2015/01/09

【世界のドローン5】時速100kmで現場に駆けつける救急救命ドローン

救急ドローンの利用シーンと、アームを開閉した救急ドローン(Alec Momont氏提供)

日本でもAED(自動体外式除細動器)の普及は進んではきたものの、いざ救助しなければならない時、どこにあるのか分からない場合がほとんどではないだろうか。もし目の前で人が倒れた時に、その場を離れなくても救助者の元へ誰かがAEDを運んでくれたなら、救助できる確率が大きく高まるかもしれない。

そんなアイデアを実現するために、オランダのデルフト工科大学の大学院生だったAlec Momont氏が考案したのが、最高時速100kmでAEDを届けるAmbulance Drone(救急ドローン)である。黄色いボディから飛び出した3本のアームの上下に計6つのローターを持つ機体は、軽量化しながらも4kgの重量を運ぶことができ、AEDを内蔵している。EUでは救急車が現場に到着するまで平均して10分もかかるそうだが、脳死は心停止から4〜6分後に始まる。救急ドローンは12平方kmの範囲に1分以内に到着でき、AEDが必要な状況での生存率を、現在の8%程度から80%にまで引き上げられるという。

世界で合計600万回近く再生されたというビデオによると、ドローンは現場に到着すると左右のアームが格納され、上部にある取手の部分を持って患者の元へ軽々と運べるようになっている。ドローンそのものがAEDの機能を持っているため、本体から直接電極のついたパッドを引っぱり出して救助者の体に取り付ける仕組みだ。また、搭載されたカメラやスピーカー、マイクを通して遠隔地にいる専門家(緊急電話のオペレーター)と相互に連絡が取れるので、救助経験がなくても適切な対応ができる。AEDは救急ドローンが目指す機能の第一歩で、インスリンや酸素などの救急用具を運んだり、現場の様子をいち早く伝えるといった用途も検討しており、90%の救助効率を目指している。

Momont氏は、「DRONES FOR GOOD」と名付けられたのプロジェクトで、救急ドローン以外にも社会問題を解決するためのドローンの研究を続けている。救急ドローンの改良も進められいて、Facebookでの最近の投稿では、時速200kmで飛ばせるようになるかもしれないと書いている。最終的に、オランダ国内で3,000機の救急ドローンによるネットワークを構築することを目標としているが、救急用ヘリが1台あたり4〜5億円かかるのに比べれば、はるかにコストは安く、実現可能性は高そうだ。

著者:野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。