2015/02/18

「送信」ボタンを押す前に──ネットいじめを元から絶つには?

4月の進級・進学を機に、初めてスマートフォンを持つ子どもの親にとって、心配なのはLINEをはじめとするSNSやメールでのトラブルやいじめだろう。どこの国でも親の心配は共通しているようで、2013年には、米国マサチューセッツ州のある母親が、13歳の息子に初めてiPhoneをプレゼントした時に添えた手紙に書かれた「18のルール」が話題となり、日本でもその翻訳を紹介する多数のニュースサイトやブログの記事がSNSを通して多くの人にシェアされた。

その18のルールのうち3つは「言葉の使い方」に関するものだ。内容を要約すると「他人をばかにしたり騙したりすることには使わない。人を傷つけるような会話には参加しない」「友達に面と向かって言えないことはメール(あるいは他の機能でも)で言わない」「相手の親の前で大声で言えないような言葉はメールでも電話でも言わない」というもの。スマートフォンで友達とコミュニケーションする時には、言葉に細心の注意を払いなさいと何度も繰り返されている。

auの2015年春モデルとして発売されたジュニアスマートフォン「miraie(ミライエ)」に搭載された「あんしん文字入力」機能は、この手紙にもある「言葉に細心の注意を払う」というルールをスマートフォンの仕組みで実現したもの。子どもが相手を傷つけるような言葉を入力しようとしたら、「それは人を傷つけたりする可能性がある言葉ですが、本当に入力しますか?」と注意を促す。

これと同じような仕組みでネットいじめを止められるのではないかと考えていたのが、13歳から18歳までの子どもを対象にしたグローバルな科学技術コンテストである「Google Science Fair2014」の13-14歳の部でFinalistに選ばれた米国イリノイ州のTrisha Prabhuさんだ。

彼女の仮説は、思春期の子どもたちのネットいじめを防ぐには、SNSでの意地悪や、人に苦痛を感じさせるメッセージを減らすシステムが効果的ではないかというものだった。その仮説を検証するために考えたのが「Rethink」という機能だ。彼女がデザインした「Rethink」のプロトタイプは、ブラウザやSNSアプリの入力をチェックして、問題のあるメッセージを送信しようとした時に、「このメッセージは相手を傷つける言葉です。本当に送信しますか?」というメッセージを表示し、再考を促す。

実際にプロトタイプを使って、架空の相手を侮辱するような内容のメッセージを5種類提示し、そのメッセージを送信するかどうかを尋ねる実験を行った。12歳から18歳の合計1500名を対象にした実験では、一度はメッセージを送信しようとした子どもの93.4%が、Rethinkで再考を求められたことでメッセージの送信を中止したという結果が得られた。

Trishaさんは、Rethinkが「さまざまなSNSでいじめを元から絶つ」ために有効であることを示すのが次のステップであると考えている。この仕組みの優れたところは、新しいSNSやサイトが出てきても、同じ仕組みで対策できることだ。

TrishaさんがTEDxTeenで行ったプレゼンテーションの動画は日本でも大きな話題になったが、SNSでの会話やメッセージで深く考えずに使った言葉が原因でトラブルを起こすのは、子どもだけに限らない。私たち大人も、「メッセージは送る前によく考える」習慣を身につけるよう心掛けなくてはいけない。

著者:水島 みなと

IT系コンサルティングファームを退職後、フリーのITコンサルタントとして独立。エンタープライズICT分野を中心に執筆も行う。趣味は散歩、特に建物めぐり。最近猫を飼い始めて、ペット関連サービスの情報を収集中。