2014/08/28

救急車が到着する前に、アプリで近くにいる人に救命活動を依頼

アメリカや日本、そして世界各国で、一般市民に講習を受けてもらって、胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ)やAED(自動体外式除細動器)の使用方法などの心肺蘇生法(CPR)を習得してもらう取り組みが行われている。AEDを随所に配備しても、近くに使い方を知った人がいなければ何の役にも立たないからだ。

だが、せっかくCPRのトレーニングを受けていても、偶然近くを通りがかったというのでもない限り、近所で人が倒れたことを知るのは難しい。アメリカでも日本同様、911番などで緊急通報を受けると現場に救急車などが急行するのだが、交通渋滞などもあって平均で9分程度はかかってしまう。

アメリカ・ロサンゼルス郡の消防局は、「パルスポイント・レスポンド(PulsePoint Respond)」という無料のスマートフォン用アプリを救急指令システムと連動させた。このアプリは、消防に入った緊急通報電話に基づいて、消防士や救命隊員を派遣する指令が出されるのと同時に、急病人の近くにいるCPRトレーニングを受けた一般市民にも、近くにCPRを必要とする人がいることを伝えてくれる。その位置に加え、近くにあるAEDの設置場所も、地図や航空写真で表示してくれる。市民の力を借りることで、一刻を争う急病人が助かるチャンスを大きくしようという、いわば救命手当のクラウドソーシングである。

パルスポイントは元消防署長らが作ったNPOとAEDメーカーなどが協力して開発している。初めてこのアプリを導入したのは北カリフォルニアのサンノゼで2年前のこと。最近ではサウスカロライナ州アーカンソーや南カリフォルニアのサンディエゴでも導入されているそうだ。

アメリカやカナダなどには「善きサマリア人の法」と呼ばれる法律があり、倒れた人などを善意で助けようとした人が、かりに首尾よく助けることができなかったとしても、結果に対する責任は問われないことになっている。善意で手を差し伸べようにも、相手やその家族から訴えられるリスクがあれば、手を差し伸べにくくなってしまうためだ。一般市民が積極的に救急救命活動に手を貸すためには、こうした法律の整備も大切だと思われる。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。