleやApple、Amazon、LINE……名だたる世界的企業がAI事業に乗り出し、技術力を競い合っている。
しかし、人工知能とはなんたるかを自信満々にプレゼンテーションできる人は少ないのではないだろうか。今さら聞けない人工知能の仕組みと進化についてガイドしよう。
『ターミネーター』による誤解。人工知能=人型ロボットとは限らない
人工知能=AIと聞いて、人間と瓜二つのロボットを思い浮かべる人もいるだろう。高度な思考力と計算力、運動能力を兼ね備えたスーパーヒューマン、映画『ターミネーター』のイメージだ。
だが、それは一旦忘れてほしい。いま主流の人工知能は、ターミネーター型ではないからだ。社団法人人工知能学会によると、AIの研究においては、2つの考え方があるという。
1.人間の知能そのものを持つ機械を作ろうとする立場
2.人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場
つまり、人間の知性を丸ごと再現しようとする立場と、部分的に再現しようとする立場に分かれている。主流なのは「2」のほうだ。
コンピュータ将棋ソフト、Siri、スマートスピーカーなど、AIは身近にある
わかりやすい事例が、名人を打ち負かした将棋ソフト「Ponanza(ポナンザ)」だろう。局面ごとに80億もの手を探索するPonanzaは、将棋にはめっぽう強いが、その経験を生かして企業戦略を立てたり、サッカーの戦術を考えたりはできない。あくまで「将棋を指す」という人間の知性の一部に特化させたAIなのだ。
ほかにも身近なところだと、iPhoneに内蔵された音声アシスタントSiri、Amazonの「あなたにおすすめ」、新型が登場し話題の渦中にいるaiboなど、スマホやさまざまなロボットにも人工知能が搭載され、浸透している。このように、あらゆるタイプの人工知能がすでに生活に入り込んでいる。
「機械学習」と「ディープラーニング」がもたらしたブレイクスルー
それにしても、人工知能はどうしてこれほどの進化を遂げたのだろう。
理由のひとつは、「機械学習」という仕組みだ。コンピュータの演算能力の向上やインターネットの普及により、これまでは難しかったビッグデータの解析が可能になった。機械学習では、このデータの海に潜む法則性をAIに発見させ、統計的に最適解を抽出する。
そしてさらなるブレイクスルーを起こしたのが、「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術。これは、人間の脳の構造をモデルにした学習方法だ。ニューロンやシナプスといった神経回路をコンピュータ上に再現し、正しい答えを出した回路を強化するように設計されている。
たとえば、犬の写っている大量のデジタルデータを与え、「これは犬ですよ」と教えたとしよう。すると、機械は「犬」という概念を学習するために、まずは線を認識する。その次に目や耳などの部位、部位を含めた顔、最後に顔を含めた体全体と、多層的に法則を見つけていく。
これにより、1980年代から困難とされていた画像認識など、抽象的な概念さえもAIは理解するようになった。人間の脳構造を与えることで、彼らは人間並みの柔軟性を手にしたのだ。
実用化されていく人工知能。イノベーションの足音は近い
そんな人工知能の台頭は、私たちの生活を劇的に変えつつある。
近年、脚光を浴びているのはスマートスピーカーだろう。日本でも音声アシスタントを搭載した「Google Home」や「Amazon Echo」が発売され、大きな話題になっている。家に帰るなり「電気つけて」「いいカンジの音楽を流して」「今日のニュースを読み聞かせて」とAIに呼びかけるのも、すぐに当たり前となるだろう。
近い将来にはAI技術を駆使した自動運転車の時代もやってきそうだ。法整備などの課題はあるが、実用化すれば低価格の無人タクシーが街中に溢れるだろう。あらゆるクルマがGPS上でマッピングされるため、事故や渋滞が減る可能性もある。
日本人の49%は人工知能に仕事を奪われる?
一方で、空前のAIブームに待ったをかける声もある。なかでも「今後10~20年のあいだに、日本の労働人口の49%は人工知能に代替される」という野村総研とオックスフォード大学の共同研究には、各業界から悲鳴が上がった。
単純作業がなくなるのはなんとなくイメージできるが、ひらめきを武器にしたクリエイターとて安泰ではない。国内では人工知能の執筆した小説が、星新一賞の一次審査を突破。海外では亡き巨匠・レンブラントの筆致を再現し、「新作」と題した肖像画も発表された。過去の作品群をAIに学習させれば、抽象的な感性のなかにも法則性を見出せるらしい。
とはいえ、技術革新による労働の変化は以前からあった。自動車の普及は馬車を衰退させたが、教習所やハイヤーといった新たな雇用も生み出している。過剰に警戒せず、人間にしかできない役割を見つけていくのが得策だろう。
2045年に待ち受ける革命「シンギュラリティ」
こうした“人工知能フィーバー”の先に待ち受けるのは、2045年に起こるといわれる「シンギュラリティ」だ。
これはGoogleの研究者、レイ・カーツワイル氏の立てた予想で、人工知能の知性が人類の総和を超えるというもの。同氏のベストセラー『ポスト・ヒューマン革命』によると、人類がAIをつくっていた時代は終わり、AIがAIをつくるフェーズへと移行するらしい。つまり私たち人類は、テクノロジーを受け取る側に回されるということか……。
人工知能は敵か味方か。答えは神のみぞ知るだが、いずれにせよ、人類とはなんたるや? を再定義させられる日はそれほど遠くないのかもしれない。
文:佐藤宇紘