2014/09/16

腰痛は世界共通の悩み? 背骨の動きを感知して姿勢を正してくれるウエアラブルデバイス Glazed カンファレンス現地リポート4

腰に貼り付けて使用する「UpRight」

UpRightの内部

デモ会場で実際にUpRightを試すカンファレンス参加者

イスラエルのスタートアップ、Uprightpose社が開発した"正しい姿勢を保つ習慣をつけるのを助ける"デバイス「UpRight」は、サンフランシスコで開催されたウエアラブル機器のカンファレンス・Glazedカンファレンスのデモ会場で注目を集めていたヘルス関連ウエアラブル機器のひとつだ。ライバルの商品があふれる中、多くの参加者たちが、このブースは素通りせずに、実際に商品の使い勝手をチェックしていた。「1日15分の使用で、正しい姿勢を取り戻しませんか?」という言葉が、日頃、何時間もコンピューターに向かって仕事をしているエンジニアたちにとっては魅力的なようだった。

「うちの祖母は、最近、年のせいか最近どんどん背中が丸くなってきちゃって。もうちょっと姿勢を良くしてほしいんだけど、これは腰に貼るだけだから、祖母にも簡単に使えて結構いいかも」と言うのは、地元サンフランシスコのシステムエンジニア、シャノン・フィウムさんだ。

手のひらよりやや小さめのこのデバイス。中に複数のモーションセンサーが埋め込まれている。そのセンサーが背骨の動きを感知し、背骨が真っすぐな状態でない場合は、振動で身体に伝えるという仕組みだ。

まず粘着シールを腰の部分に貼り付け、デバイスをそのシールの上に置くように貼り付ける。「スマートフォンのアプリと連動したプログラムに沿って、1日15分間、コンピューターなどの作業で机に向かっているときに、このデバイスを腰に貼ってください。これで姿勢に気をつけることを習慣にすれば、2〜3週間後には自然に猫背から卒業でき、正しい姿勢が身につきます。1日中ずっと貼り付けている必要もないんです」とUprightpose社マネージャーのオリ・フルハウフ氏は言う。

実際に腰にデバイスを貼り付けてみたフィウムさんが、姿勢を真っすぐにしたまま膝を曲げてゆっくりしゃがむ上下のスクワットの動きを実験したところ、デバイスは全く振動しなかったが、スクワットをせずに、ちょっと背中を丸めて猫背になっただけで、たちまちブルブルと振動した。背骨の動きだけを忠実に追うセンサーとその結果を分析するアルゴリズムを開発するのに同社は2年以上かけたという。

このデバイスは、じっとしている時だけではなく、歩いたり、ランニング中でもつけられる。姿勢を正しくする習慣をつけることで、腰の筋肉を強化し、腰痛から脱するのが、腰痛に悩む人にとってのゴールだと同社は言う。ただ、このデバイスは医療品ではなく、米国食品医薬局(FDA)の承認もないため、「腰痛を治せる」などとはうたえない。バッテリー寿命は4日間で先行予約価格は89ドル。重さは30グラムだ。

「スマートフォンの専用アプリを通し、自分が姿勢に気をつけていく過程がデータで見られるので、姿勢が悪くて悩んでいた人には励みになる」と同社。睡眠トラッカーなどで睡眠時間を毎日記録しても、外見に現れる変化はそれほどないが、目に見えて変化が分かる姿勢という部分を自分でコントロールできるようになる嬉しさは大きいとフルハウフ氏は言う。

オーストラリアの大学の最近の調査によれば、「腰痛」は世界中の労働者にとって「それがあるために働けない理由のトップ」であり、世界規模では10人に1人が腰痛に苦しんでいるという。また、米国では「腰痛」がかぜなどの他の理由を抑えて、欠勤理由のトップでもあるという。

腰痛にならないようにするには、姿勢を正しくするだけではなく、背中や腰、腹筋などを地道に強化するのが効果的だとされているが、エクササイズするよりは、マッサージで痛みを緩和したいという人も多い。米国労働省では、マッサージセラピストの雇用は2010年から2020年の間に20%増えるだろうと予測し、これはどの業種の雇用よりも大きな伸びになるはずだと見ている。

UpRightはアメリカを中心にクラウドファンディングで資金を15万ドル以上集めることに成功した。同社のプレゼンテーションで目立ったのは、初対面の人とのビジネスミーティングや就職面接などで、背筋をすっと伸ばして、自信を持って自己紹介する姿が、あなたの印象にとって大きなプラスになりますよというメッセージだ。

お辞儀と名刺交換が主流の日本のビジネス文化と違い、お互いが胸を張って、にっこり笑って固く握手し合うという米国のビジネス文化では、背中が丸まっていると弱気な印象を相手に与える可能性があるだけに、ノンバーバルなコミュニケーションに着目した同社のアピール法はうまい。また、ライバル商品に比べ、付属のひもや上半身につけるモニターがいらず、デバイス単体だけを腰に貼り付ければいいという簡単さが、アプリを使わないような高齢者にも受けそうだ。

著者:長野 美穂(ながの・みほ)

ジャーナリスト。早稲田大学卒業。出版社勤務を経て渡米、ノースウェスタン大学大学院でジャーナリズムを専攻。ロサンゼルスの新聞社で記者を務めた後、フリーのジャーナリストとして活動。