2014/07/25

ハロー、シェフワトソン!

2011年設立のハローフレッシュ(HelloFresh)(ニューヨーク)は、料理のレシピと食材を毎週配達してくれるサービスを提供しており、月間100万食を宅配する勢いのあるベンチャーだ。提供地域はアメリカの東海岸から西海岸に向けて拡大中で、人口の75パーセントをカバーする計画が進行している。ドイツ、オーストリア、イギリス、オランダ、オーストラリアにもすでに進出していて、欧州では黒字化している地域もあるそうだ。

2人あるいは4人の食事3回分のレシピと食材(真空パックの肉や生野菜など)が週に1回届けられるサブスクリプションモデル(加入契約モデル)の定額制で、料金は1人1食分当たり9ドル8セントから。レシピは専用に開発されたもので、30分から長くても45分程度で、自宅にある器具だけで調理できるよう工夫されている。手軽ながらもレストラン並みのおいしい料理が誰でも作れるという触れ込みだ。冷凍食品を電子レンジで解凍して食べるよりも高価だが、確かに新鮮なものを口に入れることができそうだ。日本では「夕食食材宅配サービス」として以前から利用されてきたサービスだが、アメリカでは今、注目されているようだ。

このディナー・キット・デリバリーには、すでに競合が存在している。ブルーエプロン(Blue Apron)やプレイテッド(Plated)など、いずれもニューヨーク生まれのベンチャーだが、ブルーエプロンは4月に5,000万ドルの資金調達に成功している強敵だ。ちなみに、ハローフレッシュも6月に5,000万ドルを調達した。

こうしたレシピ付き食材の宅配には、2つのカギがある。ひとつはロジスティクス。必要な食材を必要なだけ、必要な時期に生産者から調達して無駄なく届けなければならないからだ。食材を余らせて廃棄しているようではコストがかさんで立ち行かない。そしてもうひとつは、素人でも短時間に調理できておいしい、食材を生かしたレシピの開発だ。

レシピの開発といえば、IBMの「ワトソン」が助けてくれるかもしれない。ワトソンは質問に回答してくれる高度な人工知能で、2011年にはアメリカの人気クイズ番組「ジョパディ!(Jeopady!)」で、人間のクイズ王を破ったことで評判になった。その後、医療などへ応用範囲を広げていたが、2014年6月末にIBMはワトソンに家庭料理のレシピ作りをさせるアプリケーション「シェフワトソン(Chef Watson)」のベータ版を公開した。

クイズ番組に挑むに当たっては2億ページ分のテキストデータを読み込んだワトソンだが、レシピ作りに向けてはアメリカで人気の料理雑誌"Bon Appetit"の持つ9,000のレシピを取り込んで、料理スタイルや材料の組み合わせを学習したそうだ。

アプリは、利用者にどんな料理をどんな材料で作りたいのか聞いてくる。それに基づいて、シェフワトソンは膨大な組み合わせを作り出して、上位100のバリエーションを提示してくれる。

中には、相当"実験的"なレシピもあるようだが、人が生み出す新しい料理も、結局のところは食材と調味料と調理方法の組み合わせで、支持者の多いレシピが生き残っていると考えれば、人工知能が生み出すレシピの中に、明日のご馳走が含まれていることは間違いなさそうだ。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。