2014/12/17

今、この瞬間を感じ続ける冒険者 ~ディック・コストロ~

ディック・コストロ/Twitter CEO

【何をした人?】即興劇のコメディアンからベンチャー起業、Googleを経てCOOとしてTwitterに入社。
【何ですごいの?】140文字で繰り広げられる通信プラットフォームを用い、100億ドルに値するインターネット巨大企業を築いた。
【今は何をしているの?】Twitter社のCEOとして140文字の世界に人々の一瞬一瞬を感じ取り、自身も発信し続けている。

今や世界中で月間2億8,400万人の人がつぶやく、Twitter。東日本大震災で電話が不通になった際は、被災地でのライフラインとなり、またある時には、オバマ大統領がメドベージェフ・ロシア大統領を歓迎し、ローマ法王も自身の言葉をつぶやく。それぞれの「なう(Now)」が世界中を駆け巡る。そのTwitterのトップ、ディック・コストロこそ、「今」を最も大事にする一人だ。

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■今、この瞬間を生きろ!

2013年5月、コストロは母校ミシガン大学のスピーチで学生たちに向かって語った。

「この瞬間を生きろ、この瞬間を生きろ、今、この瞬間を生きろ」(注:英文では Be in this moment. Be in this moment. Now be in this moment.)

学生時代にはコンピューターサイエンスを専攻していたコストロ。しかし、彼は芝居にのめり込み、プログラマーとして3社から声が掛かったにもかかわらず、即興劇の役者の道を選んだ。

即興劇。それは台本のない世界。舞台の流れをくみ取って、その場その場で台詞を考える。次の流れは予測できない。これは、今まさにTwitterがその瞬間をつぶやくツールであることに生かされている。そして、コストロは即興劇から2つのことを学んだという。

■大きな視野で、大胆に

ある日、監督が「このステージ上に何が見える?」と聞いて来た。「何もありません」と答える劇団員に監督は訴えた。「君たちは何がそんなに怖いんだ? もっと自信を持たなければならない。このステージに何もない。つまりこれは君たちが自分でストーリーを作ることができるという意味だろう? もっと大きく視野を持って、大胆にリスクを取らなきゃだめだ!」

その時、コストロらが設定した劇の背景は、アパートかコインランドリー。舞台は宇宙船にも工場にもなり得る無限の可能性があるのに、小さく無難にまとめようとしている彼らの自信のなさを監督は指摘したのだ。

■台本はない、この瞬間を感じろ!

そしてもう一つ、別の有名監督からは、「今という瞬間」を学んだ。コストロはある日、舞台裏でいい台詞を思い付く。「よし、ステージでこの台詞を言ってやる!」と意気盛んに即興劇の流れを作った。いよいよ、その時が来た。と同時に、ストップがかかった。

監督は言った。「次の台詞なんて考えるな! 台本などない。瞬間を感じ取って表現するんだ。流れなんて考えたらがっかりするだけだ。君の思いどおりになんて周りは動かないだろう? この瞬間だけを見るんだ!」

■巨大なテクノロジーの世界へ

こうして役者への道を歩んだコストロだが、その後、彼は思いのままに、大胆に、台本のない人生を歩み始めた。8年間の役者生活を経て、コステロは「FeedBurner(フィードバーナー)」など、いくつかのベンチャーを起業した。2007年、「FeedBurner」はGoogleに買収され、自身もGoogleへ入社。そして2009年、コストロはCOOとしてTwitter社へ。2010年からはCEOの座についた。

その後、2013年11月7日、Twitter社は、ニューヨーク証券取引所に株式を上場。公開価格26ドルに対し、初値は公開価格比73%高の45ドル10セントをつけたことは記憶に新しい。2013年、Business Insider誌の「シリコンバレーで最も優れたCEO」の一人として選出され、Time誌の「最も影響力のある米国テクノロジー企業のCEO 40人」にも選ばれた。

今日もコストロは140文字の世界に、人々の一瞬一瞬を感じ取っているに違いない。そして、彼もまた、発信し続けている。

文:赤坂匡介(with HK)