2014/08/14

スマートフォンがホテルのルームキーに

ヒルトンが導入するスマートフォンでのチェックインのイメージ(Hilton Worldwide

ネット予約の普及で、ホテルのチェックインは一昔前に比べるとずいぶん簡単になった。だが、部屋番号や朝食の時間と場所を教えてもらい、ルームキーを受け取らなければならないので、空港からのバスが到着すれば、フロントに列ができることには変わりがない。

アメリカのホテルチェーンでは、スマートフォンをホテルのルームキー代わりに使おうという動きが数年前からあり、準備が進められていた。オンラインで部屋を予約しておくと、チェックイン時にフロントに並ばなくても部屋番号がスマホに届き、部屋に直行することができる。専用のアプリをインストールしておくと、スマホがルームキーになって、ドアのロック部分にかざすと開錠できる。フロントの人件費も削減できるし、宿泊客の手間も省けるというわけだ。

鍵の開け方としては、さまざまな技術が検討されている。暗証番号で開錠できる錠を使い、スマホに暗証番号を送るという方法が簡単そうだが、桁数の大きな数を毎回入力するのは面倒だし、背後から人に簡単に読み取られてしまう危険もある。そこでNFCなど無線を使うアプリを作ったり、中にはスマホのスピーカーから特殊な音を出して、その音を鍵にする試みもある。方式の選定には利用者の利便性と安全性のバランスを考慮する必要がある。いずれにしても、アプリの開発費だけでなく、ドアの錠の交換が必要だから、全室に導入するとなると投資額も大きくなる。

大手ホテルグループのヒルトン・ワールドワイドは、2015年から、スマートフォンを使った予約とルームキーのサービスを導入開始すると発表した。手始めに、中規模のヒルトン・ガーデン・インから豪華なウォルドーフ=アストリアまで、アメリカ国内の6つのブランドのホテルで、スマートフォンで階数と位置や内部の写真を確認しながら部屋を選んでチェックインできるサービスを、今年の夏の終わりまでに開始するそうだ。ルームキーにどのような方式が採用されるのかは未公開だが、投資総額は5億5,000万ドルにも及ぶとする報道もある。

スマートフォンを鍵にする技術の導入は、カード式キーが導入されて以来の大きな動きであろう。技術革新には、本当に最新の技術を導入すると、利用者が少ないため導入効果が薄く、ある程度以上に普及した技術を使うと、利用者は多いが陳腐化までの時間が短いというジレンマがある。2016年ならヒルトンに泊まる人のほとんどがiOSかAndroidの端末を携行していると思って間違いなさそうだ。だが、2020年にも人々が持つ端末の形が現在のようなスマートフォンのままなのか、最近のウエアラブルに向けた潮流を見ていると、断言するのは難しいかもしれない。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。