2014/08/26

Indiegogo創設者が教えるクラウドファンディングで世界中から資金を集めるコツ Glazedカンファレンス現地リポート2

Indiegogoの創設者であるダナ・リングルマン

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ソーラーロードウェーズのプロジェクトページ

クラウドファンディング・プラットフォームの老舗で、これまでに世界中の起業家たちに巨額の資金調達の道を提供してきたIndiegogo。その創設者が、起業家たちの資金集めの成功と失敗をつぶさに見てきた経験から「クラウドファンディング利用の必勝法」をGlazedカンファレンスで語った。

クラウドファンディングという言葉がまだ一般に知られていなかった2008年に、Indiegogoを立ち上げたのが、ウオール街の金融機関出身のダナ・リングルマンと、その仲間たちだ。「ハーバード卒でもなく、シリコンバレーからも遠いところに住んでいて、コネも人脈もお金もなく、ベンチャーキャピタルへのアクセスからは閉め出されている。でも自分たちの商品を世の中に広く普及させたい情熱を持っている──そんなアントレプレナーたちに資金集めの場を提供したかった」とリングルマンは言う。

同業のKickstarterの場合、一定期間内に最初に掲げた資金目標額に達成しなかったプロジェクトは資金を1ドルももらえない、いわゆる「オール・オア・ナッシング」型だが、Indiegogoは、かなりフレキシブルだ。目標額を達成できなかった場合は、出資者らに資金を全額返す方法と、9%の手数料を払い、集まった額だけ受け取る方法のどちらかを選べる。「Indiegogoは規制をガチガチにしなかった分、国境を越えて、世界中から資金が集まるのがポイント。自由な発想の幅広いプロジェクトを支援する『クラウドファンディング界のYouTube的存在』を目指している」と彼女は言う。

基本的には18歳以上なら誰でも資金を募るプロジェクトを立ち上げられ、親の許可と監督があれば13歳から参加できる。最近の大きな成功例は、アイダホ出身のスコットとジューリーという2人のエンジニアのカップルが立ち上げたプロジェクト「ソーラーロードウェーズ」だ。自分たちで開発した六角形のソーラーパネルを、既存の道路やアスファルトの駐車場の地面にタイルのように埋め込んでいくという計画だ。

リサイクル強化ガラスでコーティングしたソーラーパネルを道に埋め、太陽エネルギーを利用して蓄電。その熱で道に積もった雪を溶かすことができるという。さらに、パネルに内蔵されているモーションセンサーとLEDライトで、田舎の暗い夜道でも、岩や木などの障害物の存在や、鹿などの動物が道を横切るのを蛍光ライトでドライバーに知らせる機能も。大自然の生活の中で撮影された2人のプロモーションビデオは、素朴で地域の生活に根差しており、パネルの利用法もなるほど、とうなずける点が多い。

代替エネルギーを求める人々の多くの賛同を得て、2カ月間で当初の目標額100万ドルの2倍以上の220万ドルの資金を4万8,000人以上の人々から集めることに成功した。資金を寄付した人々の名前をソーラーパネルに彫り込み、そのパネルを建設中の駐車場に埋め込むというおまけもついてくる。

「アイダホの2人のエンジニアが、10年以上コツコツ研究を重ねて開発してきた独自のソーラーパネル。彼らにはベンチャーキャピタルへのコネもなかった。銀行などを通したら資金繰りが厳しいこんなプロジェクトが、世界中から圧倒的な支持を得て大成功した。これはクラウドファンディングならでは」とリングルマン。

Indiegogoのサイトのソーラーロードウェーズのページには、資金援助者から3,000以上のコメントが書き込まれており「時間を無駄にしないで、早く商品化してほしい」「道路用だけじゃなく、屋根用のパネルも作れないかな」などのさまざまな意見が交わされ、ディスカッションの場となっている。援助を受けるスコットとジューリーも、それぞれの意見に答えたり、商品化に向けてのアップデートを知らせる書き込みをしている。投資する側と、投資をしてもらう側の間のカジュアルで活発な意見交換は、コミュニティーのようで、それこそが、クラウドファンディングの醍醐味だ。

リングルマンはこう言う。

「クラウドファンディングで誰かのアイデアに投資しようと考えるような人は、新しいイノベーションで世界を変える可能性のある、ワクワクするようなプロジェクトに参加したい気持ちを強く持っている。でも、実際は安定した会社勤めを辞めて、自分でリスクを取って起業するようなことはできない人が多い。だから、資金を集めたいなら、そんな彼らに『プロジェクトに参加している手応え』を分け与えて、彼らの心にくすぶっている起業家精神に火をつけるのが一番」

つまり、単に資金だけを求めてもダメで、数日ごとに進捗状況のアップデートを送り、意見を募り、どうやったら商品を改良できるか尋ねて、彼らもチームの一員なのだと思わせたら勝ちというわけだ。

そのほかにも、リングルマンがここ数年間で見てきた成功例には、以下のようないくつかの共通点があるという。

・たった1人で起業するより、チームでエントリーした方が圧倒的に信用を得やすく、資金も集まりやすい。

・プロモーションビデオを作る際に、製品の説明だけしてもダメ。商品を開発した背後のドラマやストーリーをこそ誰もが知りたい。なぜ起業家がそのプロジェクトに必死になって情熱を注いでいるのか、その理由を具体的に説明して、その情熱と夢を多くの人と分かち合うことが重要。

・クラウドファンディングのコミュニティーを市場リサーチの場としてうまく活用できると、ベンチャーキャピタルなどの既存の投資家組織からも資金を引き出しやすくなる。商品の価格、色、使い勝手などを、実際に市場に出す前に、多くの人から意見を募って改良できる。例えば、20ドルなら欲しがる人は少なくても、ちょっと下げて15ドルなら買いたい人はかなりいるというようなことも分かる。また、同じ商品でも、米国とオーストラリアなど違う地域では価格に対する消費者の反応もかなり違うなど、各国からのフィードバックが役立つ。

最近では、ベンチャーキャピタルも「あなたの商品に投資したいと思っているが、まずIndiegogoで資金を集めるプロジェクトをやってみて、どれだけ需要があるのか見せてくれ」という場合も増えているという。

TechCrunchの記者が、「例えばロケット開発プロジェクトがあったとして、科学的に本当にそのロケットは飛ぶのかどうかなどの証明はどうやってするのか? 資金だけだまし取る嘘のプロジェクトを排除する方法はあるのか?」とリングルマンに尋ねた。

彼女いわく、「電話が無かった時代、海を隔てた人々が瞬時に会話できるなどというコンセプトは、ほとんどの人にとっては信じ難かったはず。それでも電話を開発した人はいた。私たちはプロジェクト主催者の会社組織やその裏付けがきちんとしているかはもちろん調べるが、科学の面に関して口出しすることはない」とのこと。締め付けをきつくすれば、それだけイノベーションの粗削りな勢いがそがれる、というのがIndiegogoの考えのようだ。

「個人の利益追及というちっぽけな範囲を越えて、世界の人々に何か大きな解決法を提供できるようなスケールの大きなプロジェクトに援助が集まりやすい。大きな心意気を持った人間に投資したいという人が多い。結局は起業家自身がどういう人間かが、一番問われるのが、クラウドファンディングの世界」とリングルマンは締めくくった。

著者:長野 美穂(ながの・みほ)

ジャーナリスト。早稲田大学卒業。出版社勤務を経て渡米、ノースウェスタン大学大学院でジャーナリズムを専攻。ロサンゼルスの新聞社で記者を務めた後、フリーのジャーナリストとして活動。