2014/10/07

地域で暮らすことで「被災者の目線」が見えてくる 復興支援室の取り組みとこれから

活動開始から2年余りが経過したKDDIの復興支援室。「自治体への出向」という独自の形で、被災地自治体を支援してきた。その目指す支援の形とこれからの取り組みについて、KDDI復興支援室長の阿部博則に聞いた。

「復興予算を申請する余裕さえもない」という自治体を支援する

復興支援室の立ち上げは、震災から1年4カ月を経た2012年7月。当時、「他社に比べると少々遅かった」という声もあったのは事実だ。その理由を阿部は、「ICT企業にできる支援を考えた結果」だと語る。「震災直後の『復旧フェーズ』で求められる支援と、そこから町を再生してコミュニティーを作る『復興フェーズ』で求められる支援は異なります。私たちICT企業は復興フェーズからが支援の本番との認識があり、そのタイミングで取り組みを始めようという思いで組織を立ち上げました」。

KDDI復興支援室長の阿部博則

被災後のインフラ復旧や被災者の住む場所の確保といった復旧フェーズが一段落した当時のニュースでは、国が準備した復興予算が被災地で十分に活用されていないことが指摘されていた。「それは、予算に使い道がなかったわけではなく、当時の被災地自治体が人手不足で予算申請をできる状況ではなかったことや、住民の合意形成にはとても時間がかかるからです」と阿部は説明する。

復興予算を獲得するためには、まず、自治体から申請を行わなくてはいけない。しかし、自治体は復旧活動に追われている。そこで働く職員自身もまた被災者だ。人手も足りず、予算要求すらできない中では、復興フェーズを加速するICTの活用方法があったとしても、自治体が独力で手を付けるのは無理だったろう。「我々が自治体の中に入り、現実を自分の目でよく見て、その自治体に必要な施策を企画提案して、ICTを使ったより効果的でスピードの出る復興に貢献する。それが我々のやるべきことだと考えました」。

こうして、「自治体への出向によるICT支援」というKDDI独自の支援の骨子が固まった。メンバーは東北に住んだことがある、あるいは東北で仕事をしたことがある人を中心に、社内公募で4名を選定。このメンバーが、岩手県釜石市、宮城県気仙沼市、東松島みらいとし機構(宮城県東松島市)、宮城県仙台市へと出向し、現地に移り住んでの支援を始めた。

現地で一緒に暮らしているから、信頼してもらえる

釜石市内の商店街年末イベントで、タブレット端末の利用体験ブースを開設 =2012年12月27日、岩手県釜石市

支援活動を開始した当初は、復興のためのICT活用を提案しても、自治体は「そんなことを考える余裕はまったくない」状況だった。「提案を行うのであれば、まずは自治体の課題を把握し、業務を理解した上で使えそうなソリューションを提案しないといけないと認識しました」。現地に出向した4名は、「被災者と同じ目線」を心掛けながら、活動を開始した。気仙沼市の岩尾哲男と釜石市の石黒智誠は、当初から、そして今も仮設住宅で被災者と共に暮らしている。

自治体にとって重要なのは、「現地に導入後、現地の事情を理解した、必要なサポートを最後まで本当に行ってもらえるのか」。例えばタブレットを活用した高齢者の見守り事業を実施しても、タブレットを配布しただけでは一人暮らしのお年寄りには使いこなせず、結果として予算の無駄遣いと言われてしまう。加えて、自治体から「復興予算を目当てに東京から時々来て商売しようとしている」と思われてはいけないと考えていましたので、現地に人が行って現地で活動すると表明しました。復興に向けた業務を共にすれば信頼関係も深まりますし、ヒアリングのレベルも深くなります。

東北の復興は、日本が直面する課題解決の力となる

復興支援室が目指す「復興」を阿部はこう定義する。「現地で被災前のコミュニティーが再生し、住民の方がそこで快適に暮らしていけることはもちろん、大きな打撃を受けた産業が立ち直り、町が賑わいを取り戻し、かつて避難住民だった方々もそこで自立して生活ができる状況」。外部からの支援が続かなくては生活できないのは、復興ではない。

被災過疎地の茅野コミュニティー再生事業で古民家再生のための作業 =2013年9月28日、岩手県上閉伊郡大槌町

「もちろん時間がかかることですし、『震災後すぐに自立してください』と言ってもできるわけがありません。しかし、震災から3年が経ち、潮目が変わり始めています。災害公営住宅が整備されつつあり、住宅の再建は進みつつあります。そこで次に必要とされるのは、生活のための産業活性化です。そのためには我々ICT企業がまず知恵を出さなくてはなりません」

また、生活の視点で重要なのがコミュニティーの再生だ。「仮設住宅でコミュニティーを作っても、仮設住宅から災害公営住宅に移ると、またそこでコミュニティーを作り直さなくてはいけません。それは震災で失われたものを一つずつ新しい形で構築していく地道な活動です」。

東北地方は元々、震災前から、少子高齢化、人口減少など、今後の日本が抱える課題が先行してあらわになってきつつある地域だった。単に町を復旧させれば人が来る、というわけではなく、もともと存在していたこうした課題にも向き合わなくては、復興は完成しないとの認識を現地では持っている。「東北が復興できれば、日本中がこれから直面する課題を解決するための大きな力になると思っています。そのためにも、ICTでできることを、まず使っていただくタイミングだと思っています」と阿部は語る。

今後は、自治体で計画しているさまざまな建物や古民家再生などの事業にもICT導入を進め、また自治体の中でまず出向者がICTを活用し自治体職員にも広げていくことで、現地の人々の「ICT活用スキル」を上げていくことに取り組んでいく。「ICTの力で復興を加速できれば、高齢者や女性が産業に参画するきっかけになるかもしれません」と阿部はその意義を語る。東松島市に出向する福嶋正義は、産業創造プロジェクト「刺しゅうの街づくり」を任された。その参加メンバーには、タブレット端末を配布し、今では使いこなせるレベルにまで成長した。

現地での活動を通し、復興支援室のメンバーは、自治体内部だけでなく、住民、大学、産業関係者などとさまざまな人脈を形成している。仙台市では、市民や民間事業者等との連携で進められるエコモデルタウン事業の市側の担当メンバーに、KDDIから出向した加藤英夫が選ばれた。こうした重要な事業にメンバーとし参画できるのも、実際に現地に住んで一緒になって活動してきた中で培われた信頼がベースにあるからだ。

中学3年生向けに高校受験対策講座を開催し、タブレット端末を提供 =2013年3月3日、宮城県石巻市

「東京では、被災地で新たに建てられたきれいな建物や住宅の写真や映像で『復興』を報じますが、被災現地に行って360度見回してみれば、復興が進んでいるところと進んでいないところがあることはすぐに分かります。私たちの活動もようやく2年で、まだ十分ではないですし、これからは、KDDIのノウハウを更に生かせる踏み込んだ支援をしていきたいと思っています」

この4月からは、復興支援室に加わった花岡克彦が復興庁に出向し、自治体と国や中央省庁の間をつないだよりきめ細かな支援が可能となった。3年目となる活動、さらにその先の支援へ、復興支援室は意欲をみせている。

文:板垣朝子 撮影:斉藤美春

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