2014/07/09

EvernoteのCEOが考える「100年続く企業」の条件 ~フィル・リービン~

フィル・リービン/Evernote CEO、自ら4種類の技術特許を保持するソフトウェア開発のエンジニア

【何をした人?】Evernoteの創業者にしてCEO
【何ですごいの?】世界にクラウドサービスを定着させた
【今は何をしている?】100年続く企業を目指し、経営者としてのセンスを発揮中

Web記事やメモ、画像などをクラウド上に保存・共有できる「Evernote」。その手軽さと利便性によって世界にクラウドサービスを定着させ、現在は約1億人が利用するほどになった。しかし、創業者であるフィル・リービンCEOの目標は、これを一過性のブームに終わらせず、同社を「100年続く企業」にすることにあるという。

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■企業買収はしない――いわゆるIT企業とは一線を画すEvernote

2008年にリリースされたEvernoteは、PCやスマホなどのプラットフォームの垣根を越えた無料アプリとして多くのファンを獲得してきた。今やユーザー数は1億人を超えており、数々の類似サービスも生み出している。

これがGoogleやFacebookならば、軌道に乗ったビジネスを元手にさらなる成長を求めてM&Aやベンチャーの買収を試みるところ。しかし、最近のEvernoteが最も力を入れて着手しているプロジェクトは、ほかのIT企業と少し趣が異なる。

それは、昨年9月にローンチされた「Evernote Market」。そこでは、スキャナーやバッグ、ポストイットといったプロダクトの取り扱いを始めたのだ。しかも、ただの通販サイトのようにWeb上で販売の窓口を設けるだけでなく、実際に自分たちで商品をリリースした。

なぜ、ウェブサービスの企業がプロダクトの企画・販売に乗り出したのか? そんな疑問に対してリービンは、WIRED.jpの取材に次のように答えている。

「これまで企業は、自分のターゲットを性別や所得、居住地域などで考えてきた。Evernoteのユーザーは、仕事と私生活の両方で、処理しないといけない大量の情報を、どれだけエレガントに効率よく処理できるかで、ムード、幸せ、生産性が変わってくるタイプの現代の知識労働者で、世界中に散らばっているし、既存のカテゴリーでは理解できない。そして、Evernoteのユーザーのタイプを理解すると、彼らの情報処理を助けるために、デジタルのプラットフォームと同様に、彼らの人生の効率を上げるための商品をつくることは驚きではない」(WIRED「「情報処理にエレガンスを。仕事でもプライベートでも」フィル・リービン(Evernote CEO)」2014年1月31日掲載)

Evernoteが手掛けるウェブサービスも、新しくリリースしたプロダクトも、どちらも"人生の効率を上げる手助けになる"という意味では同じだと言うのだ。

■ライバルはApple、Googleではなくナイキ?

また、リービンはEvernoteを「テクノロジー企業だと考えていない」とも話している。

「より賢くなりたい、より良い生活をしたい、より良い仕事をしたい人のための"ライフスタイルのブランド"と捉えています。当社のことを必ずしもテクノロジー企業だとは考えていません。もちろんテクノロジーは重要なことですが、確立したいのは『賢く生活していきたい人のためのブランド』ということです」(週刊ダイヤモンドのインタビューより)

だから彼は、目標とするブランドにAppleやGoogleではなく、ナイキの名前を挙げる。「運動する人のカラダにとって良いもの」をテーマに、同社はシューズやウェアだけでなく、ランニング用のブレスレットなどのガジェットやアプリといった新しい分野にも進出してきた。

いわば、ナイキは単にプロダクトを提供するブランドというよりも、人々の生活の向上を目的とした"ライフスタイルのブランド"として受け止められている。そして、リービンはそのブランドとしての価値こそが、企業を存続させる重要な要素と考えているのである。

■"100年企業"になりたい、そのために必要な理念とは

Evernoteはウェブサービスとして世界に広まってきた。しかし、リービンがウェブという手段を選んだのは、あくまで現代の人々のライフスタイルを考えた際に、それが最も必要とされていると感じたからにすぎない。目標は世界一のIT企業を作ることではないのだ。

今や、Evernoteの登場とその影響によって、ウェブの情報管理はかなり楽になった。しかし、現実にはまだまだ不自由さを感じる場面は多い。今度は新しいプロダクトで、そのストレスを解消してあげたい――Evernoteがプロダクトに力を入れる理由は、そんなふうに要約できるだろう。

リービンはよく「Evernoteを100年続く企業にしたい」と口にする。そのために必要なものは、莫大な資産でも、卓抜したITテクノロジーでもなく、"自分たちの力で社会を良くしたい"という理念を大切にすることなのだ。

文:小山田裕哉