2015/01/15

絶滅が危惧されるガンジスカワイルカ KDDI研究所が行う保護の取り組み

写真提供:WWF-INDIA

ガンジス川といえば、全長が2,000kmを超える、インド半島を流れる世界的にも有名な大河。だが、この川に「イルカが生息している」と聞けば、多くの人が驚くのではないだろうか。

ガンジス川に住むガンジスカワイルカは、個体数が2,000頭ほどにとどまるとされる絶滅危惧種。水質の環境悪化によって、さらなる減少も懸念され、インド政府や世界自然保護基金(WWF)が保護に奔走しているところだ。

「実は、インド人でもガンジスカワイルカを知らない人が多いのです。私たちが調査を行っているナローラ周辺ならば、WWFによる啓発活動の成果もあり、知る人も増えてきましたけどね」

そう語るのは、KDDI研究所の小島淳一プロジェクトリーダー。KDDI研究所、東京大学生産技術研究所、インド工科大学(IIT)デリー校、WWFインディアの4者が共同で「ガンジスカワイルカ水中行動解明プロジェクト」を実施しており、その中で技術・人的支援を行っているのが小島さんだ。

KDDI研究所 環境計測プロジェクトのプロジェクトリーダー・小島淳一さん

もともと、小島さんは自律航行型海中ロボット(AUV)の研究開発を行っていた。AUVは、海底ケーブルを敷設・点検するために音波を照射し、海底地形を計測するもの。支援船との通信や正確な位置計測といった高度な性能が要求され、小島さんは1990年代からAUV研究の第一人者である浦環(うら・たまき)九工大学教授(当時は東大教授)と情報交換を重ねていたという。

「研究が進むにつれ、AUVの技術をどう使うかといった話になったんです。そして、東大ではさまざまな海洋生物を観測しよう、ということになった。手始めに2000年にクジラの観測が行われました」(小島さん、以下同)

また、浦教授は同時期にインド工科大学(IIT)のバール教授と出会う。IITは世界的にも高い研究水準を誇る大学であり、バール教授もインドにおける水中音響の権威。これをきっかけに、小島さんは東大などと共同で観測システムを構築し、インド東部チリカ湖にすむイラワジイルカの調査も行うようになった。

「チリカ湖の観測は06年に始まりました。イラワジイルカは、インドだけでなく東南アジアの広い地域に生息しています。ガンジスとは別に、インドネシア・マハカム川でも調査を行っていますが、こちらもイラワジイルカを観測するものです」

ガンジス川での観測は、07年にスタート。WWFは流域の街、ナローラにガンジスカワイルカ調査のための拠点を置いており、小島さんも毎年11~5月に複数回、ここを訪れるようになった。

このマイクロフォンを水中に沈め、ガンジスカワイルカのクリック音を拾う

小島さんのチームが観測を始める前の従来の観測方法は、目視による調査だけだった。ガンジスカワイルカが息継ぎのために水面に現れた一瞬を目で観測するもので、観測には専門技術と忍耐力が必要。しかも、その観測精度は決していいものではない。

そこで、小島さんたちは最新音響技術による長期観測方法を考案。イルカが発するクリック音(超音波音)を、複数の水中マイクロフォンで記録することで、イルカの動きを連続して計測することにした。

この最新音響技術を使った観測法が優れている点は、イルカが発する音を受け取るだけ、という点。例えば、魚群探知機やソナーのように、音波を発信して、目標物からの反射音を受信するような調査方法だと、イルカが逃げてしまうのだという。しかし、小島さんたちが採用した方法は、イルカ側から発せられる音波を聞くだけなので、イルカに影響を与えることなく、長期にわたる観測が可能。そして、その期間に収集したデータを解析することで、イルカの行動パターンを解明することができる。

その結果、イルカの子育ての様子や、子供のイルカは大人のイルカよりも出す音のパターンが少ないことなどが分かってきたという。

※クリックで拡大

「それでも、保護に役立てるためには、まだまだ調査が必要です。最近、より容易に操作できるシステムのプロトタイプを作ったところで、これを使って広範囲にわたる調査が行えれば、と考えています」

最初は海底ケーブル敷設のために始まった、小島さんのロボット研究。それが今、絶滅が危惧される生物の保護に、結びつこうとしている。

文:藤麻 迪

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