2015/08/26
時差ボケからの解放! 目覚ましなしで起きられるカラダに変身できる?
時差ボケで困ってる人いませんか?
サンフランシスコのウエアラブル製品デモ会場で、ブラニスラブ・ニコリッチ氏がそう声をかけた。すると、「時差ボケ? ひどくて困ってるよ」と多くの人々が彼のブースに寄って足を止めた。世界中から起業家や技術者たちが集まってくるシリコンバレー。飛行機に長時間乗って出張することが多い彼らにとって、時差ボケは、ほぼ職業病のようなものだ。海外の本社から飛んできて、すぐに投資家との大事な商談に寝不足で臨まなければならない起業家たちも多い。
AYOを装着したNovalogy社CEOのブラニスラブ・ニコリッチ氏(撮影:長野美穂)
そんな彼らにニコリッチ氏が差し出したのは、白い眼鏡型のデバイスだ。一見するとグーグルグラスに似た形だ。かけてみると、眼鏡のグラスに当たる部分あたりから青白い光が見える。この青いLED光が、体内時計をリセットするのに役立つホルモンの生成を活性化させ、睡眠の質を上げるという。
「僕たちチームは、このデバイスを開発して自分たちで使うようになってから、目覚まし時計なしで朝起きられるようになりました」とニコリッチ氏。
「本当に?」「試してみたい」という声が次々に上がった。
ストレス度合いを測定したり、睡眠や運動パターンの記録をするウエアラブル機器はちまたに溢れているが、「睡眠の質を向上させる」「時差ボケ解消に役立つ」とポイントを絞った例は珍しい。「AYO(アイオ)」という名のこのデバイスを、1日20分ほど装着して青いLEDライトを浴びると、数日から1週間ほどで体内時計のリズムが調節され、睡眠の質が変わってくるのが実感できるのだという。
なぜ青色の光が身体と睡眠のリズムを整えるのに役立つのか? ニコリック氏は言う。
「朝起きてすぐに、太陽光をたっぷり浴びると、しっかり目が覚めるのと同じ原理で、目から入った光が体内のホルモンの生成の活性化を促し、身体活動をスムーズにします。反対に、光がない暗いところでは、メラトニンと呼ばれる睡眠ホルモンの生成が体内で活性化し、眠気を誘うわけです」
それなら単に外に出て太陽光を浴びればいいのでは?
「太陽光には紫外線が含まれているため、シミや日焼けの原因になります。太陽光のメリットを生かしつつ、紫外線を取り除いたのが、AYOの青い光です」
画像提供:Novalogy
青色LEDライトといえば、2014年のノーベル物理学賞を受賞した赤崎 勇氏、天野 浩氏、中村修二氏が発明・実用化した、青色に発光するダイオードのことだ。照明やディスプレイにも広く使われているこの青色発光ダイオードと独自のフィルターを組み合わせ、紫外線と赤外線のない光を出すのがAYOだ。
他のどの色よりも、青色の光が眼の網膜神経細胞を活性化させるのに役立つのだという。ニコリッチ氏の説明によれば、活性化された神経細胞が、脳の中にある体内時計を司る部位にシグナルを送り、各種ホルモンのバランスや睡眠のリズムを整えるという。
ただでさえ、夜中にコンピューターに向かったり、1日中パソコンやタブレット、スマホの液晶画面の人工的な光を浴びていることが多い現代人。そのうえ、このデバイスでさらに人工的な光を浴びて、果たして目の健康は大丈夫なのだろうか? AYOを使う場合、1日20分程度の使用というのが目安だそうだが、「もしそれ以上の長時間、たとえば1時間ほど光を浴び続けても、目には安全で、まったく害にはなりません」とニコリッチ氏は断言する。
画像提供:Novalogy
まず、専用アプリを使って、自分の睡眠時間や生活データを入力すると、AYOを使用して光を浴びるのに適した時間帯が表示される。使い過ぎないように、必要なだけの時間が表示される仕組みだ。朝型か夜型かなど、個人の生活スタイルによっても装着するタイミングが変わってくるそう。たとえば、日本からアメリカ西海岸に出張する場合など、いつ、どのタイミングで青色の光を浴びれば体内時計にベストかを、アルゴリズムで割り出し、アプリを通して表示する。
ちまたによくある脳波を測定するウエアラブルデバイスのように、装着する場合、目をつぶって安静にする必要はない。目を開けたまま光を浴びることが必要なので、テレビを見たり、新聞を読んだり、歯を磨いたりしながらの「ながら使用」が可能だ。開発に必要なAPIを無料で公開しているため、既存の睡眠や運動を測定する健康トラッカーと併用することもできる。
また、デバイスを使用した際のデータはBluetoothでアプリに送られる。ライトの強さの調節も可能で、同じデバイスを家族と共有し、個々人のデータをアプリ上で比較することも可能だ。
クラウドファンディングのIndiegogoのサイト上で、149ドルで販売すると、プリオーダー分はすべて売り切れた。現在では169ドルの価格で販売中だ。また、実際に試してから購入するかどうかを決めたい人には、49ドルで30日間のお試しコースもある。すでに10万ドルの資金をクラウドファンディングで集めることに成功しており、注目されている。
東欧セルビア出身のニコリッチ氏は、ヨーロッパの一部などでは、太陽光の不足する冬季に鬱が問題になっていることに触れ、1970年代から光療法に効果があることが証明されていると話す。冬季に青色の光を浴びることで、ホルモンであるセロトニンの生成の活性化を促し、鬱々とした気分を解消するのに役立ててほしいと語る。
世界各国を転戦して、日常的に時差ボケを克服しなければならないプロのトップアスリートらから「使ってみたい」との要請もあり、ニコリッチ氏いわく「2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックに出場予定の選手たちが使用する可能性は高いだろう」とのことだ。
Novalogy社は、ブルガリアと米国コネッチカット州にそれぞれオフィスを持ち、開発チームは「ヨーロッパと米国の拠点を行ったり来たりしているため、十数時間の時差を体験しているメンバーばかり。常に自分たちで人体実験し、改良を目指している」とのこと。商品の発送は今年末の予定だ。
文:長野美穂 サムネイル画像提供:Novalogy
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