2014/10/28

サッカーの聖地、ウェンブリースタジアムがモバイル技術で生まれ変わる

Wembley with EE(EE)

スポーツ観戦中に、SNSやメールなどで友人と試合経過や感想を共有する人が増えている。ところが、ときには数万人もの観客が集まり、しかも同じタイミングで送信するという状況は、メッセージを伝えるモバイルネットワークにとっては非常に厳しい状況だ。そこで、国内外のスタジアムでは、携帯ネットワークの強化やWi-Fiの導入などを図っている。

サッカー・イングランド代表チームのホームスタジアムであり、サッカーの聖地とまで呼ばれるウェンブリースタジアムは、もともとは1923年に開場された伝統あるスタジアムだ。2007年に、サッカーだけでなくラグビーなどのスポーツやコンサートにも利用できる9万人収容の近代的な多目的スタジアムに建て替えられたが、モバイルネットワークの強化は喫緊の課題だった。そこで2014年2月にイギリスの大手通信事業であるEEと6年間のパートナーシップ契約を締結し、ネットワークの強化にとどまらず、最新のICT技術を取り入れ、世界で最も"つながった"スタジアムへと生まれ変わろうとしている。EE(名称の由来はEverything Everywhere〈何でもどこでも〉)は、オレンジUKとTモバイル、つまり、フランスとドイツの通信事業者が2012年に作ったジョイントベンチャーだ。

契約締結から9月までに、両者はウェンブリースタジアムに12の携帯電話アンテナを設置し、3G、4Gネットワークの容量を倍増し、高速Wi-Fiも導入。さらに今年末までに、4Gネットワークの速度を300Mbpsに高速化するとともに、イギリスでは初となる400Mbpsの4Gトライアルの開始、EE以外の携帯電話のユーザーも4Gネットワークを利用できるようにするマルチオペレーターシステムの導入などを計画している。

これらに加えて、多くの人で行列ができるチケット購入や入場、ハーフタイムにお客が殺到するスタジアム内売店のICT化も進める。既に入場ゲートにはNFC(近距離無線通信)が導入されているが、今後、モバイルチケットの販売、ファンのエンゲージメント向上のためスマートフォン用アプリの改善、アプリを使って席にいながらドリンクやスナック類を注文できるサービスなどの導入を進める。9月にはスタジアムに虹のようにかかるアーチに、高速インタラクティブLEDを228基搭載した。ゴールが決まった際などに大型のイルミネーションが空から祝ってくれたり、ソーシャルメディアでのファンの投稿などに応じて、どちらのファンが優勢か知らせてくれたりするようになる。

同じくイギリスの名門サッカーチームであるマンチェスター・ユナイテッドの本拠地、オールドトラッフォードでは、今夏からタブレット端末の持ち込みが禁止されており、これは動画撮影による著作権侵害対策とテロの危険を減らすことが目的といわれているが、ウェンブリーでは逆にスマートフォンやタブレットの使用が奨励されているような感さえある。クラブメンバー向けには、HD動画の配信サービスまで計画されているのだ。

ウェンブリースタジアムに限らず、アメリカの大リーグをはじめとして、野球場や競技場のIT化は国内外で進みつつある。スポーツを観戦しながら、テレビ中継のようなクローズアップ映像やリプレイも楽しめ、快適なネットワークで試合内容を友人たちとシェアしやすくなり、さらに未来のICTまで体験できるとなれば、スタジアムに行きたいという意欲も増すというものだろう。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。