2014/06/20

日本発の低炭素な超小型電気自動車、国際環境賞『エネルギーグローブ賞』を受賞

デモ走行に出発するP.C.D.

授賞式に臨むソーラーカーチーム・プロミネンスの仲間たち

2014年5月、エネルギーグローブ国別賞2014(日本)の授賞式が、東京都港区のオーストリア大使館商務部で執り行われた。受賞したのは、長野市に本拠を置くソーラーカーチーム・プロミネンスの「エネルギー自立可能な電動超小型モビリティシステムP.C.D. (Prominence Commuting Device)の実証」だ。

エネルギーグローブ賞(Energy Globe Award)は、1999年にオーストリアで創設された国際的な環境賞で、「環境部門のオスカー賞」としてヨーロッパを中心に広く知られている。環境やエネルギー問題の解決に向けての画期的なアイデアや活動に対して贈られ、毎年世界160カ国1000件にのぼる応募の中から、グローバルな視点で優れた環境ソリューションや省資源プロジェクトなどが選ばれる。世界賞のほか、国ごとに選ばれる国別賞がある。今回、チーム・プロミネンスが受賞したのはこの国別賞だ。

「鉄道よりもエコな自動車を目指した結果、エネルギーベースで見ると自転車よりもエコな乗り物が実現しました」と説明するのは、プロミネンス代表の宮村智也さん。

P.C.D.は、一言で言えば、一人乗りの電気自動車。幅72cm×長さ249cm×高さ110cmの車体の総重量は104kg。動力は出力わずか500W(約0.7馬力)のモーターで、搭載した電池(初期は鉛蓄電池、2012年よりリチウムイオン電池)から電力を供給する。バッテリー容量は1.3kWhと、現在市場に出ている電気自動車の10分の1以下に抑えられた。小規模な太陽光発電などのクリーン電力だけで十分賄える水準だ。極限まで軽量化するなどして走行効率を高めた結果、最高時速80km、またフル充電で125kmの距離を走り抜けることが実証されている。原付のカテゴリーで車両ナンバーも取得しているため、普通車に混じって公道を走ることもできる。

自転車で走る場合、"動力"である人間のエネルギー源である食糧生産にまでさかのぼって環境負荷を計算すると、人ひとりを1km移動させるときに排出するCO2は20.6gになるという。これに対してP.C.D.では、燃料資源採掘から発電プロセスまでを含めたCO2排出量は1km当たり16.9g。まさに、「自転車よりもエコ」な乗り物なのだ。

開発には、日本が誇るものづくりの技術を駆使......と思いきや、ほとんどのパーツはネット通販でオーストラリア、中国、カナダ、アメリカなどから取り寄せた。強化プラスチックのボディは、ペダルをこいで走る人力駆動車(Human Powered Vehicle=HPV)用のフェアリングを転用、フレームもHPV用のものに、電動自転車用のモーターと蓄電池、管制用のPCシステムを組み込んだものだ。

社会人中心のプライベートチームでも、世界に誇れる高効率な電気自動車を製作できたのは、インターネットで世界中から最適なパーツを自由に取り寄せ、組み合わせることが可能になったからだ。P.C.D.は、ネット時代のモノ作りの最先端をいくプロジェクトともいえる。

コックピットには人ひとりが体を伸ばして座れるだけのスペース。流線型の車体は未来的でスタイリッシュ。2009年の開発以来、公道で走行試験を繰り返したほか、2012年には秋田県大潟村で開催される国内最長のソーラーカー耐久レース「ワールド・グリーン・チャレンジ」に出走し、好天に恵まれたこともあって3日間延べ20時間32分で875kmを走破している。電池はあらかじめ充電しておくため、ピットに設置した出力557Wの太陽電池で発電した電力で走行した距離はこのうち546kmで、太陽光のみで1日当たり平均182kmも走行できたことになる。

授賞式のあと、会場前の公道でテスト走行も披露された。電気自動車ならではの静かさの一方で、車高が低いため、運転者が感じるスピード感はなかなかのものらしい。会場では「市販される予定は?」との質問が相次いだが、いまのところその予定はないという。実は、P.C.D.の製作方法は雑誌『トランジスタ技術』(2011年8月号)にも掲載され、オープンアーキテクチャとして公開されている。市販の部品のみで製作したのも、誰でも作れることを意識したからだ。宮村さんらは、むしろ多くの人のチャレンジによって改良されていくことに期待していると語る。

もちろん、ここまでの小型化・軽量化が即、現在の社会に反映されるわけではない。質量当たりエネルギーで、電池とは比べものにならないガソリンを燃料にする車と同じだけの大きさ、出力、空調などの快適性を、そっくりそのまま電気で実現するのは難しい。「電気自動車を作るなら、発想の転換が必要なんです」。

P.C.D.が示しているのは、車でもない、バイクでもない「未来の乗りもの」という、ひとつの新しい方向性なのだ。

小野 蓉子(おの・ようこ)

動植物や衣食住を中心に、身のまわりのサイエンスを掘り下げるフリーライター。趣味の稲作家としてのキャリアは長く、地域コミュニティのあり方にも興味をもっている。